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【インタビュー #01】就労支援事業所は利用者を選べるのか

一般的にお店などの場合、お店側は来店したお客を選ぶ権利というものが尊重されており、入店を拒否することが可能とされています。


しかし、お客を選ぶ権利があるとはいえ、どのような場合でも認められているわけではありません。


例えば障害のみを理由として入店拒否をした場合は、障害者差別解消法に抵触し、違法となる場合があります。


ここでこんな疑問が湧いてきます。
では、障がい者を利用者(お客)として迎え入れる就労支援事業所において、お客を選ぶ権利は尊重されているのだろうか?


さらにこんな疑問も…
仮に利用を拒否したい場合、どのように対処しているのであろうか。
利用の可否を選別する特殊な方法が存在するのであろうか。


これらの疑問に対し、彼ら支援員の言う「困難事例」*1 と呼ばれる利用者、もしくは利用希望者を例として挙げ、福祉の側面とビジネスの側面の両面から支援員としての姿勢や経営とのバランスなどを解明しようと、今回、某大手就労移行支援事業所の管理者山根さん(仮名)に伺いました。


―― 以前、私が利用していた就労継続支援A型*2 のサービス管理責任者(以下、サビ管)*3 がこのようなことを言っていました。
「うちは困難事例が多く集まっているから就職率が上がらない」
私はそれを聞いた時、集中するものなのかな?と疑問に思ったのですが、自然発生的、もしくは意図的に困難事例の人が集まるというような現象は起こるのでしょうか?


どういうわけか、地方の方が困難事例が多いと言われる風潮はあると思います。


都内の事業所よりも「ちょっと難しい人は多いよね!?」というようなことはよく聞かれます。


ただ、就労移行*4 に限らず、おそらく全体として困難事例は年々増えてきていると思います。


そうなる原因として、例えば今まで就労移行を使っていた障害程度の軽い人は、民間の人材紹介サービスを使えば就職ができるようになりました。


結果、障害程度の軽い人は就労移行のフェーズにいなくなるので、必然的に困難層が増えてきたとか、困難層ばかりになってきたのかもしれないという感覚は出てくるかなと思います。


あとは、それぞれの就労移行支援事業所の運営方針にもよると思うのですが、「絶対に週5日ちゃんと通所しないと受け入れませんよ」というスタンスの事業所と、「週1日からでも利用を始めても大丈夫ですよ」というスタンスの事業所を比べれば、やっぱり利用を希望する人の層は変わってくるので、違いは出てくる。


困難事例が集まって来ているという感覚を持つのは、特殊なことではないと思うので、そのA型事業所に限ったことではないと思います。


―― 例えば、利用希望者とご家族の方がお2人で見学に来ました。
スタッフが対応したところ、利用希望者は困難事例であるということが判明しました。
ご家族の方は利用することに前向きです。
仮に山根さんが対応したスタッフだとしたら、直感的に受け入れをどう判断しますか?


まずは就労移行の福祉サービスを受けるのに適しているかどうかの判断で、困難事例だと感じたということは、多分、適しているか適していないかのギリギリのラインなのだと思う。だから困難に感じる。


就労移行を利用するのに適している人であれば全く困難にはならない。


ただ、自分たちができるサービスの守備範囲を超えた人が困難事例になると私は思うので、 困難事例かもしれないと思ったということは、ちょっとまだ就労移行を利用するのは早いかもしれないなという判断をする。


本当に就労移行の福祉サービスが妥当なのだろうかどうなのだろうかという観点で質問をしたり、話を聞いたりしていくと思います。


―― 具体的に困難事例の判断基準というものは、事業所や会社で規定されているものなのですか?


その規定はとても難しいと思います。規定できるとしたら、例えば主治医から就労移行を使ってもいいですよという許可が下りていない人はダメです、ぐらいの明白な規定になるはず。


あとは、自傷行為が全然止まりませんというような人は、明らかに難しいと規定できる。


それぐらいですね、会社としてというか、組織として線引きしているラインは。


―― しかし、私の記憶だと見学の時に医師の診断書を持ってきてくださいというようなお約束はなかったと思います。
利用説明会で対応したスタッフが困難事例と感じた時、お医者さんから就労移行に通っても大丈夫と言われていますか?とお伺いしているのですか?


