【胃の構造】登録販売者第二章消化器系補足③-4
胃は、食道から送られてきた食べ物を一時的に貯留し、さらに消化酵素や胃酸を使って食物を分解する消化器系の主要な器官です。胃の構造、働き、消化の仕組み、分泌物の種類、食べ物の滞留時間、胃の保護機構、胃に関連する疾患について詳しく解説します。
1. 胃の構造 ※登録販売者試験には出ません。
胃は左上腹部に位置し、膨らんだ袋状の構造をしています。胃は4つの主要な部位に分けられ、それぞれ異なる役割を果たしています。
噴門部(ふんもんぶ):食道と胃の接続部で、食べ物が食道から胃に入る入口です。噴門部には下部食道括約筋があり、胃内容物の逆流を防ぎます。
胃底部(いていぶ):胃の最上部で、食べ物が胃に入ると最初に溜まる場所です。
胃体部(いたいぶ):胃の中央部分で、食べ物を一時的に保管し、胃酸や消化酵素が食物と混ざりやすいようにします。
幽門部(ゆうもんぶ):胃の出口で、小腸の最初の部分である十二指腸につながっています。幽門括約筋によって制御され、適切なタイミングで食べ物が小腸に送られます。
2. 胃の働き
胃の主な働きは、食べ物を貯蔵し、分解することです。食べ物は胃で数時間保管され、消化酵素や胃酸の働きによって粥状(かゆじょう)にまで分解されます。
食物の貯蔵:食べ物が胃に入ると、胃は膨らんで一時的に大量の食物を貯蔵します。これにより、次の消化段階(小腸)でゆっくりと栄養素を吸収できる準備が整います。
食物の消化:胃の筋肉が蠕動運動(ぜんどううんどう)を行い、食べ物を混ぜ合わせることで胃酸や消化酵素と接触させ、効率よく分解します。
殺菌:胃酸(塩酸)は非常に強い酸性で、摂取した食べ物に含まれる細菌や微生物を殺菌する役割も持っています。
3. 消化の仕組み:胃酸と消化酵素
胃では、主にタンパク質の消化が行われます。胃酸と消化酵素が協力して、食物の化学的な分解を進めます。
胃酸(塩酸)
酸性環境の維持:胃酸は胃内をpH1〜2程度の強酸性に保ち、食物中の細菌を殺菌する働きを持ちます。また、この酸性環境が酵素ペプシンの働きを助け、タンパク質の分解を促進します。
分泌制御:胃酸は食べ物の刺激や副交感神経の刺激によって分泌され、胃内容物の消化が進むと分泌が抑えられるように調整されています。
ペプシノーゲンとペプシン
ペプシノーゲン:胃の主細胞から分泌される無活性の消化酵素で、胃酸に触れると活性化し、ペプシンに変わります。
ペプシン:タンパク質を分解する酵素で、ペプトンという中間生成物まで分解します。これにより、次段階での消化がスムーズに進みます。
消化の開始:タンパク質が胃で最初に分解されることで、体に必要なアミノ酸に変換されやすくなり、エネルギーや体の構成成分として利用可能になります。
4. 胃の分泌物の種類と役割
胃では、消化に重要な役割を果たすさまざまな物質が分泌されます。
粘液
胃粘膜の保護:胃内壁の上皮細胞から分泌される粘液が胃の内壁を覆い、強酸性の胃酸から保護します。胃酸が直接胃の壁に触れないようにすることで、胃の損傷を防ぎます。
バリア機能:この粘液層は、胃のpH環境と粘膜組織を分離し、自己消化を防止する重要なバリアとして働きます。
内因子(ビタミンB12吸収に必要)
内因子の働き:胃の壁細胞から分泌される内因子(インストリンスファクター)は、ビタミンB12の吸収に必要な物質で、小腸での吸収を助けます。
ビタミンB12の役割:ビタミンB12は赤血球の形成や神経機能に不可欠な栄養素で、内因子が欠乏すると貧血(悪性貧血)などの症状が出ることがあります。
※詳しくはビタミンの章で解説。
5. 食べ物の滞留時間と消化の進行
胃における食べ物の滞留時間は、食物の種類によって異なります。胃で消化が進んだ食べ物は、粥状(かゆじょう)の「キーム」となり、少しずつ小腸へ送られます。
