【食道】登録販売者第二章消化器系補足③-3

食道は、咽頭から胃までの通路として、飲み込んだ食べ物を胃に送り込む役割を果たす管状の器官です。ここでは食道の構造、機能、食物の移動方法、逆流防止の仕組み、関連する疾患について詳しく解説します。


1. 食道の構造

食道は約25cmの長さで、首から胸部を経て、横隔膜を通過し、腹部に位置する胃に接続しています。食道の内壁は粘膜で覆われ、さらに周囲を筋肉層が取り巻き、食物をスムーズに胃に運ぶ構造をしています。

  • 粘膜層:内側の粘膜層は、粘液を分泌して食べ物の滑りを良くし、食道内壁を保護します。

  • 筋肉層:外側の筋肉層には、上部は骨格筋、下部は平滑筋があり、蠕動運動(ぜんどううんどう)によって食べ物を胃まで送り込みます。

  • 神経支配:食道の動きは自律神経によって制御され、無意識での運動が可能です。


2. 食べ物の移動方法:蠕動運動

食道の筋肉は収縮と弛緩を繰り返しながら、食べ物を胃へと移動させます。この動きは蠕動運動と呼ばれ、以下のように進行します。

  • 食塊(しょくかい):口腔で咀嚼され、唾液と混ぜ合わせた食べ物の塊(食塊)が、咽頭を経由して食道へ入ります。

  • 筋肉の収縮と弛緩:食道の筋肉が順次収縮と弛緩を行い、食べ物を下へと押し出すように動かします。これにより、重力に逆らっても食物が胃へと送り込まれます。たとえば、逆立ちをしても食物が胃へ移動することができるのは、蠕動運動のおかげです。

  • 自律的な運動:この運動は自律神経の働きにより、意識とは関係なく行われます。食道上部の骨格筋が食べ物の移動を開始し、中部から下部の平滑筋にバトンタッチされるように連続的に進みます。


3. 逆流防止の仕組み

食道は、胃酸や胃内容物の逆流を防ぐために、上部と下部に「括約筋(かつやくきん)」と呼ばれる筋肉の弁を備えています。

上部食道括約筋(UES)

  • 位置と役割:咽頭と食道の間にある筋肉で、通常は閉じており、食べ物や空気が誤って気管に入らないようにしています。

  • 飲み込みの際に開く:嚥下反射が起きると瞬時に開き、食塊を食道内に受け入れ、その後すぐに閉じます。

下部食道括約筋(LES)

  • 位置と役割:食道と胃の接合部にある筋肉で、胃内容物が食道に逆流しないようにしています。

  • 食物が通過するときに開く:食物が食道を通り胃に入るときに一時的に弛緩して開き、食物を胃内に送り込んだ後はすぐに閉じます。これにより、胃酸や消化酵素が食道に逆流するのを防ぎます。

  • 逆流性食道炎との関連:LESがうまく機能しないと胃酸が食道に逆流し、逆流性食道炎を引き起こすことがあります。LESの機能低下が逆流性食道炎の大きな原因のひとつです。


4. 食道の役割と消化液の欠如

食道の役割はあくまで食物の通過であり、ここでは消化液は分泌されません。このため、食道での化学的な消化は行われず、物理的な移動のみが行われています。

  • 粘液の分泌:食道内の粘膜からは粘液が分泌され、食物の滑りをよくする役割を果たしますが、胃のように消化酵素や胃酸などの消化液は分泌されません。

  • 試験でのポイント:試験問題などでは、食道が消化液を分泌するかどうかが問われることがあり、「食道は消化液を分泌しない」という点は重要なポイントとなります。


5. 食道に関連する疾患

食道は食べ物の移動に重要ですが、いくつかの疾患が発生することもあります。以下は主な食道疾患です。

逆流性食道炎

  • 原因:下部食道括約筋(LES)の弛緩や機能低下により、胃酸が食道に逆流して生じます。

  • 症状:胸焼け、呑酸(酸っぱい液体が上がる感覚)、喉の痛みや炎症が見られます。

  • 治療:薬物治療(プロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬による胃酸分泌抑制)が一般的で、生活習慣の改善も効果的です。

食道裂孔ヘルニア

  • 原因:横隔膜の食道裂孔(食道が通る穴)から胃が胸部に押し出され、逆流性食道炎のリスクが高まる状態です。

  • 症状:胸焼け、腹部膨満感、胃酸の逆流などが見られます。

  • 治療:薬物治療のほか、重度の場合は手術が検討されます。

食道がん

  • 原因:飲酒や喫煙、逆流性食道炎の長期的な炎症がリスク要因となり、食道の細胞ががん化します。

  • 症状:食べ物が飲み込みにくい、胸の痛み、体重減少などが見られます。

  • 治療:手術、放射線治療、化学療法が行われます。早期発見が治療成功の鍵です。

食道けいれん

  • 原因:食道の筋肉が異常に収縮し、食べ物がスムーズに胃に運ばれなくなることです。

  • 症状:胸の痛み、食べ物が詰まった感じ、飲み込みの困難が見られます。

  • 治療:抗けいれん薬、筋肉弛緩薬が使用されることがあります。


6. 食道の健康維持

食道の健康を保つためには、胃酸の逆流を防ぐための生活習慣の改善が重要です。

  • 食事の管理:食後すぐに横にならない、脂肪分や刺激物(カフェイン、アルコール、辛いものなど)を控えるといった食事管理が有効です。

  • 体重管理:肥満は腹圧を高め、逆流性食道炎のリスクを増加させるため、適正体重を保つことが推奨されます。

  • 禁煙と節酒:タバコやアルコールはLESを緩め、逆流を促進するため、禁煙や節酒が食道の健康維持に重要です。


食道は消化管の中でも、食物を胃に送り届けるだけのシンプルな役割を担う器官ですが、逆流性食道炎などの疾患が起こることで消化器全体のバランスに影響を与えます。消化液は分泌せず、粘液のみで食物を保護しながらスムーズに移動させる仕組みや、蠕動運動による自律的な移動が特徴です。食道の健康を維持することは、消化器全体の健康にとって非常に重要といえます。

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