なぜか料理までも仕事にしてしまった話。
料理が好きだ。在宅ワークになってからは毎日作っている。
簡単に作れるものから少し手の込んだ物まで。出汁は鰹出汁はもちろん、野菜のブロード、魚、コンソメ、ブイヨンまで。コロナ禍前は2ヶ月に一度くらい家に人を呼んでフルコース作ってたりもした。
ちなみにこのnoteは
ライカおじさんによる、
・仕事にしたことのない仕事を受けるときの考え方とアプローチ
・ホームパーティをやるときに考えるべきポイント
などが学べます。知らんけど。
過去お家に何度かお招きして料理を振る舞ったことのある方からある日、
「ヒロトさん、ケータリングの仕事やってましたよね?」
(やってない)
と連絡がきた。なんでも撮りたくなっちゃうライカおじさんは自負しているが、なんでも仕事にしちゃうライカおじさんになったつもりはない。
ちなみにこの方、ライカの恩人でM11を値上がり前の価格で譲ってくれた人。
この相談の趣旨としてはアート作品を展示して、アーティスト本人に解説もしてもらいつつ、興味のある人たちを呼んでパーティも同時開催するという欲張り企画を行いたいとのこと。そこで料理できる私には白羽の矢が立って矢鴨状態になったという流れだ。
ちょっと考えたものの、アート作品を買える余裕がある人→お金持っている人たち→毎日夕食にキャビアとか出てきちゃうヤベェグルメな人たち(低解像度)、と頭の中で即時変換されたので「やってないですよ~」と伝えつつ、シェフの知り合いもいるのでその伝手で紹介できるよ、と話したところ、
「あ、そのお宅の旦那さんライカ好きですよ」
とよくわからない理由で口説かれて完落ち。
観念して、
「あ・・・はい、やります(小声」
と回答。全部、ライカのせいだ。
私、氷河期世代。
もし就職できなかったらどうしよ?仕事なかったらどうしよ?と震えながら過ごしたものとしてはお仕事をいただけることについて感謝しかないのだ。ライカへのお布施のために今日も歯を食いしばって生きています。
さて計画の始まりなのだけれど、今回の仕事の課題は以下のポイントと整理。
20人という人数で途中参加、途中退出あり
12時~18時という長丁場&半立食パーティ
慣れないキッチンと道具の持ち込み
何よりも洗いもの含めワンオペ
安全性
1.20人という人数で途中参加、途中退出あり
こちらについては、全体の量をどうすべきかのコントロールが求められる。足りないよりはもちろん余ったほうがよいものの、予算もあるのでその中に収める必要がある。というかそもそも10人前は経験あるけれど、20人前なんては作ったことがない。肉や魚介の割合を増やしてしまうと全体コストがすぐに跳ねるし、野菜のメニューの割合を増やす必要があるが、地味になりがちだ。
パーティ料理という前提の上で、華やかさも出しつつ提供する必要がある。
2.12時~18時という長丁場&半立食
短時間のケータリングであれば前菜だけ用意し、あとはその場で調理した順に提供して出し終わったら撤収 でよいが、これだけの長丁場でかつパーティ形式となると事前にほとんどの料理を準備し、温かい料理だけ長時間の間に何度か定期的に調理して供する、というスタイルが必要になる。リアルタイムで調理される温かい料理の匂いや音が引き金となって人が動き、再度他の料理にも手が伸びる、というリズムも作れる形だ。
季節も冬なので冷菜だけでは気持ちも冷える、一方温菜が増えるとシンプルに手間が増えてしまう。参加者が「冷たいお料理多くて冷えちゃったね」という感想にならないところがボーダーライン。純粋に冷たいものが多かったかどうかだけでなく、印象にも左右されるので彩りも重要。
汁物が多いと紙皿の交換も増える、味が混ざるなど色々不都合が生じる。一部を除き水っぽくない料理を出すことも念頭に入れる必要がある。
3.慣れないキッチンと道具の持ち込み
キッチンは比較的広く、スペースの確保は十分だが慣れない分普段よりどうしても効率は落ちる。慣れない機材だと脳のリソースを奪われてしまうが、全部持ち込むのも物理的に制約が大きく、片付けも困難になる。
事前にご挨拶の機会をいただいたので、現地で機材を確認し、使い方や状態などを確認しておき、調理に影響のあるものや調味料以外は最低限の持ち込みで済むようにした。
4.何よりも洗いもの含めワンオペ
その場での洗い物を含めてすべてワンオペである。誰か呼んでもいいが、皿洗いだけしてくれるような都合のよい友人など存在しない。アレクサだってまともに話を聞いてくれないこんな世の中じゃpoison。食洗器はあるものの回せば40分は機材を取り出せないので、それはそれでリスク。洗い場は食洗機前提で狭め。海外でよくあるタイプのソレだ。そのため、
・現地での調理をできるだけ減らす(「当日は配膳するだけ」のメニューをできるだけ増やす)
・現地での洗い物をできるだけ減らす(一部大皿はアルミの使い捨てを使う)
という計画をした。
5.安全性
そして何より一番大事なことは「食」に関わる安全性だ。本来幸せな時間であるべき場で、飲食がトリガーで食中毒などを起こしては食べた方の健康はおろか、主催者の顔も潰してしまうという最悪の地獄だ。言い訳もできない。自宅であれば提供してすぐ食べてもらえる前提で出しているメニューもこの場においては長時間放置される可能性がある。