炭水化物:消化が比較的速く、滞留時間は短めです。粥状になった食物は1~2時間で小腸に移動します。
タンパク質:炭水化物よりやや長く胃に留まり、消化には2〜3時間かかります。
脂質:最も消化に時間がかかり、胃に3〜5時間程度滞留します。脂質は消化にエネルギーがかかるため、消化時間も長くなります。
このため、胃に優しい食事が求められる場合(風邪の時や消化不良時)には、炭水化物主体の食事が推奨されます。
※中医学的にも脾胃が弱い人には消化に良い食べ物を推奨します。焼肉や天ぷらは非推奨です。
6. 胃の自己保護機構
胃は強力な酸性環境で消化を行っていますが、自身の粘膜が消化されないよう、複数の保護機構を持っています。
粘液の分泌:胃の内壁を覆う粘液層が、胃酸やペプシンから胃粘膜を保護します。
細胞の再生:胃の粘膜細胞は損傷を受けるとすぐに再生し、新しい細胞と入れ替わります。胃粘膜は非常に再生力が高く、数日で入れ替わります。
バランスの調整:胃酸の分泌と粘液の分泌がバランスを取り合うことで、胃の健康が保たれています。バランスが崩れると胃炎や潰瘍が発生しやすくなります。
7. 胃に関連する疾患
胃は日常生活の影響を受けやすく、いくつかの疾患が発生することがあります。以下は代表的な疾患です。
胃炎
急性胃炎:飲酒や過度のストレス、薬剤(特にNSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)の使用により胃粘膜が急激に炎症を起こす状態です。
慢性胃炎:ピロリ菌感染や長期的な薬剤使用により、慢性的な炎症が胃粘膜に発生します。胃粘膜が徐々に薄くなるため、胃がんのリスクも増加します。
※西洋薬を長期的に飲み続けることはそれだけでリスクが増える可能性があります。
胃潰瘍
原因:胃酸やピロリ菌が主な原因です。胃酸が粘膜を直接攻撃し、粘膜に穴(潰瘍)が開きます。
症状:空腹時や夜間の痛み、嘔吐、吐血などが見られます。
治療:プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬で胃酸分泌を抑え、ピロリ菌除菌治療も行われます。
逆流性食道炎
原因:胃酸が食道に逆流することで、食道の粘膜が炎症を起こします。食事後すぐに横になる、脂肪の多い食事、過度のアルコール摂取が原因になることが多いです。
症状:胸焼けや呑酸(酸っぱいものが喉に上がってくる感覚)があります。
治療:食習慣の改善や薬物治療が行われ、必要に応じて手術も検討されます。
胃がん
リスク要因:ピロリ菌感染、喫煙、塩分の高い食事などが主な要因です。慢性胃炎が進行して発生することもあります。
症状:早期には症状が乏しいことが多く、進行すると食欲不振、体重減少、腹痛などが現れます。
治療:早期発見であれば内視鏡手術が可能で、進行がんでは外科手術、化学療法、放射線治療が行われます。
胃の健康維持
胃は日常生活の影響を受けやすいため、以下の点に気をつけることで健康を維持することが可能です。
バランスの取れた食事:脂質や刺激物を控え、消化しやすい食事を心がけましょう。
禁煙と節酒:タバコやアルコールは胃酸分泌や胃粘膜を刺激するため、胃疾患のリスクを高めます。
ストレス管理:ストレスは胃酸分泌を増加させ、胃粘膜に負担をかけます。適切なリラクゼーション方法を見つけることが大切です。
※中医学では脾胃はセットとなっており、五臓六腑の中でも非常に重要な位置にとらえられます。
胃は食物の消化に不可欠な役割を果たしつつも、自らを守るための巧妙な機構も備えています。しかし、生活習慣や疾患によってそのバランスが崩れると、胃炎や潰瘍などの病気が発生するため、日常的なケアが重要です。