外資系SaaS企業のインサイドセールスが初回商談前にヒアリングする9項目と提供価値を最大化するためのトークスクリプト
こんにちは。山梨(devie0462)です。
どのインサイドセールス組織でも顧客にヒアリングする際の質問項目やフォーマットが用意されているかと思います。一方、ヒアリング項目を用意しても「良い質問の仕方が分からない」「欲しい回答が得ることができない」「顧客に情報開示を断られてしまう」など、商談前にスムーズに情報を集めることに課題を感じている組織も多いのではないでしょうか。
一方的な一問一答形式のヒアリングではなく、顧客にとって価値ある情報収集や事前準備、また顧客が快適に回答いただけるような質問の仕方・トークスクリプトが重要になります。
本記事では、初回商談前のヒアリング項目や質問するためのトークスクリプトについて、なぜそのトークスクリプトにしたのかの背景を含めてご紹介します。
*前提
自社(マーケティング系のSaaS企業)でのオペレーションが前提となるため、少しSaaSツールに偏った内容になっておりますが、汎用的に使える部分も多くありますので、多くの業界の皆様のご参考になれば幸いです。
組織体制や営業プロセスなどの前提理解があった方が理解しやすい内容ですが、詳細は以下記事にも執筆してますので本記事では割愛します。
初回商談前にヒアリングを行う重要性
*すでによく理解されている方は飛ばして次の章に読み進めてください。
「商談前にヒアリングの時間をいただくことは、顧客にとっても手間がかかるし、当日の打ち合わせの中でヒアリングすれば良いのでは?」という声もよく聞きます。時間的な工数がかかることは間違いないのですが、初回商談前にこの一手間をかけることで、将来の商談プロセスをスムーズに進めることができ受注確度の引き上げにも大きく貢献します。
また、自社の営業組織だけではなく、顧客にとっても大きなメリットがあります。以下に顧客目線、自社の営業目線それぞれで、いくつかメリットを記載します。
事前ヒアリングのメリット(顧客目線)
意思決定に必要な要素を適切に伝えることで、一方的な会社紹介ではなく本当に必要な情報に絞ったサービス理解・ディスカッションができる
競合サービスからの情報提供による誤った解釈や理解に偏りがあった場合、適切な情報理解・情報整理をした状態で説明を聞くことができる
導入における懸念点*に合わせてポジティブ・ネガティブの両観点で情報を得ることができ、社内稟議の進行や反対意見に対する説得がスムーズになる
自社と類似した業界・事業の取り組み、もしくは類似課題を解決した具体的な事例・実績を知ることで、即ビジネスで実践できるノウハウを学べる
事前ヒアリングのメリット(営業目線)
現状の検討フェーズや顧客状況を把握することで、精度高く商談の段取りを組み立てることができる
顧客状況を事前に深く理解することで、初回商談の参加メンバー、ゴール、役割分担、説明する内容が明確になり効率的に商談準備ができる
競合他社との比較状況や、導入における懸念点を早期に把握することで、失注リスクを最小限に抑えた情報提供ができる
インサイドセールスは、営業チームの案件保有状況を考慮した送客する/しないの判断をしやすく調節弁的な機能を果たせる
受注までの商談プロセスにおいて、重要な要素は初回商談時に集約されます。初回商談前にヒアリングを行うことで、初回商談ではどこをゴールにすべきか、将来的な失注リスクを回避・軽減するには何が必要かなど、今後の商談をスムーズに進めるための可能な限りの事前準備を行うことができます。
初回商談の重要性に関する詳細は、以下の記事にも記載しておりますのでご関心ある方はご一読ください。
ヒアリング効果を最大化するオペレーション
弊社インサイドセールスチームの場合、営業との初回商談の日程調整した後に、初回商談の日時より前(遅くとも2営業日前)に、Webか電話でヒアリングの時間を調整しておいます。
顧客からスムーズに情報提供いただき、ヒアリング効果を最大化するには、「何を・どうやって聞くか」といった質問項目やトークスクリプトの要素より、「いかに顧客が話しやすい環境を創れるか」のヒアリング前の準備やオペレーション、ヒアリング後のフォローアップの要素の方が貢献度が大きいです。いくつか弊社側のオペレーションに取り入れている要素を下記に整理します。
一方、上記は重要な要素ではあると理解しつつ、各商談で丁寧に一つひとつの要素を満たすにはかなりの工数がかかるため、少数精鋭のスタートアップや新規事業では優先度を下げているという組織も多いかと思います。
弊社の場合は、テクノロジーやアウトソース(外部委託)を上手く活用して自社インサイドセールスの負荷を大幅に減らせるオペレーションにしているため、少数精鋭組織でもレバレッジを効かせた生産性の高い時間の使い方ができています。
私が2年間程一人チームでオペレーションしている時期がありましたが、商談創出のため施策実行や効果検証、顧客向けのヒアリングなど時間価値が高い領域のみに集中しながら定常的に商談を積み上げることができました。
テクノロジー活用やアウトソース(外部委託)について、下記に詳細を記載しております。
初回商談前にヒアリングする項目一覧
実際にインサイドセールスチームがヒアリングした後に営業チームに共有するメモ(項目)を以下に記載します。こちらの「No.①」以下の項目について、ヒアリングを通じて何を明らかにしたいのか、どうやって聞くのか(質問のトークスクリプト)など、よくある回答例を含めて解説していきます。
