新規事業コンサルが新規事業コンサルを自己否定してみる note
本コラムは以下の方にご一読いただくことをオススメします。
・新規事業にどう取り組めばいいかわからず、手段を検討している
・新規事業コンサルに発注する前
・新規事業コンサルに発注しているが成果が出ていない
・さまざまな新規事業の取り組みをしてきたが、一度振り返りたい
など。
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大企業の新規事業ブームの盛り上がりは、コロナ禍に入っても冷めやらない状況が続きます。雨後の筍のように「新規事業コンサル」を行う企業が特にここ5-7年で急速に立ち上がってきています。
VUCAの時代と呼ばれ、未来が不確実な中で、コロナ禍に入りその不確実性がさらに高まり、新規事業に取り組まなければならないという機運が、経営層から現場まですべてのレイヤーで高まっているのでしょう。
それと同時に新規事業に取り組むための組織体制や人材の不足から、外部に知見を求める流れとなっています。
しかし、新規事業というものは本当に、外部の力を使えば創れるのでしょうか。
ボクがいわゆる新規事業コンサルと呼ばれる職に初めてついたのが13年前の2008年。その後スタートアップでの事業開発、マーケティングの経験を重ね、5年前の2016年から再びいわゆる新規事業コンサルという仕事に戻りました。
新規事業開発経験15年、いわゆる新規事業コンサル経験延べ7年を踏まえると、新規事業コンサルの存在そのものに甚だ疑問を感じるのです。
そこで本稿では、いわゆる新規事業コンサルという立場から、新規事業コンサルを自己否定することに試みてみたいと思います。
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まず初めにいわゆる「コンサルタント」という職業を定義をしてみます。
Wikipediaによると「業務における問題の発見・解決策の提案・業務の改善の補助、経営戦略への提言などを中心に、企業の様々な業務を効率化するための提案する」ことを、コンサルティングとしています。
そのうえで、コンサルタントが提供する価値(≒ソリューション)は大きく分けて3つに分けられます。
① 一般化、体系化、構造化されたプロセスやフレームワーク
② 既存事業及び未知の新領域に対する、マーケットや業種業界、法令や法改正などに関する客観的な情報
③ 社内の前例や政治的なしがらみを排除した、卓越した頭脳や経験に基づく、第三者的な分析及びアドバイス
新規事業コンサルに当てはめるならば、当然のことですが新規事業という領域において、これらの価値を提供することが新規事業コンサルの仕事といえます。
しかしこの価値は新規事業において本当に必要なものなのでしょうか。
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まず①について。確かにこれが正解だといわれるプロセスやフレームワークは、その裏に多くの成功失敗の事例があり、それに基づいて積み上げられたものでありますので、知識として必要です。それによって失敗確率を下げることはできるでしょう。
しかし、フレームワークには欠如しているものがあります。それは個別事象によって起こる「ウェット」な部分です。
組織によって異なるものであり、価値観によって異なるものであり、文化によって異なるものであり、マーケットによって異なるものであり、人によって異なるものです。
成熟期に入った事業では、長い年月の中で試行錯誤を経てたどり着いたオペレーションに基づいて事業が執り行われています。つまり、そこではある程度フレームワークに基づいて事業を考えることは可能です。
しかし新規事業は、ターゲットとする顧客やマーケットそのものが新しい事はもちろん、そこで組み上げるビジネスモデルが既存事業の既存組織からすると未知の領域です。そのため、オペレーションそのものも新たに組み上げる必要性が、全部でなかったとしても出てきます。
つまり新規事業というものは、完全に一般化して語ることは不可能なのです。
ここに新規事業コンサルなる立場の人間がどこかで成功したものを持ち込んだところで、必ず不具合は出てきます。それを強引に推し進めれば歪みやハレーションが生じ、新規事業の失敗要因になってしまうのです。
安易に他社の成功したフレームワークを持ち込む事はお勧めしません。独自のフレームワークを持っているということを語るコンサルタントを信用してはなりません。
新規事業において到底フレームワークなど役に立たないことを語らない新規事業コンサルは、それに気づいていないか、気づいていてあなたたちを騙そうとしているかのいずれかです。
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次に②について。客観的情報の提供は、半分役に立つが半分役に立たないと言うことを理解する必要があります。
新規事業の定義にもよりますが、基本的には新規事業というものは「既存事業において当たり前と呼ばれるものを否定し、未来の当たり前を構築すること」が求められています。
