進次郎は「職業バカ息子」説
自民党総裁選の立候補者9名による公開討論の場で、小泉進次郎候補は、拉致問題に係る北朝鮮対応を問われ、概略、
「(金正恩とは)お互い同世代ですし。親同士も会ってますので」
と予想の斜め上をいく回答をして、方々で失笑を買っている。
進次郎が総理大臣なら日本オワタ、を心から憂う者の一人として僕は、いかにも進次郎らしい痛快な返し! とむしろ喜んでいるくらいだが、果たして当の本人は(痛快ならぬ)痛恨のミスとの理解でいてくれるだろうか。考えれば考えるほど暗澹たる気持ちになる。
この発言、もう少し細かくみると、前半の「お互い同世代ですし」部分は、拉致問題を一度も真剣に考えたことはないと白状した上で、若い者同士、胸襟を開いて話せば世の中に解決できないことは何もないという幼稚、かつ天然なオプティミズム臭がぷんぷん。
また、後半の「親同士も会ってますので」部分は、拉致問題解決の端緒を開いたのは、他でもないうちのオヤジ(純一郎)であるという素朴なプライドもさることながら、拉致問題を解決に導けるのは小泉家の人間をおいて他にないのだという、ある種の選民思想さえ垣間見る思いである。
ただ、「進次郎構文」という、一種のトートロジーが嘲笑の的……というか大喜利のお題としてバズる一方で、純一郎譲りの演説力はあれはあれで非凡なる才能。まさに「お家芸」の域に達しているとは思う。でなければ、高校球児として年がら年中グランドにいたような男が、ある日、突然聴衆を熱狂させるトリックスターに変貌を遂げるとはどうにも説明がつかないのである。
そこで、仮説として、僕は、進次郎=筋金入りの職業バカ息子説を唱えたい。
詳しい言葉の解説は不要かとは思うが、「職業バカ息子」の意は、巷間言われるように進次郎が真に「バカ息子」かどうかはこの際、いったんおくとして、実はご本人はそう呼ばれることを弱点ではなく、むしろ強みと捉え、政治家・小泉進次郎を構成する重要な一要素として積極的に利用してきたフシがある、と言いたい。
ちなみに、目下「ビッグ3」と一括りにされる他の候補者のうち、高市早苗には「職業極右」説、あるいは、石破茂には「職業ねばならないオバケ」説(=語尾に「ねばならない」さえ付ければどんなに月並みな言説も「石破節」に変換できると信じて疑わない説)があるとかないとか。
さて、本題の「進次郎=筋金入りの職業バカ息子説」だが、その源流はなんといっても少年期まで遡る必要があろうかと思う。
言っても父は小泉純一郎。進次郎は物心ついた頃から羨望と嘲笑の両極の眼差しを浴びせられて来たに違いない。ならば、できるだけ目立たぬように振る舞うというのも一つの処世術だったかと思うが、進次郎少年はその選択肢は採らなかった。政治家・小泉純一郎のほぼ完コピ、またはデフォルメという芸当を身につけながら、「むしろ父より目立つ」という逆バリに光明を見出したのではないか。そして、自ら進んで、
「小泉家をぶっ壊す!」
「進次郎に反対する者は、みーんな抵抗勢力!」
などと無邪気におちゃらけてみせたかもしれない。
瞬く間に、進次郎のバカ息子っぷりはヤバい、オヤジに輪をかけてウケる、といった評価を勝ち得たのではないか。バカ息子と揶揄されながらも、陰では、なかなかの策士、かつ努力家という辺りが、案外、進次郎の素顔かもしれない。
長じて、オヤジの秘書に就いてから後は、持ち前の愛されキャラと体育会系気質とで自民党を取り巻く衆愚政治コミュニティの住人たち——とりわけ長老ボスたち——にすんなり受け容れられもし、可愛がられもしたことは想像に難くない。
それでも早くからオヤジ同様の「テッペン盗り」の野望を抱いた青年・進次郎はタダの反りの良い男に収まるわけにはいかなかった。純一郎の「変人」に匹敵する、傍若無人に振る舞うための免罪符、おまじないがどうしても欲しかった。結論的には、それこそが「バカ息子」の称号と、早い段階で心得たのではないか。
「(環境大臣の)進次郎に「知ってましたか? プラスチックは石油からできてるんですね」とドヤ顔で講釈垂れられたが、ま、バカ息子だから仕方ないか」
「(総理総裁候補者の)進次郎が「解雇規制は見直して……日本社会には職の流動性が必要」と唱えるが、政治家しかやっとらんオマユウ? ま、バカ息子だから仕方ないか」
レジ袋の有料化をいつの間にか飲まされてしまったのは——いまもって腹立たしくはあるが——まだ良い。だが、今回ばかりは間違っても進次郎を総理大臣にしてはいけない。相手はタダの「バカ息子」なんかではなく、「職業バカ息子」なんだぞ。
とここまで書いてきて、進次郎は意外と自らの立ち位置が分かるGPS男であり、「変人の息子」という、難しい役回りを器用、かつ見事に切り抜けてきた努力の人であるということに気がついた。
実際、Sexy発言ばかりが揶揄されることの多い彼の英語力も、河野太郎より下だが、岸田文雄よりははるかに上、というのが僕の見立てである(わりと自信あり)。
小泉進次郎の根本問題は、逆説的ではあるが、決定的な若さの欠如に他ならない。幼くして変人宰相のプロ・バカ息子というポジショニングが有効と決めてかかって「成長」してきた彼は、好奇の眼差しに満ち満ちた世間や、老獪な取り巻きに持ち上げられては突き落とされる政界で、他人の何倍ものスピードで老化してしまったのである。
ここでの一応の結論。世間はその男を「バカ息子」呼ばわりし、その稚拙な言動ばかり挙げ連ねては揶揄するが、気をつけろ! 彼は単なる「バカ息子」なんかではなく「職業バカ息子」。候補者9名中、誰よりも年寄りじみた、硬直した考えの持ち主なのだ。「職業バカ息子」は「ホントは怖いワカ年寄り」と心して、「いいじゃないか、イットー若い彼に一回やらせてみても」などとはゆめゆめ考えてはいけない。