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中居くんの退場劇、または復活劇はぜひとも「明転」で

舞台演出の面白さは暗転より明転にある、と信じて疑わない。

場面転換において、役者の決めゼリフなどを合図に、係が舞台の照明を一度、一斉に落とし、いわばブラックアウト効果を最大限活かすのが暗転。「暗転明け」に舞台風景が一変するのは、いわば暗転マジックとでも呼ぶべきもので、劇場に身を置く者だけが味わうことのできる、観劇の醍醐味のひとつである。ただ、まあ、その「マジック」も多用するとその効果はだんだんに減衰する。

対して、明転は、舞台の照明はそのままに、あるいは輝度を少しだけ落とした上で、場面転換を衆人環視でやる、すなわち、観客にその一部始終を敢えて見せる。ゆえに、一度ストップモーションを決めた役者が演技を解いて舞台袖にささっと引っ込む様や、自ら移動中の大道具に蹴躓く裏方さんの慌てっぷりなど、ちょっとしたハプニングもすべてが白日の下に晒されるのが明転。瞬間、ニコリと笑顔になった観客も、「明転明け」では何事もなかった体で気持ちを再度芝居に没入し直すわけで、演者と観客の共犯関係は、見える分だけ、暗転よりより濃密とも言えよう。

さて、おそらくは犯罪の色濃い性加害の末、被害者女性の一人に、一説には9000万円ともいう法外な和解金を支払ったことで、いままさにテレビの表舞台から退場しようとしている中居正広の突如の「場面転換」は、これが暗転たるべきか明転たるべきかと問われれば、僕は迷わず「明転たれ!」と叫ぶだろう。

同じ「性加害」を疑われても、松本人志には少なくとも漫才師としての天賦の才がある。たとえテレビ界を永久追放されようとも、相棒の浜田雅功と大阪の演芸場からやり直すなり、ソーシャルメディアで新たな活動の場を拓くなりすれば、早晩、その才能は再び固定ファンや新たなお客さんから一定の支持を受けることは想像に難くない。

かたや、かつてはSMAPのメンバー兼リーダーとして圧倒的な人気と知名度を誇った中居くんを、その実力以上に重宝がりもし、実際、重用もしてきたテレビ界が「9000万円示談」分の性加害の真相に怯えて、その扱いに手をこまねいている。テレビ関係者たちや、その背後にいる企業スポンサー各社が一様に怖気づき、後退りしている以上、「芸なし」の中居くんに残された途はただ一つ。この退場劇という「場面転換」そのものをも、「希代のMC」として、自らいかに仕切ることができるか。そこは「元ヤン」の肝の据えどころ。明転そのものをいかに見せる(魅せる)ことができるかにかかっている、と思えてならない。

例えば、中居くん家のリビングを俯瞰する定点カメラの映像を24時間、YouTubeで垂れ流しにするのはどうだ。憔悴しきった中居くんの様子や心情が手にとるように分かるとともに、そこは40年近く、芸能界の一線で活躍してきた彼のこと、意外な人物が「ナカイの窓」ならぬ「ナカイの木戸」をくぐって元気づけに来てくれたりも期待できよう。

そもそも、80年代の後半、NHKの音楽番組の台本作家として、デビュー前後の中居くんとも一緒に仕事をすることも少なくなかった僕は、彼をやがて「番組MC」として育てんとする所属事務所(ジャニーズ事務所)、ないしはその代表(ジャニー喜多川)の育成方針にまったくもってくみできず、その実現性にただただ懐疑的であった。

カメラが回っていてさえ、垂れた前髪を「ふっ!」と自らの息で吹き飛ばさんとする当時の彼独特の癖に、

「おいおい、それだけはやめよっか」

と笑顔で叱責しつつ、内心、暗澹たる気持ちになったことを今もときどき思い出す。

が、その後、ほんの去年の暮れに至るまで、在京のテレビ局のほとんどすべてで自身の名前を冠した番組の、メイン MCを誇っていたのだ。あの「中居MC路線否定論者」だった僕は、「目利き」喜多川氏にまったくもって敵わなかったこと、潔く認めたい。

誰の目にも「成功者」として映る彼は、しかし、埋めきれない寂しさのようなものを、自宅マンションや高級ホテルのスイートルームでの「女子アナ飲み」や、その後の乱痴気騒ぎで紛らわせていたということ、僕のなかでは非難する気持ちよりどうしても同情が勝る。

その欠乏感の本質とは一体全体なんだったのか? 中居くん、ここはこの連日の大騒ぎの先に、退場するにせよ、(願わくば)復活するにせよ、騒動の舞台裏を「明転」によって岩盤支持層たるファンのみなさんや、中居MC番組を長年支持してきた多くの視聴者に曝け出してみてはどうだ。

SMAPや MC中居が成し遂げた偉業が、僕ら同時代を生きた者たちとの共同作業であった以上、この大変な難局も、野次馬や評論家としてではなく、「自分事の一部」として、結末を見届けたい、と心から願う。「当事者意識」を持つ人々は、僕も含めて思いのほか多いのだから。

それにしても、若き日の、自らの性被害を超克し、 「MC中居」として他の追従を振り切ったかの中居くんが、今度は性加害者として社会に断罪されようとしている。ジャニー喜多川の悪業の連鎖はどこまでも暗く、重い。

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