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京(音楽詩)  豆花と子犬

※この作品は渥美幸裕氏に許可をもらって私が曲に合わせて作った詩です

京(豆花と子犬)

柔らかに降り注ぐ
春の日差し
芳しい香りが漂う小路を
豆花は白い下駄を鳴らして
軽やかに歩いている

振袖が風に揺れる

淡い桜色の着物は
金糸で織られていた
だらり帯に
色とりどりの天然石の帯留
美しく結い上げた髪には
春の花々を象った
華やかなかんざし

道行く人々は
皆 目を奪われる
人々の視線を
感じている
うら若い娘には
こうしたことは
まだとても恥ずかく
緊張するものだ

川端通をタクシーで
降りた時から
白い子犬が
ついてきている
少しケガをしている

衣装を汚すわけにはいかない、、、
地面は昨夜の雨で少し
ぬかるんでいる

かわいそうそやけども
あたしがかうわけには 
いかないし
おきものよごれたら
おかあはんにしかられるし
どないしよう

豆花が途方に暮れて
川沿いに佇んでいると
フラノのスーツを着た
初老の紳士が現れた

「お嬢さん お困りのようだね 
私は近くの獣医だから 
この犬を治療してあげるよ」

ごしんせつにおおきに
ほんまによろしいのどす か
じゅういはんなんどすね

「神戸で獣医をやってる 
最近はそんなに忙しくないからね
心配しないで」

よろしければおなまえと
れんらくさきをおせてください
なおったらおかあはん
にどなたかしょうかいしてもらいます

獣医は名刺を渡した

「あまり気にしなくていいよ 
しばらくは家に置いておくけど
連絡がなかったら
もらってくれるところを私も探すから」(下につづく)

花見小路のお座敷は
東京の建築家と
アメリカのデベロッパーが
それぞれ2人ずつだった
豆花の可愛らしさと踊りを
大層、気に入ってもらえて
宴会のあと
白川の桜の見える
バーに誘われた

豆花は桜のライトアップを
眺めながら
今日の子犬のことを話した

偶然にも東京の建築家の1人が
知っている獣医だった
彼は 神戸の山本通りの出身で
近所でも評判の獣医さんだという 

よかった 

と豆花は
胸を撫で下ろした

3週間後 
すっかり桜は散っていた
豆花はお昼前に電話をかけた

なおりましたか 
よかった
きょうとだいがくのせんせいで
ちょうどかつていたねこが
おなくなりになったかたが、
いらっしゃって
かっていただけるようなんどす

どちらにうかがえばええどすか

わかりました
しらかわすじの
やまとばしに
さんじにまいります

子犬はすっかり
元気になっていた
豆花が抱くと
子犬は豆花の鼻を舐めた

こんどおざしきによんでかださいね
きっとですよ
それまでにせんせいの
きにいってもらえるような
あたらしいおどりを
おぼえておきます

紳士はうなづくと
「じゃあ お元気で」
と言って
東山の方に
急足で
歩いて行ってしまった

豆花は
お茶でも誘おうかと
思ったけど

子犬もいるし
明日電話して
もう一度お礼をしよう
と思った

、、、、、

2人が夙川で一緒に暮らす
2年前の出来事である

今は川沿いの
瀟洒な家で
2人で暮らし
白い犬を飼っている
 

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