自分だけの秘密基地
はじめまして。Hiroと申します。
みなさんは″とらねこさん″という、noterさんをご存知ですか?
記事を書くだけでなく、さまざま企画を立ち上げ、いろんな活動をされている方です。
そのとらねこさんが主催している、文学作品をつくる試み『文豪へのいざない』という企画への参加作品です。
今回のお題は『自分だけの秘密基地』
さっそくいってみましょー
『自分だけの秘密基地』
”秘密基地”
子供にとってのそれは、
どことなく謎めいていて、
魅力的な言葉だった。
それは、物理的な隠れ家だったり、
精神的な憩いの場だったり、
姿カタチは、それぞれだと思う。
僕にとっての秘密基地は、
小学四年生の時、校舎の裏山にある、
大きな木の根元にある、小さな穴だった。
その穴は、リスが潜りこんで、
雨宿りしたり、木の実を隠すのに最適な、
直径30cmくらいの、小さな空間だった。
僕は小学四年の夏から始まったイジメで、
教室に居場所が無く、生き物係の特権で、
ウサギ小屋の清掃と、裏山の畑への散策が、
いつの間にか日課になっていた。
いつものように、ウサギ小屋でメソメソ泣き、
夕暮れ時に、畑の様子を見に行った。
たまたま、畑への道を歩いていたら、
畑の奥に、大きな木があるのが見えて、
何となく、その木の根本に行ってみたくなり、
トボトボと、木の根本に向かって歩いた。
だんだん、その木が近づくにつれ、
まるで神社にあるような、立派な大木で、
何となく神聖な感じがした。
それから、ウサギ小屋→畑→木の根本と、
散歩コースが馴染んできた。
木の根本はいつも静かで、落ち着いた。
そのうち、その木の根本で、
本でも読んでみようと思い、
読みかけのマンガを持って、
その木の根本で、本を読むことが、
唯一の楽しみになった。
だんだん、心の安らぎを求めるように、
そこにたどりつくことが、楽しみになり、
マンガ以外に何か持っていこうと、
だんだん考えるようになった。
お尻に敷く、赤と青のチェック柄のシート、
オヤジから借りた、パチンと折り畳みができる
金属製のオペラグラス。
そして、サバイバル気分を盛り上げる、
OLFAのカッターナイフを、電話の横のペン立てから、こっそり持ち出した。
丈夫めの木の箱を、台所から持って行くと、
何に使うのと、母に聞かれたけど、
べつにといってごまかした。
そんなこんなで季節はめぐり、秋になった。
いつものように、ウサギ→畑→木の根本に、
行こうしたら、いつもの場所から、けたたましく、機械の音と、バリバリという、破壊音が聞こえた。
ギョッとなり、嫌な予感がし、変な汗が出た。
自分でもびっくりするくらいの早足で、山道を登ると、いつもの大木の周りに、ショベルカーと、トラックがならび、大胆に土を掘り起こし、大切な大木は斜めになり、キャタピラーに踏み潰されていた。
怒り、悲しみ、絶望。
なんとも言えない衝撃で、僕は胸元を掻きむしり、その場で膝をついた。
そして、イヤなくらい冷静に、木の根本の小さな穴に隠した、オペラグラスとカッターナイフがどうなっているかを想像した。
掘り起こされた、木の根っこが、生き物の死体みたいに横たわっていた。
どのくらい、そこにいたのか‥
夕日が沈み、暗くなってきて、怖くなって、走って山道を走った。
大木を失った悲しみ、オペラグラスをなくした切なさ、親に怒られる恐怖、秘密基地を失った心細さ。
いろんな感情が渦巻いて、ぼろぼろ泣いた。
僕の秘密基地は今はもうない。
裏山には高速道路が通って、大木の代わりに、
コンクリートの柱がそびえ立つ。
でも、たしかにその根本にあったんだ、
僕の大切な秘密基地が。
あれから40年も経つけど、
今でも僕の心の中には、まだ秘密基地がある。
(おわり)
最後まで読んで頂きありがとうございました。
この作品をきっかけに、あなたの秘密基地が、
見つかることを願っております。
それではみなさん。よい週末を!
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