外資系SaaS企業で実際に運用されているテクノロジーと生成AIを基盤としたインサイドセールスのオペレーション
こんにちは。山梨(@device0462)です。
2024年2月20日に以下のイベントに登壇させていただきました。前職の外資系SaaS企業でのインサイドセールスの経験をメインでお話させていただきましたので、そちらの内容を本noteでも解説いたします。
生成AI×インサイドセールス〜外資系IT企業出身者が実践する最先端のインサイドセールスとは〜
前職の外資系SaaS企業では、入社してすぐに本社で利用しているセールステックのライセンスが付与され、テクノロジーを基盤として、どのようにオペレーションを洗練させるか、という問いからスタートしました。
一般的に、立ち上げフェーズの企業では、マニュアル作業が膨大にあり効率的なオペレーションというより、いかに物事を前に進めて目先の数字を積み上げるか、ということに意識が集中しがちです。
一方、テクノロジーを基盤やアウトソースを起点にオペレーションを開始することで、近視眼的な業務だけではなく、最小の工数で最大の成果を上げるためにどうするか、ということに常に念頭に置いた状態でPDCAサイクルに向き合うことができました。
本日は、私が実践していたテクノロジーを基盤としたオペレーションや、利用していたセールステクノロジー(以下、セールステック)についてご紹介します。
当時のマーケティング&セールスプロセス
本記事の内容について、イメージ持っていただきやすいように、当時のレベニュープロセスとKGIだけ記載いたします。単なるアポイント獲得がKGIではなく、営業がクローズに向けてリソース割いて追うべきと判断した「商談化」の金額・件数がKGIになっていました。
各領域のリーダークラスのセールステックを活用
入社当初から、FORCAS、Sales Navigator、Lusha、Demandbase、Outreach、Marketo Engage、Salesforceのライセンスが付与されていたので、テクノロジーを基盤としたオペレーションを考えることができました。
その他、利用していたテクノロジーや、セールス&マーケティングプロセスの詳細は、以下記事に記載しております。
カテゴリ別に分けるとイメージがしづらいため、ファネル別に利用しているツールを分けると以下になります。整理しているなかで意外だったのが、リード獲得する前のアノニマス(匿名)状態のリードに利用しているツールが
*一部、前提条件や使い方によって当てはまらないこともあります。
ABM(Account-Based Marketing) プラットフォーム「Demandbase」とMarketo EngageをCookie単位で連携したAccount Intelligence(アカウントインテリジェンス)の実現や、企業単位ではなくマーケティングオートメーション(MA)のCookieと統合した人物単位のインテントデータを取得、インテント・属性データをもとにパーソナライズしたシーケンスメールをSales Engagement Platforms「Outreach」から送信など、データエンリッチだけではなく、ラスト1マイルの実行までが一連のオペレーションとして完結できる状態です。
Demandbaseの基本的な機能・特徴については以下の記事で解説しています。
また、Outreachでメール送信後に、返信なければDemandbaseのディスプレイ広告でリタゲする、LinkedIn Sales NavigatorでInmailでメッセージを送信するなど、人的な意思決定や実行が介在しない"オペレーション自動化"という意味ではBtoC領域のCRM(Customer Relationship Management)とほぼ同等の世界観で顧客に向き合う環境が揃っていました。
[業務フロー別]テクノロジー活用マッピング
わかりやすくするため、業務フローで整理した図が以下です。各業務フロー別に活用しているテクノロジーを簡単に整理します。
FORCAS
ターゲット企業リストの作成はFORCASで作成します。
Demandbase
作成したターゲット企業リストの優先度をつけるための検索キーワード、3rPartyの製品比較サイトの閲覧履歴などのインテントデータ取得してDemandbaseを利用します。
Salesforce