当然常温での細菌の繁殖は避けられないので
・料理は一度になくなり切る程度に少量ずつ盛り、定期的に盛り付ける
・そもそも安全性の高い料理をチョイスし、調理についても最大の注意を払う
という方針をとることにした。ベストと思う味でなくても高い安全性を優先する形だ。
個人的なゴールはシンプルに以下と設定。
・参加者:美味しい料理を食べて満足。12/25のパーティ感を味わって喜んでもらう。
・主催者:料理含めて主催者およびイベントに対するよい印象を参加者に抱いてもらう。
・企画者(私への依頼者、主催者とは別):企画者の評価と信頼度があがるようにする。
課題とゴールから色々検討を繰り返した結果、メニューとしては以下を用意。
ほうれん草のキッシュ
トマトと紅茶のマリネ
かぼちゃとナッツの温サラダ
牡蠣のネギマリネ
タコのグリーンソース
サツマイモのポタージュ
ローストビーフ
カジキのストゥファート
牛すじ煮込みのパッケリ
柿とクリームチーズ、生ハムのクラッカー
チーズとオリーブ、干し葡萄、ナッツ
フルーツ(いちご、パイナップル)
メニュー検討に対するアプローチ
ほうれん草のキッシュについては定番だがパーティ料理としても映えるし何より事前に作って当日切り分ければよいという点がメリット。生地から作るので手間は多い。
トマトと紅茶のマリネ(赤)、カボチャとナッツの温サラダ(黄)、タコのグリーンソース(緑)は我が家の定番で、かつ彩り要員である。季節感も出したいのでそこに牡蠣のネギマリネも加えた。牡蠣は少し怖いのでいつもよりじっくり目に火を通す形。ワインにもバチクソ合うし、当日の評判もよかった。
温かい料理+季節感という観点で作ったサツマイモのポタージュはオオゼキの甘くておいしい熟成焼き芋を買ってきて省力化。耐熱紙コップも用意した。実は耐熱じゃない紙コップも多いので注意。
ローストビーフは普段57℃くらいで火入れをするところ、安全性優先でタンパク質凝固のギリギリで63℃で安全性とのバランスをとる形。ソースも自作した。やはりローストビーフがあると食卓が華やかになる。レタスとエディブルフラワーで少し色を足して提供した。
肉料理が少ないのでパスタもパッケリという大き目のパスタに神戸牛すじ肉のソースでお肉としても食べ応えのあるかたちでサーブ。牛すじなのでコストもそこまでかからないものの、「神戸ビーフ」といブランドで特別感を前面に出せるのはよいところ。ショートパスタは伸びて触感が損なわれることも少ないので今回のような長丁場でも相性がよい。パルミジャーノも削っておいて味変にも対応した。見た目もワイルドなので、かなり人気のあった一品。
カジキのストゥファートはメインとして温かい魚料理もあったほうがよいと思い用意。ストゥファートは本来鍋ごとオーブンにぶち込むワイルド料理だが、今回はほぼクリーム煮。事前にアサリのブイヨンをとっておき、カジキも一人前に切って骨を完全に取り除いておく。身の柔らかい魚で前日にここまで仕込むとボロボロになってしまうのでしっかりしたカジキをチョイス。生クリームを使うので色合いとしてもお肉系の赤と対比が効く。さらに汁が多いので後から個別に温め直しもしやすい。念のため、ペンネも用意しておき、カジキの余ったソースとブイヨンを煮詰めてクリームソース仕立てで提供もした。アサリの出汁が効いてるので美味くないわけがない。
クラッカーやナッツ、干しブドウは満腹がお酒の友に口さみしいときに必要なので用意。フルーツのパイナップルは日持ちしやすいので事前に切ったのを持ち来み、傷みやすいいちごは当日カット。カットの仕方でボリューム感も変わる。フルーツはお子さんもいたので飛ぶようになくなった。やはりパーティ料理は最大公約数、最初依頼者には「クリスマスなのでケーキもよいかも」と言われたが、フルーツに切り替えてよかった。
振り返り
想定していたゴールは達成できたのではないかと思う。依頼者からも「大好評でしたね!」とメッセージ。当日のお客さんの反応もよく、質問も色々受けたりした。会話が増えるのは良い料理だ。
ボリュームに関しても若干余る程度でほぼ想定通りの着地。特に人気だったのはパスタとトマトとタコあたりだろうか?大量だったがほぼ売り切れた。帰宅する直前には徐々にナッツやチーズ、フルーツにみなシフトしてこれも想定通り。
反省としては以下
料理は見た目の「わかりやすさ」も重要。一人一人に説明している余裕も時間もなし。見た目でその食材が何か分かりづらいと手が伸びない印象。
この辺はSNSの写真とも共通かもしれない。かぼちゃのサラダがまさにコレ。少し残ってしまった。美味しいのに!
あと単純にワンオペキツい。そして前日は仕込みと買い出しで疲労困憊。料理は良い意味でもう少し手抜きできたと思う反面、見た目と味を維持しつつ手を抜くポイントがまだうま味調味料以外に思いつかない。今回は使っていないし、一方で否定もしないけど、そりゃ世の中で使われるはず。
という訳で料理を仕事にしてみた話でした。