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黒川温泉で憧れのあの人の背中を追った話:旅館 山河

こんにちは、あなたのココロのスキマ♡ライカと写真でお埋めします、hirotographerです。

遡ること十年ほど前のゴールデンウィーク、私は久住高原の山中で寒さに凍えていた。前日は大分の温泉近くでフリーキャンプ(野宿)。気温が5度まで下がり、寒くて眠れない。

なんとか翌日は久住高原のコテージを押さえたものの、冷え込みは前日よりも厳しく、キャンプ場で借りた毛布を体にぐるぐる巻いてから寝袋に入ってなんとか凌いだほどだった。
冷え切った体を温めるべく、朝からやっている温泉を調べるとちょうど黒川温泉に8:00~立ち寄り入浴可の宿があった。駐車場に車を止めて入浴料を払い、外の露天風呂に向けて歩いていると見たことのある人が目の前を通り過ぎ、私は思わず大声で呼び止めた。

「小池さん(仮)!!」

私の仕事の師匠だった。師匠と言っても一緒に仕事をしたわけではない。
2日間のトレーニングとその後数回のやり取りがあっただけで私の心にとんでもないインパクトと働き方の指針を与えてくれた人だ。それはマネージメントに携わるようになった今でもじわじわと生き続けている。

キャリアの最後で業界のトップマネジメントを数社経験した後現役を退いた小池さんは、その経験を活かして講師をされていた。

「フレックスだからってお客さんよりも遅い時間に出社する営業に未来はないよ」と語っていた小池さん。
ちょっとオールドスクールに響くかもしれないがそのために彼がやったことは1000人超える会社の役員なのに朝8:00に出社してエレベーター前に出社する社員一人一人に「おはよう!」と挨拶、とエクストリーム。みんなびっくりして行動が変わったらしい。

ちなみにこの会社には懇意にしている大学の先輩もいたのだけれど、「この話が事実である認定」と「あの人は神様だから」という言質をとった(師匠と3人で一緒に飲みにもいった)。

ある時「ひろとくん、君は1年にどれくらい働いているのかね?」と聞かれた私は1年間の営業日を数えて「250日くらいですかねぇ」とできるだけ早く答えた。愚直、否、愚鈍であった。

師匠はすぐさま
「ひろとくん、君は馬鹿だねぇぇ・・・」
と愛情をこめつつ言い放つと、


「私は365日24時間働いているよ」と一言。


明らかに怪訝な顔をしたであろう私を見ながら、

「遊んでる時も働いているんだからねぇ」とニヤリと付け加えた。

問われているのは実働時間ではなくて、自分の姿勢と切り返しの軽妙さについてだったのだ。数回の邂逅ではあるものの、おもむろに繰り出される問いに対して社会人としてどう答えるか?が求められた。ある意味ではビジネス大喜利である。

例えばあなたが飲み会の席に遅れたとする、その際に「ちょっと仕事が忙しくて・・・」などと言ったらこれはもう0点だ。「後輩の手伝いをしていた」ならギリギリ合格点、遅刻したマイナスを取り戻しつつ、場を盛り上げるならもう少し頓智の効いた答えをしなくてはならない。

答えのない課題に向き合うというのが仕事であるなら、答えのない質問にどう機知を効かせて答えるか?というのがあなたの仕事への姿勢となるのだ。

そんな師匠と偶然再会できた思い出の場所、黒川温泉旅館 山河に先日宿泊してきた。

山河は黒川温泉のメインエリアから離れた少し静かなエリアにある。その分広い敷地内には四季折々の草木が咲き乱れており、訪問した3月は椿が枝に、地に、美しく色を添えていた。

案内された部屋の床の間にも花瓶が置いてある。部屋数も結構あるので流石に造花かなと思ったら、生花だった。おそらく庭や近くの野山から摘んでいるのだとは思うが咲き具合の様子見ながら、各部屋に生ける労力たるや・・・ありがたみしかない。

お部屋は歴史を感じる和室で炬燵付。清掃も行き届いている。久々の炬燵に気分がアガるのは私だけではないはず。

驚いたのは部屋についている浴室だ。ワイルドな切石の風呂でお湯も滔々と掛け流されている。換気はスライド式のスリットで行う形でまさに湯の宿の風情。露天風呂付部屋を売りにする宿は最近増えたが、大抵循環でお湯の個性も死んでいるようなところが多い。大変贅沢な湯の使い方※で2つの自家源泉を持つ山河ならではのお風呂。

※有名温泉地でも1つの源泉を複数の宿で共有している場合や自家源泉でも湯量が少ない場合があり、利用できる湯量に制限が出るため、循環方式をとらざるを得なくなったりする。


部屋のお風呂は夜にとっておき、まずは露天の「もやいの湯」、内湯の「薬師の湯」に連続して浸かり、すっかり整うと部屋に戻って炬燵に入りながら、チェックイン時にもらった阿蘇ジャージー牛乳をゴクリと飲み干す。
ぽかぽかした体に冷たくて旨味の濃い~牛乳が流れ込むこの瞬間は最高の贅沢であることには全日本国民が賛同してくれるだろう。

妻も師匠とは一緒に飲んだことがあり、黒川で再会の話もしていたので少し思い出話なんかをしながら過ごしているとあっという間に夕食の時間である。

さて、ゴハンで驚いたのめちゃくちゃ手が込んでいることだ。写真を載せただけでは分からないと思うのでこれはちゃんと触れたい。

お刺身の雅鯛はちゃんと熟成、海老は昆布締め、鰆は焼霜作りと、しっかり手が加えられており、調味料も魚と馬刺しとホタルイカでちゃんと分けての提供。

山女魚の火の通り加減はしっとりさを残して完璧に近い。(川魚あまり好きじゃない妻もペロリ)

出汁もそばにはカツオの香りをしっかりと効かせ、お椀には昆布の余韻がしっかり残る丁寧なもの。芹のお浸しにもしっかりとお出汁の旨味を聞かせて手抜きがない。

・・・ものすごく丁寧な仕事だ。

特筆すべきは予約の時に選択したあか牛ステーキ。響き的には「客単価向上アップセルメニュー」みたいな感じなので、こういった温泉宿だと所謂「陶板焼き」スタイルで供されるのかと勘違いしていたのだけれど、伊万里焼の立派な大皿にしっかりと盛り付けられて出てきたときはさすがにびっくりした。

季節関係ないメニューなのにわざわざフキを散らして春を演出したり、付け合わせのマイタケの天ぷらもカリっと揚がっていたり、ジャポネソース、塩、わさび、柑橘系ソースと飽きずに食べれる工夫もされている。お肉のボリュームも十分すぎるほど。

この丁寧さは普段の自分の仕事ぶりを顧みざるを得ないレベル。
噛み締めるほどにあか牛の旨味がほとばしる。

スタッフの方々の印象もよく、となりのテーブルから朝聞こえてきた他のお客さんとの小気味よいやりとりなども心地よく、いつもと違う時間の流れを満喫できた。

チェックアウト前に朝風呂で湯に浸かっていると

「遊んでる時も働いているんだからねぇ」

と師匠の言葉をまた思い出した。

この素敵な週末もちゃんと全力で遊びきって働いたぞ。
さて、明日からの平日もがんばって働くか・・・。
無意識に少しだけ口角が上がっていた。

相変わらず師匠の背中はまだ遠く、全く追い付ける気がしないものの、黒川のやさしい湯に浸かりながら過去に未来に思いを馳せる、そんな良い旅だった。


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