更に、作成したターゲット企業リストに所属する人物情報が、どれだけ自社のハウスリストに登録されているかを管理するため、Salesforceデータとターゲット企業リストを統合します。
Marketo Engage
仮に、ハウスリストにある場合は、直近でWeb行動があるか、どのページを見ているかを確認するため、Marketo Engageの1st PartyのCookie情報をもとに人物単位のWeb閲覧履歴を取得してます。
LinkedIn Sales Navigator/Lusha
仮にハウスリストになかった場合でも3rdPartyのDBから人物データを取得するため、LinkedIn Sales Navigator、LushaのDBで検索をかけます。
Outreach
人物情報が特定できたら次は実行フェーズとなるため、Outreachでメール・電話などのアプローチの自動化・効率化していきます。
Demandbase
Outreachでメール、電話でご連絡したあとは反応があり/なしに分かれると思います。反応があればアポイント調整やリサイクルに登録するなどの処理を行い、反応なければDemandbaseの広告連携(リタゲ)機能で再度、追客することができます。
上記は大枠のため、これらのテックスタックを活用した代表的なユースケースを3つ解説します。
ICP定義に基づくターゲットリスト作成
ICP(Ideal Customer Profile)と呼ばれる「自社と親和性が高く、優先的にリソースを割くべき企業や属性の定義」をしていました。少数精鋭で貴重なリソース資源を活用してどう成果を最大化するかという考え方の企業は多いと思いますが前職の外資系SaaS企業も同様でした。
ICPを定義する考え方としては、以下になります。
定量・定性情報を組み合わせたデータ整理
統合データからICPになり得る要素・特徴などの共通項を抽出、要素を特定の指標をもとにグループ(ランク)分け
要素に合致するデータを取得できるテクノロジーからリスト抽出
例えば、Web接客ツールで「売上が高い顧客はWebサイトの訪問者数が多い企業」という売上に直結する因果関係がある場合、「Web訪問者数」が共通するICP要素の1つとなり、「Web訪問者数が多いサイト/企業の一覧」をデータとして抽出できると先程の「自社と親和性が高く、優先的にリソースを割くべき企業」に合致するリストになると思います。
「Web訪問者数が多いサイト/企業の一覧」を取得する場合、例えば、SimilerWebで業界別に訪問者数が高いサイトランキングを抽出できます。
また少し細かい話になりますが、SimilerWebはあくまでサイト単位の情報なのでインサイドセールスのアプローチに活用できる"企業単位"の情報としてデータが不足しています。
そのため、SimilerWebから取得した情報をFORCASデータベースと統合することで綺麗にクレンジングされた企業単位のリストに仕上げておりました。また、Demandbaseでインテントデータを取得することで仮説ではなく、事実に基づいたニーズ把握と優先度付けができます。
1stParty×3rdPartyデータを連携したアカウントインテリジェンス
Demandbaseでは検索キーワード・閲覧したWebページなど、顧客のインテント(意図)データを取得できますが、アノニマスの場合は企業に所属する「誰が」を特定することが難しいです。
そこで、マーケティングオートメーションであるMarketo EngageとDemandbaseをCookieベースで連携することで、企業単位だけではなく人物単位のインテントデータを取得できます。
また、DemandbaseではSalesforceのようなレポート機能があり、特定条件をもとにしたアプローチリストを作成することができます。
売上・業界情報などの仮説をもとに属性情報のみでセグメントした静的リストではなく、まさに”その瞬間”の動的ニーズを捉えたリストの作成ができ、Why You/Nowを明確に把握した状態アプローチが可能になります。
各テクノロジーから統合しているサンプルデータは以下です。
FORCASで業種、シナリオ、利用ツールを取得、Demandbaseからは検索キーワードや独自AI技術をもとに算定するQualificationスコア、Pipeline予測スコアを取得できます。これらは、企業単位の情報に留まってしまうため、Salesforce、Marketo Engageから取得した人物情報、Web行動履歴を紐づけることで人物単位のリストに仕上げています。