困難事例に関わらず、全員にお伺いしています。


私がいる事業所を利用するとなった場合、お医者さんから就労移行を利用することについて相談してますか?と質問しています。


そもそも主治医が就労移行の利用が時期尚早だと判断している人の利用は、ご本人のためにもよくない。


全員にデフォルトで聞いている質問ですし、説明会で渡す資料の中にも主治医の許可が下りている方が利用できますと明記しているので、全員に確認します。


それと併せて「主治医からの意見書も必要になります」という話も、説明会の時に全員にしてます。


ただ、「はい、いいって言われています」と嘘をつかれると、その時点ではそれ以上確かめようがないので、本人の言うことを信じるしかないですけどね。


―― A型の場合は、就労になるわけですから、面接といういわゆる振るいがかかって、困難事例の場合は不採用という形で受け入れを拒否できるかもしれませんが、就労移行の場合は福祉サービスとしての側面が強いので、受け入れるのは当然というような、ある種、利用を断ることができないムードというものが存在するのではないかと想像するのですが、それについてはどうですか?


就労移行では、A型でいうところの面接に当たるのが、体験期間に位置づけられると思います。


体験期間で本当に通所できるのかどうなのかを判断をしてもらう。


福祉サービスなので、こちらから「 いや、あなたは無理です」というのは、もう相当な理由がないと、本人も納得してくれないと思うので、やっぱり来てみて、やってみて、いけそうだなとか、やっぱり難しそうだなというようなことをしっかり納得したうえで判断してもらうことは大事な要素だと思っています。


体験の日数も、事業所によっては1日体験して良ければ利用開始という感じのところもあれば、5日とか2週間とか、じっくりちゃんと来てもらって、ちゃんと事業所の流れに添えるのかどうかをしっかり判断するところもある。


事業所によって考え方が違うところになると思います。


ただ、それでも本人の利用したいという意思がすごく強くて、もうどうしてもここに通いたいんだという意思が強ければ、「そこまで言うのならば、やりますか!」と受け入れはしますね。


―― 困難事例であった場合、どのような覚悟で受け入れているのですか?


それは支援員によって全然違うと思います。


私はまず「やってみないとわからないもんね」というところに着地させてから 「じゃあ、やってみますか」「じゃあ、利用開始してみますか」という覚悟の決め方をしています。


例えば、全然体調が不安定で、きっと通所できないだろうと思われる人が「頑張れる、頑張ります!」というようなことを言っていて、それに対して「大丈夫?無理じゃない?」「いや、できます!」「いや、だって無理かもよ?」「いや、できます!」というような押し問答になってもしょうがないので。


そうなるのなら、実際に始めてみて「やっぱりできなかったね、じゃあ次どうしようか考えましょうか」という、本人がやってみて、体感して、納得して、というフローは大事だと思う。


付き合ってあげるという言い方はちょっと上から目線になりますけど、本人が納得できるように、ある程度の時間と過程に付き合うのは、私たちの仕事の一つでもあると思います。


―― その時は「どうにかしてあげよう!」というようなボランティア精神を前面に出すことはなく、まず利用してみて、コミュニケーションの中でお互いの信頼関係を築いていって、ステップアップしていこうというスタンスですか?


そうですね。私はあまりどうにかしてあげようとして接することはないですね。


逆にどうにかしてあげようの気持ちが強い支援員はちょっと怖い。


あくまでも、自分たちがどうにかするから利用者さんがどうにかなるのではなくて、利用者本人がどうなりたいかという利用者主体であることはすごく大事だと思います。


どうにかしてあげようで接し始めると、依存につながったりだとか、期待を裏切られただとか、いい方向には進まないと思うので。


そのスタンスで利用の是非を決めるみたいな感じのことは絶対ないですね。


どうにか面接を通らせてあげたいみたいなことは思いますけど。


利用の可否に関しては思わないです。


―― 経営的視点で見ると利用者は売上を生み出すお客さんという位置付けになると思います。
山根さんは一人のビジネスパーソンとして、困難事例であることを理由に利用者が長く在籍することで、恩恵としてその間の売上の目処が立ったというように数字的にシミュレーションしますか?


私は利用期間が長くなることに関しては、例えば本人の空白期間に当たる部分が伸びてしまうという面で、果たしてそれが本人にとって良いことなのだろうかとは思うけれども、事業所に長くいられることが嫌だとは思わない。


就労移行の場合は最大2年という期間があるので、どんなに長くいたいと思ったとしても2年で区切りがつくものなので。


それよりも2年かかっても卒業が難しいかもしれない利用者に対してのアラートの方が強い。


卒業のタイミングというのは利用者さん自身になるし、ご事情もあるし、すごく支援を頑張って早く卒業ができたみたいなことはあるのかもしれないけど、でも、基本的には支援する側がコントロールしようと思ってコントロールできるものでもない。