項目①背景・きっかけ(認知)
製品を認知いただいたきっかけを確認します。お電話で顧客に接続したあと、最初にこの項目を質問されている方も多いかと思います。
【インバウンドの場合】
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
▼回答例
質問はシンプルです。答えづらい質問ではないのでストレートに聞きます。例えば、回答例の上司からの指示よりも回答例に記載したタグを見て問い合わせをいただいた方のほうが積極的に情報収集・検討されていると判断できます。
また前職の同僚が使っているケースの場合、前職の企業名や同僚の方のお名前を聞いて、自社サービスをどのように評価いただいている企業か、その方の自社サービスの満足度などを社内で把握しながら商談の進め方を組み立てることが可能です。
【アウトバウンドの場合】
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
▼回答例
アウトバウンドによる商談は「持ち込み提案」になりやすいですが、課題やニーズに合わせた情報提供を基本としたいため、「こちらからご連絡した件ではございますが」と前置きをおいた上でお伺いしてます。
アウトバウンドだと「ご面談したいと言われたから」という回答は一定数あるので、その場合は、自己開示(会社・事例紹介)をしたうえで、インバウンドと同じような役割・業務内容をお伺いしていきます。パートナーからのリファラル等の場合、「以前より知っていただいておりましたか」と伝えて尋ねて確認します。
項目②背景・きっかけ(情報収集)
前項と少し似ていますが異なるパートです。①は認知をした「きっかけ、背景」であり、②は「情報収集を開始した背景・きっかけ」です。基本的に、この質問はインバウンドのみで、アウトバウンドでは「ちょうど情報収集していた」といった回答があったときのみ聞きます。
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
▼回答例
具体的な検討がない場合「ただの情報収集です」となるケースも多いかと思います。「情報収集」という抽象的な言葉で終わると「資料を見て何かあれば連絡ください」で終話するケースが多いですが、具体的なユースケースや事例・実績を提示しながら「どんな情報に価値を感じるか」を見極められると、ネクストの話が断然しやすくなります。
例えば、「広告に頼った売上拡大ではなく、F2転換率やLTV向上などのCRM施策を検討するなかでEC業界の事例を確認して資料請求した。」といった背景なら「EC業界で広告依存の売上構成から脱却した事例詳細」、「F2転換率に寄与した施策」などをフックにした次回打ち合わせの調整がスムーズにできます。
項目③業務内容・役割
意外に確認が漏れている項目ではないかと思います。
顧客から話していただける顕在的なニーズだけではなく、顧客のおかれている状況やミッションをもとに潜在的なニーズまで深く把握することで、表面的なニーズに対してではなく、本当に顧客とって貢献できる(ビジネスインパクトが高い)領域に対して提案することができます。
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
▼回答例
業務内容や組織内での役割なので特に問題なくお伺いできる項目かと思います。
案件化しない理由として、「役割違い」「決裁権がない」等の理由は多いと思いますが、打ち合わせの初期段階で「自社サービスの提供価値に最大限共感いただける役割の方ではないこと」が判明できれば、打ち合わせのゴールや進め方、ネクストの切り方を早めに調整することが可能です。
また、相手の業務内容や役割、何を目指して日々の仕事をされているかなどを正確に把握できれば、いわゆる「御用聞き」ではく「課題解決に貢献する専門家」として顧客に向き合いやすくなります。
項目④ビジネスゴール( 実現したいこと、課題)
ヒアリングで一番大事にしていることです。重要なポイントは、問題ではなく、ビジネス課題まで深堀り、顧客に合意・共感いただくことです。
競合他社と比較した優位性の明確化にし、自社サービスの提供価値を最大化するには、自社サービスがビジネス課題を解決できる唯一の存在であることに共感いただくことが重要であり、表面的な問題のみに目を向けてビジネス課題までたどり着けなければ、競合他社との差別化や投資判断は困難です。
問題と課題の違いに関しては、以下のnoteが参考になるため気になる方はご覧ください。
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
▼回答例
顧客のなかで課題・実現したいことが明確な場合は「実現に向けて何が必要でしょうか」「障壁は何かありそうですか」「他にありますか」などのシンプルな質問のみで問題ないです。
一方、顧客のなかで課題が明確でない(整理している途中)場合は、事例を伝えて当てはまる/当てはまらないの判断をいただく、解決策・施策案を具体的に共有して貢献する/しないを判断いただくなど、顧客課題の解像度を上げるための1クッションを挟むヒアリングができると快適に回答いただけることが多いです。
ときどき、「うち、(他の業界と違って)特殊だから」といった一般的な「実現したいこと」に共感されず「自社(顧客の会社)向きではない」と判断されてしまうケースがあります。その場合は業界別によくある特殊ケースを先回りして顧客に共有をすると顧客からそのなかでも必要な要素、検討すべきポイントを教えていただけます。
