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AL授業の課題

皆さんは「AL授業の課題」と聞いてどのようなものを想像するでしょうか。もしも理想的な「AL授業の課題」の条件を幾つか提示しろと言われたら何と答えるでしょうか。本書を読むのをちょっとだけ休んで、考えてみていただきたいのです。

いかがでしょうか。

言うまでもないことですが、「課題の質」について考えるということは、授業そのものを考えることです。自分はどのような授業を理想と捉えているか。子どもたちにどのような力をつけたいと考えているのか。その力が子どもたちの将来になぜ、どのように必要だと考えているのか。こうしたことを想定していなければどのような課題が良い課題なのかということも思い浮かびません。実はそうした長期的な見通しをもたなければ、「よりよい課題とは何か」という問い自体が成り立たないのです。

かく言う私は「AL授業の課題」の条件を次の四つだと考えています。

(1) 答えのない課題
目まぐるしく移り変わる社会を生き抜いていかなければならない子どもたちに対して、私たち教師が答えの定まった、知識中心の従来型の教育観に止まっていたのでは、子どもたちの将来に「見えない壁」をつくることになりかねない。従来の教育観による教育は、数多の知識を与えるだけでなく、教師は意識せぬままに「どこかに最良の答えがある」「最適解を見つけることが問題解決だ」という狭い世界観をヒドゥン・カリキュラムとして教えていたどころがある。ALはそうした世界観へのアンチテーゼの意味をもつ。

(2) 複数で交流することにこそ価値をもつ課題
AL授業は「自分一人で考えた見解よりも、複数で交流することによって高次の見解が得られた」という経験を積み重ねること、それ自体に意義がある。将来、他人の意見を謙虚に受け入れる姿勢、他人の力を借りて自らを高めていく姿勢、自分が困ったときに他人にヘルプを出せる姿勢といった、総じて「他者とつながる姿勢」を子どもたちが身につけるには、AL授業の課題にもこうした視点が不可欠なのだということである。

(3) 子どもの将来に必要とされる課題
例えば、子どもたちが原発問題について考えることなく将来を生きていくことは可能だろうか。例えば、子どもたちが我が国の安全保障問題について考えることなく生きることが可能だろうか。いや、こうした社会問題だけではない。恋愛や結婚について、老人介護について、仕事のやり甲斐について、出世競争について、他人の人生にどこまで介入して良いのかについて……これらを考えることなく生きていくことが可能だろうか。これらはだれもが一度は真剣に悩み、その後、意識するしないはあるにしても人生を賭けて追究していくことになる課題なのではないか。どれもこれも自分の外に最適解などなく、結局は自分で自分なりの最適解をつくるしかない、自分自身で納得できる判断をしていくしかない、そういう問題意識として人生に立ち現れてくる、そうした課題なのである。

(4) 一回性を実感させる課題
すべての交流、すべての議論は大袈裟に言えば歴史性を帯びており、必ず一回性の機能をもっている。だからこそ、同じ課題で交流・議論するにしても、メンバーを入れ替えて複数回交流・議論することが奨励されるのであり(例えば「ジグソー」や「ワールド・カフェ」など)、同じメンバーの議論でも時間を隔てて複数回行うことが奨励されるのである。「対話」は生き物である。メンバーが変わればまったく異なった「対話」が形成される。また、人は日々学び、日々成長するから、同じメンバーでも時を隔てればまるで違う「対話」が現出する。このことを教師が深く認識しなければならない。

実はAL型授業の課題にはもう一つ重要な観点があります。

一斉授業の影響でしょうか、教師の中には一時間の授業で「中心課題は一つ」という思い込みがあるようです。補助課題、補助発問で補うことはあるにしても、その一時間を貫く課題は一つの方が良い、ということでしょう。ここからなんとなく一時間いっぱいをかけて交流・議論するダイナミックなAL型授業も課題は一つであるべきだというこだわりに至っているようです。もちろん、私もこのことに特に反対ではありません。

しかし、この考え方に伴って起こるのが、話し合いの仕方や考え方のパターン、注意事項など、交流以前に教師が語らなくてはならないことがあまりにも多くなりすぎ、インストラクションが極端に長くなってしまうという現象です。もちろん子どもたちがAL型授業に慣れてくればそれでもできないわけではありません。しかし、普通に考えればあまりにも長い説明はそれだけ取りこぼしが多くなるはずです。支援を要する子などはまずついてこられないと考えた方が良いはずです。

こんなことをするくらいなら、交流時間を十分ずつに分けて問いを三つ用意するとか、何か問題点が見つかったときには交流時間の途中でも全体を一度止めて全体指導をするとかした方が良いのではないでしょうか。ワールド・カフェなどは三つのラウンドのそれぞれに問いが用意されているくらいです。先の「AL課題の四条件」をたった一つの課題で満たすことができるというのは、ものすごく高度なことなのだと捉えましょう。タスク(=課題)はマネジメントすることこそが重要なのです。

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