ここにコンサルが提供する情報を当てはめて考えてみるとわかりやすいかと思いますが、あくまでコンサルが提供する客観的な情報は、現在のマーケットにおけるものに過ぎません。
未来の「当たり前」を定義するために必要な事は3つです。
i) 現在の業界構造の中で提供している価値とそれによって解決できている課題、それでもなお残る残課題を知ること
ii) 一般化された情報ではなく、そのマーケットの生活者(最終消費者や最終受益者)がそこでどういう行動をしているか。そこで顧客の理解から外れている(顕在ではなく潜在の)が、本質的に求める価値=インサイト
iii)それを提供することによって訪れるあるべき未来=ビジョン
結局のところ、コンサルが提供する客観的な情報は、もちろんそれを知る事は必要ですが、見つめているだけで事業が生まれる事はありません。
そして③はいわずもがな②と同様に、第三者的であっても「過去」から「現状」に対する分析をいくらしたところで、過去からの延長の未来を予測することしかできず、イノベーションによって幕が開けるジャンプアップした未来は描けないのです。
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新規事業コンサルは全く不要なのかと言われればそうとも限りません。
新規事業において必要な事はコンサルタントの頭脳よりも、徹底的な三現主義と行動です。この行動を伴わないコンサルタントに依頼をしても新規事業が作られる事はありません。
逆にいえば、行動を共にする人は必要なのです。
1. 頭脳と経験があってリードしてくれるファシリテーター
2. 共に行動を泥臭くしてくれる伴走パートナー
3. 目指すべきビジョンを違えど、互いを高め合える共創パートナー
など。
とにかく行動を共にする人というのは必要です。シンプルに社内に行動を共にする人がすべてベストマッチで揃うことがないので、外部に人材リソースを求める必要があります。
デザイン思考やリーンスタートアップなどこ一般的な正攻法を理解し、その上で「ウェット」によって起こる歪みを理解し、それらを踏まえた上で守破離のプロセスを共に考え、その企業に適切となる組織体制や戦略、制度設計等や、事業創造をファシリテーションする。
圧倒的な行動を、圧倒的なパワーで、多少強引にでも、多少業界のルールを破ったとしても前へ前へと進むために、生活者の幸せを第一に前へ前へと進んでいく。顧客インタビュー然り、プロダクトの設計然り、UXの設計然り、企業ではできないことも役割分担したうえでそのボールを拾って、伴走する。
自らの強みと弱みを理解したうえで、そのアセットを掛け合わせて化学反応を起こし、ビジョンの実現を共創によって目指す。
人は一人では生きられない生き物です。特に予期せぬ未来の扉を開き、今よりもより良い世界を目指すイノベーションを志すのであれば、外部の力を借りる事は必要不可欠といえます。
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いずれにしても、新規事業コンサルの提案をそのまま受ける事はやめましょう。何を目的に外部の力が必要なのか。それを明確にしたうえで、その目的に合う力を探し求めましょう。
自分たちがやらなければならないことを、特に今できるようにならなければならない事をまず理解し、その上で外部のパートナーにお願いすべきことを明確にしたうえで、適切な実績を持つ外部パートナーを選定すべきです。
こういった話をしないもしくはできない新規事業コンサルは、自覚があるないにかかわらず、仕事の仕方はクライアントファーストであり、実態としては本質的に求める価値を提供しない欺瞞に満ちた提案しかしていないということです。
本稿は新規事業界隈に蔓延るそういった偽物のいわゆる新規事業コンサルを駆逐し、大手企業の新規事業が真っ当に、健全に行える環境を作りたいと思い、その一助になればと筆を取った次第です。
このボクの感情と行動を、とある人は「自分の惚れている女性がホストクラブにハマっていて、ホストクラブ通いをやめさせたい人」のようだと表現しましたが、言い得て妙です。
ボクはスタートアップ村出身ではありますが、スタートアップが作る未来への可能性を信じるのと同じ位、いやそれ以上に大企業における新規事業の可能性を客観的に見てきて、心の底から信じています。
日本がこのまま沈んでいくことを甘んじて受け入れるのではなく、それを止めるだけにとどまらず、日本から世界をより良くするためにイノベーションを起こしていく。そのためには、大企業の力は欠かせないのです。
質の悪いホストに騙されないでください。正しい目的と正しい認識と正しい理解と正しい知識をもとに、あなたにとって正しいパートナーの選定を目指してください。
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もし新規事業でお悩みのことがありましたら、相談に乗りますのでぜひご連絡くださいませ。
▼問い合わせフォーム
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