項目⑤比較・検討状況
具体的に検討している競合製品名をお伺いすることで、自社が最大限に価値を発揮するためのビジネス課題の深堀りや、ビジネス課題に対する優位性の訴求を考慮した商談の組み立て方ができます。
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
▼回答例
比較・検討されているツール名を確認するだけではなく、すでに他社から話を聞いている場合は所感や評価をお伺いすることで、どの検討フェーズからの初回商談が開始するかを正確に把握できます。また、意思決定する上での選定・比較軸まですり合わせすることで顧客に何を訴求するべきかが明確になります。
また、すでに現行利用しているツールがある場合は、「項目②背景・きっかけ(情報収集)」で確認した内容をもとに、継続する選択肢があるかを確認します。競合他社のサービスだけではなく、検討テーブルに何が乗っているかを整理することで適切な情報提供ができます。
項目⑥現行で利用しているツール
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
▼回答例
いきなり「現状利用されているマーケティングツールを教えてください」では、警戒心を強めてしまうような聞き方になるため、テクノロジ検索「BuiltWith」等を利用しながらHPに埋め込まれているタグを確認しながらヒアリングします。
また、「回答は控えます」という回答も一定数あるため、その場合もHPの埋め込まれているタグから利用しているツールを想定してヒアリングすると顧客にとって負担がかかる非効率な質問を省くことができます。
現行利用しているツールをヒアリングできた場合は、話の流れで、導入の意志決定をされた方はどなたか、また、その際の投資判断の理由を聞けると将来の商談確度を引き上げる貴重な情報となります。
項目⑦スケジュール
商談確度を引き上げる重要な「コンペリングイベント」を明確にします。営業組織のリソース配分にも大きな影響を与える要素になりますので、「項目④ビジネスゴール( 実現したいこと、課題)」と同等レベルで重要だと思っています。
「コンペリングイベント」について聞き慣れていない方は、以下の記事を参考になさってください。
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
▼回答例
現行で利用されているサービスがある場合は、必ず更新期限を確認します。検討のタイミングを適切に把握した提案ができますし、明確なコンペリングイベントになりやすいため顧客とスケジュール合意がしやすいです。
ツールがない場合でも実現したいゴール、商習慣(商戦などの季節性)、社内の組織変更・人事異動など、顧客側のイベントやニーズに合わせてスケジュールの大枠を合意できると、後からの認識齟齬が少なく顧客にとって安心材料となります。
この項目で検討レベルやスケジュール*を正確に把握することで、顧客のスケジュールに合わせた適切なリソース配分などを調整できます。
項目⑧予算化の状況
最も聞きづらい項目だと言われることが多いですが、最初の御見積提示の際、顧客にとって的外れな提案スコープ・金額感で御見積を出してしまうことを防ぐために、必ず押させておきたい情報です。
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
聞きづらい項目だと思いますが「聞くタイミング」により予算の情報をお伺いするハードルを下げることができます。
例えば、サービス選定・比較軸や投資判断の要素として、「費用」の話がほぼ必ず出るかと思います。そのため、顧客から費用の話が出していただいた後に「費用がかなり重要な選定軸になる」という枕言葉と合わせて質問をするとスムーズにお伺いできることが多いです。
項目⑨期待値
インサイドセールスにとって「当日に何を期待しているのか」というのは、その後、営業担当に引き継ぐにあたり、重要なポイントです。この期待値を上手く共有できないと、せっかくヒアリングの時間を取っていただいたにも関わらず、顧客の購買体験を損ねる結果になるため慎重にすり合わせが必要です。
▼ヒアリングにより明らかにしたいこと
▼トークスクリプト
本記事のまとめ
以上、顧客への初回商談前にヒアリングする9項目とトークスクリプトの紹介・解説でした。
なかでも一番重要な項目は「項目④ビジネスゴール( 実現したいこと、課題)」だと思っています。特に、コモディティ化しているサービス・製品ほど、顧客の課題を浮き彫りにし、自社サービス・製品が最も課題解決に向けて貢献できることを伝えなければ、顧客にとって自社サービスを採用する意思決定が困難になります。
初回商談では、やりたいことが実現できるか(競合他社よりも実現しやすいか)、実現した上でビジネスの成功に寄与するか、信頼に足る実績があるかの3要素が満たされたら、ネクストに繋がる可能性は大きくなります。
また、タイトルでもある通りヒアリングを行う目的は、決して営業の一方的な情報収集ではなく、顧客にとって価値を最大化し、将来のカスタマーサクセスを牽引するためです。その前提を忘れず、顧客目線で情報を引き出す・共有するための「聞き方」の参考になれば幸いです。
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