早ければその人にとって良いことなのかということは、また別の問題になる。


もちろん事業継続のために売上を意識するのは当然です。


会社から降りてくる目標値を達成するためには、平日の利用者が〇人いないと達成できない、というような計算はどの事業所でも当たり前にやっていると思います。


もし、ここでいう困難事例の方で、なかなか通所ができない方なのであれば、その分もう1人新規で入れて補おうなど、全体で考えるので、極端に個人にフォーカスすることはあまりないかと思います。


もちろん就職するためには、安定的に活動できる体調は必要なので、通所出来るようになることは一緒に目指していきたいと思っていますけどね。


―― 就労移行支援事業は売上の作り方が不安定と言えますよね!?例えば、今月は卒業生がすごく多いとか、大量にやめてしまったとなった時に、来月以降は売上が落ちるとなっても、そこは利用者本位だからどうにもコントロールできない。
そういう状況になった時は、運営会社としては仕方がないという感じなのですか?それとも何とかしなさいというお達しがあったりするのですか?


多分、会社によって全然違うと思うんですけど、ありがたいことに私がいる会社はそこまでの圧力はかからない。


「なんとかしなきゃね」とは言われるけど、でも、卒業生が出ることによって売上が落ちることは、もう宿命と言うかね。


そういう売上の仕組みだよねという前提で話が進むので、卒業生が出るんだとしたら「新規獲得に力を入れていかないとね、ではどうしようか」という話になっていく。


多分もっと詰められている事業所はもっと詰められるんだろうなという感じはする。本当にチクチク言われるみたいな。「どうするの?この売上」とかすごく言われるのは、想像できる。


でも、私がいる会社は精神をえぐってくるような感じの突っつかれ方はされない。対策を考えろとは言われるけれど。


―― よく就労移行とかA型の悪い話として聞かれる話ですけれども、卒業させない、就職させないで長引かせて、売上を長期的に確保するという悪質な事業者もいるという話を聞きます。これについてはどう思いますか?


その話は、結構ブラックボックスだと思っていて、多分、そういう話が出てくるということは、実際にそういう嫌な思いをした人がいるからそういう話が出てくるんだと思うんですけど。


例えばA型の場合、主力として活躍していた人が就職していなくなってしまうと途端に作業が回らなくなってしまうからできればいて欲しい、本音としてはここに居続けてほしいという気持ちは、心情的には分かる気がします。


もしかしたら、そういう悪どい考えで運営している事業所もあるかもしれないけれども、私は純粋に支援員の立場で見て、今就職したらすぐ体調崩してすぐに働けなくなるような状態に見えていても 「その人は就職したい」と希望している。


でも、支援員が「いや、まだ早いと思うよ」と言っているパターンは往々にしてあります。


だから多分、利用者からの目線だけで捉えた「就職させてくれないのは、自分がいれば売上が上がるからだ」という発信としてネット上で見えているケースもあると思います。


そういう意味では、やはりブラックボックスという感じはします。
事実がどこにあるんだろうな、ちょっと分からないな、と。


ネット上の情報だけだと色々な可能性があるので、なんとも言えないという感じですね。


ただ、そこまで問題として大きくなるほどコミュニケーションが取れていないというか、スタッフの心配心が伝わらない関係性になってしまっていることは多分間違いないと思います。


―― では、売上のことは横に置いておいて、利用が長期化していくことに関してはどのように捉えていますか?


意味のある在籍、例えば就職活動を続けているけれど、なかなか決まらずに結果的に利用期間が延びていく、というような形であれば、それは問題ないかと思います。


しかし、難しいのは通所がほとんどできていない、自立訓練や医療で体制を立て直したほうがよいと思われる利用者さんが、それでも在籍し続けたい、となったときは悩むことが多いです。


先ほども言いましたが、就労移行支援は2年までの期限があるサービスなので、通所ができない期間が長期化してしまうと、利用できる期限がどんどん迫っていってしまう現実があります。


体調が整い、本当の意味で就労移行のサービスが必要になったときに、利用期間がなくなってしまっている、という状況は避けたいと思う一方で、利用者さんにとっては、就労移行との繋がりやスタッフとの関係がその状況の支えになっている方もいるので、中には利用期間が無駄に消費してしまうことになったとしても、この繋がりを切りたくない、と訴える方もいます。


就労移行のサービスを受けることよりも、居場所として事業所を必要とされている時こそ、どうしたものかと頭をかかえます。


――では最後に、これから支援員として就労移行やA型、B型などで働いていきたいと考えている方に対してのアドバイスに繋がるかもしれませんが、山根さんはどのような考えに基づいて支援しているのですか?