アカウントインテリジェンスにより、何の文脈もない静的リストではなく人物単位で「いまこの瞬間」「どの企業の誰が」「何に興味があるか」を把握することができるため、顕在化されたニーズに対するWhy You/Nowの訴求を含めたパーソナライズがしやすく、反応率が上がりやすいリストになります。
また、顧客目線でも欲しい情報を欲しいタイミングで提供されるため、購買体験価値を向上させることにも寄与します。
ニーズが顕在化したリストに対するアプローチを洗練
人物単位のインテントデータを取得、Why You/Nowを明確に把握できた状態であれば、あとはインサイドセールスからのフォローを定められたSLA(Service Level Agreement)に合わせて忠実に行うのみです。
この場合、OutreachとDemandbaseを連携させて、ラスト1マイルの実行(顧客にリーチして営業との接点を持つまでの)領域を洗練させていきます。
ちなみに、SLAを忠実に遵守できるかの「実行力」は、人・組織によってかなり差異があると思っています。
例えば、トッププレイヤーの方は、メール・電話だけではなく、複数チャネルから顧客接続を試みたり、1度・2度のアプローチで終わりではなく、1〜2週間、ときには30日を超えて生産性が下がらない範囲で継続して追客する方も多いと思います。
また、2回目、3回目のメール内容は画一的な内容ではなく、それぞれパーソナライズや内容を調整することで、接触頻度が多かったとしても顧客に嫌われない工夫がされていると思います。
Outreachでは、このような自社オリジナルのトップセールスの行動習慣をに実装して、追客フローの自動化・高度化が実現でき、スキル・経験に依存しない形で誰でも同様の行動習慣を取ることができるようになります
各社で定義しているインサイドセールスがリードをフォローする際のSLAをOutreachのシーケンスに実装できれば、スキル・経験値に依存せずに誰でもトッププレイヤーと同様の行動習慣を実現できます。
また、インテントデータと連動した顧客ステータスの更新を行うことで、顧客ステータスの更新をトリガー条件にシーケンスを自動発火させることも可能です。
シーケンスやトリガーの機能についての詳細は以下をご覧ください。
また、Outreachは電話・メールといったBtoBセールスで一般的なチャネルだけではなく、Sales Navigator、手紙、SMSといったマルチチャンネルでフォローするシーケンスを実装することができ、自社のオペレーションに合わせて顧客の反応率を最大化させることができます。
[コラム]インサイドセールスにおけるマルチチャネル活用で生産性を向上
一般的にコールドコールでアプローチする場合は、架電対接続は15~30%、架電対アポイント取得率は1~3%程になることが多いと思います。仮に2%*の架電対アポイント取得率の場合、98%の架電時間を投下した上で、2%の成功を積み上げている状態です。
当たり前といえばそうなのですが、
一部の人しか成果を出せない
成果を上げるには人を増やすしかなく生産性が上がらない
現場が疲弊して退職者が多い
など、の再現性・拡張性の観点からあまり良い手法とは言えないと思います。
電話の単一チャネルだけではなく、メール、LinkedIn(Sales Navigator)などのマルチチャネル、なかでもテキストによるメッセージで顧客接点を持つことで、生産性の向上や再現性を担保することが可能になります。
電話だと「出社していない」「会議中で席外し」など相手の状況に左右されがちだったり、情報量が多い伝言を残すことが難しいですが、メッセージであれば相手の状況に関わらず送信することができ、時間が空いたときに顧客に内容を見ていただくことができます。
電話は接触後のトーク力に依存しがちですが、メッセージは文章を洗練させれば、誰が送信しても効果は同じであるため、時間と成果のトレードオフの関係から脱却した再現性と拡張性の高い仕組みを構築することができます。
