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Never come back again〜スピード違反でアメリカの裁判所に出廷した③


法廷では警察官が証拠写真をモニターに写しながら自信たっぷりに何やら話している。被告と思われる人は他州に住んでいるらしく、Zoom越しの出廷だった。裁判内容が完全に公開されており、遠隔地でも出廷する権利が保証されている。公正が担保されており、ある意味フェアだ。が、素人が警察にプロ仕様で詰められるて勝てることがあるのだろうか。案の定、私の目の前であっさりと被告の違反が認定され、1000㌦近くの罰金か地域奉仕のペナルティが課されようとしていた。これは厳しそうだ。時計を見ると私の裁判開始時間は10分ほど過ぎており、目の前の裁判は少し長引いている様だった。緊張しながら待機スペースで見守る私に、係官が私に近づいてきて本人確認をされた。覚悟を決めた。

「相手側の警察がまだ来てない。あと8分以内にこなければあなたの違反は退けられるよ。よかったね」


係官はそういってウインクした。おー。
心の中でため息が漏れた。その瞬間から早く8分経てと心の底から願った。すると、2分後に二人組の警官が書類を片手に入ってきた。半年も前のことだから当然私を止めた警官の顔など覚えていない。さっきウィンクした係官を見ると顔がこわばっているようにも見える。目の前で進行する裁判が一切頭に入ってこなくなった。フライング?裁判前の揺さぶりとしては非常に効果的なテクニックだ。しかし、そんな不安は杞憂だった。二人の警官は私に関係なく、私の相手はついに現れなかった。8分間の感情のジェットコースターが終わった。

正式に裁判官から名前を呼ばれ、警察が欠席のため証拠不十分で無罪と言われた。ような気がする。とにかく、違反が問われなくなり、支払い済みの保釈金も返金されるらしかったのは聞き取れた。。車の保険にもおそらく影響は無し。めちゃくちゃ嬉しかったし、金銭的にもすごく助かった。喜びは裁判官にも伝わったような気がする。ありがとうございますと心からお礼を言い法廷を後にした。一方でそうこうしてる間に万一警察が来たらどうしようという不安も拭えなかった。足早に法廷から去った。

あとから調べると、出廷も含めて弁護士に依頼するやり方もあったようだ。調べてみると値段はまちまちだが私のケースだと1000㌦くらいはかかったんじゃないだろうか。結局はお金なのかもしれない。警察が現れなかった理由はわからない。非番だったのか、違反を立証する十分な証拠がなかったのか、書面や出廷で挑んでくる私のしつこさにめんどくさく感じたのか。おそらく運がよかったのだろう。

私も決して安全な運転ではなかったんだと思う。91マイルは出していないにしても。この辺には乱暴な運転をする人が結構いる。警察を恐れながら運転する私をびゅんびゅん追い越してゆく。そんなアウトロー達を取り締まる警察は大変だ。

チケットを切られて以来、できるだけ余裕を持って運転するクセがついた。そもそも安全第一で常に運転していればこんなことにならないのだから、そこは反省した。しかし、疑問点や納得できない点に対しては異議申し立てをする。相手の警官が出廷していたら違った結果になったかもしれないが、泣き寝入りせずに主張することの大切さを改めて学んだと思う。感情表現や自己主張が控えめになりがちな純和風気質な私は、そんなことを考えながら裁判所を後にした。

そういえばさっき見たThis is My Tank Topおじさん。あんなに自己主張したタンクトップもなかなか無いだろう。裁判所のTPO完全無視ファッションは際立って目立っていた。自己主張の大先輩だ。彼が何をしに裁判所に来たか、その後どうなったのか少し気になった。

だけどここにはもう二度と来たくない。

*写真は独立記念日の花火。小さな街なので都会と比べ、自己主張が控えめで趣ある花火だった。


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