やはりこの仕事はめちゃくちゃバランスを取っていかなくてはいけない仕事。


運営会社から求められる数字や利用者さんがこうなりたいという思い、福祉サービスが担わなければいけない部分であったり、あと自分がこうしたいという思いであったり、とにかくいろんなもののバランスを取らなくてはいけない仕事だから、どれか一つが強くてもうまくいかないし、どれか一つが弱くてもうまくいかない。


ずっとそのバランスを考え続けられる人でないと、この仕事を続けていくのが難しい場面が出てくると思います。


正解がないものや答えのないものに対してどれだけ考え続けられるか、そういう体勢はすごく必要。


思いだけじゃできないのはすごく感じるので、常にバランスを考え続けられれば、そんなにおかしなことにはならないと思うし、バランスをとるのがすごく苦手という人は、多分どこかから反感を買う。


利用者さんからかもしれないし、会社からかもしれないし、同じスタッフからかもしれない。


私はこの仕事は面倒くさいバランスの中でやる仕事だと思っているので、バランスはすごく気にかけている。


だから利用者さんのことだけ考えているわけにもいかないし、組織を維持するためにちゃんと売上も上げないといけないし、スタッフの生活も守らないといけないし、卒業した人たちが帰ってくる場所だったり、今利用している人たちがちゃんと通い続けられる場所を守っていかなくちゃいけない。


全部ひっくるめて支援につながると考えてやっています。



*1 ここでは、周囲に無関心となったり、喜怒哀楽や自ら何かをする意欲が乏しく、人付き合いが苦手で引きこもりの状態にあり、身だしなみ、生活リズム、家事、金銭や服薬の管理など、身の回りのことが上手にできない人を困難事例として定義する

*2 一般就労の難しい障害や難病のある方が、雇用契約を結んだ上で一定の支援がある職場で働くことができる福祉サービス

*3 サービス全体を通してトータルサポートを行う職種。サービス内容や提供手順を明確にし、個別支援計画書を作成して利用者が自立した日常生活や社会生活を送れるようサポートする

*4 国からの補助を受け、障害のある方や難病の方の就職・復職(リワーク)を支援するサービス




編集後記

インタビュー冒頭の「うちの事業所には困難事例が集まっている」という発言を聞いた時、私は集まるということが起こるのかという疑問とともに、在籍している利用者に対しての支援が面倒臭がられ、手間のかからない利用者を選ぶことで事業所の回転率を上げたいというサビ管ひいては運営会社の思惑を読み取り、やるせない気持ちを抱きました。


今回のインタビューは、正直なところ、そのやるせない気持ちを晴らすために利用したと言っても過言ではなく、山根さんすなわち就労支援事業者にインタビュー形式でぶつけることで、彼らは我々障がい者の味方なのか、それとも結局はお客という存在でしかないのかを嗅ぎ分けたい、しんらつな質問であぶり出したいという嫌味な気持ちも潜ませていました。


しかし、山根さんは尻尾を出すどころか、福祉とビジネスのバランスを取ることが支援に繋がると語り、利用者と事業所、そしてスタッフと三方良しの理想像を示しました。


世の中にはこのような三方良しの事業所もあれば、私が利用していたA型のような効率主義で困難事例を排除するような事業所もあり、残念ながらどこがアタリかハズレかが分からない千差万別の状態にあります。


このような千差万別の状態であるならば、私は持論として利用者側がリテラシーを高めることで、事業所選びは成功すると考えます。


例えば、

  • 見学会や説明会で定員に対しての在籍人数割合や就職率の開示を求めることで事業所の認知度や評判を計る。

  • バナー広告やサイトの情報が実情に則しているかを尋ねることで誇大広告になっていないかを判断する。

  • 体験期間中に具体的な支援や事業所のスタンスなどシーズ*5 を注意深く探り、本利用の対応との差異を生まないようにする。

  • スタッフとのコミュニケーションの中で性格や相性、クセを確かめる。

など。


これらは私の事業所選びの失敗から得た教訓でもあります。
事業者は利用者を増やしたいという狙いがある以上、見学会や説明会で実情を隠してまで、口八丁手八丁使って誘ってくる場合があります。
私は実情の隠ぺいや絵に描いた餅を見抜けず、A型事業所と雇用契約を結んでしまいました。
その結果は単に履歴書の職歴を汚しただけに過ぎず、自分の見極めの甘さと熟慮できなかったことへの後悔が残りました。


我々は利用者です。就労支援施設を選ぶ権利があります。
ぜひ、その権利を上手に使って各々の道を切り開いていきたいものです。


山根さん、取材させていただきありがとうございました!



*5 優れた商品や丁寧なサービスであったり、企業がお客様に提供できる独自の価値のこと



ここまで読んでくださりありがとうございました。
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