さらに、氏名・部署・役職・メールアドレス・電話番号などの人物情報をSales Intelligence Toolである「LinkedIn Sales Navigator」や「Lusha」などの独自データベースから取得することができ、メールアドレスがない前提となるアウトバウンド(BDR)活動の場合でもSales NavigatorのInmailでメッセージ送信や、Lushaで取得したメールアドレス宛にメール送信することができます。
また、前述したDemandbaseは、広告チャネルとも連携できるため、Outreachシーケンスで一定期間フォローしても反応がなくナーチャリングステータスになった人物については、ピンポイントでリタゲ広告を出して広告でも再リーチを試みることができます。
テクノロジー×生成AIで加速するインサイドセールス
セールステックを活用することで可能な限り人の意思決定やリソースを介在させない洗練されたオペレーションを組むことができます。
一方、次の課題として直面したのが、トッププレイヤーの行動習慣は再現できても、トッププレイヤーの思考習慣(知識・課題解決の考え方・関係構築力)や、アウトプット(資料・文章・コミュニケーション)までは再現できないことが多かったことです。
こちらは、グローバルチームと会話して、生成AIを基盤としたインサイドセールスのオペレーション構築に取り組みました。活用のユースケースを3つ紹介します。
自動文字起こし&要約
Gongやzoom phoneで取得した録音データをSlack上でアップロード
AIが自動的に文字起こしと特定のフォーマットに合わせた要約をしてくれます。
スライドにある生成AIの仕組みは、グロースエンジニアの吉永さん(@SA_AtsushiY)に構築してもらいました。本当に感謝。
前職の場合は、インサイドセールスがヒアリングする項目がいくつかあり、多いときだと30分以上顧客と会話して深くコミュニケーションを取ることがあります。30分の内容を要約する際に、かなりの時間を要することが多いですが、本ツールで30分かかっていた作業を10分に短縮するなど効率化が図れています。
インサイドセールスの事前ヒアリングに関する詳細は以下の記事にも記載しております。
質問が多かったので「自動文字起こし&要約」の手順について、上記スライドの流れに沿って解説します。
顧客の人格を擬似再現したロープレ
ロープレを行うことで期待できることは多々あります。
顧客課題と製品/サービスが提供できる価値の紐づけ
顧客の状況・属性に合わせて確認すべきことの整理
相手に違和感なく本音を聞き出す質問の仕方 など
いわゆる、顧客の懐に入り込むコミュニケーションスキルは、一定の実践・場数を踏まないと身に付けることが難しいかもしれないですが、ロープレによる疑似顧客を相手にした実践であれば、24時間365日、いつでもトレーニングをすることができます。
また、レビュー・評価の機能を加えることで、より改善施策に繋がる洞察を得ることができます。
事前リサーチ&課題仮説の自動抽出
特に、エンタープライズ企業であればヒアリング前の事前リサーチや課題の仮説立てを行うと思います。
リサーチ時間や仮説精度など、属人的なスキル・経験値に依存しますが、生成AIにトップセールスの人格を埋め込み、AIが情報リサーチ、仮説精度を高めることが可能です。
急成長する組織でグローバルのセールステックに触れてみて
外資系製品は黒船扱いをされることが多いですが、製品だけではなく社内体制や予算、セールステクノロジー関連など、日本法人立ち上げ時点で環境が整備されているケースが多いです。
例えば、Outreachのような製品を駆使することで、生産性が2倍以上に好転させることが当たり前にできるなか、テクノロジーを活用した生産性を意識せずに人件費を投下し続けるのか、テクノロジー投資を行いレバレッジの効いた組織体制を構築した上で増員を図るかでは成果の出るスピードに雲泥の差が出ると思います。
また、ツールはあくまで道具であり、目的を叶える手段になりえるものです。どれだけツールに詳しくとも、前段となる顧客戦略の理解や営業・マーケティングとの連携に欠損があると、効果を発揮しないどころか、逆に生産性を下げる結果を引き起こします。
「最先端のツールを駆使した次世代セールス」は、表現としては華やかに聞こえるかもしれないですが、ツールの実践利用価値を最大化するには、むかしから「顧客にとっての価値は何か」を考え続けることに変わりないと思います。
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