「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(ライ麦畑でつかまえて)サリンジャー 1951年 村上春樹訳 雑感 2025年1月7日

書かれた時期は1940年代半ばである。が、戦争の話は出てこない。

主人公ホールデンは、世の中の全ての常識に反抗したくなる16歳である。全ての権威に盾つき、通らなければ自分が傷つかない言い訳を見つけて避けて通る。自分が非力なことを重々承知だが、批判・批評し、結果徐々に状況は悪くなっていく。若き頃、誰もが身に覚えのある経験であろう。
本書はこの脈絡のない惨めな出来事で埋め尽くされている。盛り上がりも、盛り下がりもない。

さて雑感

・ホールデンが通っていたのはボーディングスクール(寄宿学校)で、お金持ちの子息が行く学校である。彼は18歳の生徒と同室である。驚くのはその対等なことである。日本だと先輩がのさばって、先輩が卒業するまで後輩は小さくなって過ごさなければならないだろう。そういうところが全くない。日本でボーディングスクールが流行らないのは、上下関係が無意味に強いからだろう。エマニュエル・トッド氏によると、アングロサクソンは兄弟間が対等らしいので、その影響を受けているのかも知れない。

・16歳のホールデンはニューヨークで一人でホテルに泊まり、タクシーに乗って移動し、バーで酒を飲む。バーでは、遠くに座っている女性客にバーテンダーを通して酒をおごろうと声をかける。本書は数字にはコメディー的な誇張が多いが、それ以外は正確な描写だと思う。だとするとこれは日本とはかけ離れた文化だと思う。

軽妙な訳文は村上春樹氏によるもので、楽しく読める。