【疑問】薬草と中医学は違うのか?

薬草と中医学は違うと言われたのですが、納得ができませんでした。というのは、薬草=神農本草経だと私はとらえています。日本における薬草の古典が分からないのですが、基本は神農本草経からの引用だと推測されます。神農本草経は中医学3大古典です。ちなみに推古天皇の時代に薬狩りが行われたとありますが、その時代には中医学はまだ日本に入ってきていないので、確かに薬草と中医学は違うともいえます。どのように考えたらよいのかを解説していきます。

1. 薬草と中医学の関係

  • 薬草は、植物やその一部を利用して病気の予防や治療を行う伝統的な手法であり、人類が古代から自然と向き合いながら発展させてきた知識体系です。

  • 中医学は、古代中国で発展した医学体系であり、薬草を利用する「中薬学(漢方薬を含む)」だけでなく、「診断方法(四診)」「気血の概念」「陰陽五行論」などを含む広範な哲学的・実践的体系です。

薬草は中医学の一部として取り入れられていますが、中医学そのものではありません。中医学は薬草の効果を体系的に整理し、理論的な基盤の上で診断や治療に応用する方法を発展させたものです。

2. 神農本草経と薬草

  • 神農本草経は、中国最古の薬学書であり、薬草や鉱物、動物由来の薬物365種類を「上品」「中品」「下品」に分類し、薬効を体系化しています。

    • 上品: 健康維持や長寿に寄与する。

    • 中品: 病気予防や軽い治療に用いる。

    • 下品: 強力な治療効果を持つが副作用も強い。

これにより、薬草が医学としての基盤の一部に組み込まれ、中医学の基礎を築いたといえます。そのため、薬草=神農本草経という理解は正しいといえますが、中医学全体の枠組みの中で薬草が占める位置を考えると、一部に過ぎないというのがポイントです。

3. 日本における薬草の歴史

日本の薬草利用の歴史は、確かに中医学が伝来する前から存在しました。しかし、これが中医学に基づいていなかったことは歴史的背景からも納得できます。

(1) 推古天皇の薬狩り

  • 推古天皇の時代(6~7世紀)、薬草を収集して利用する「薬狩り」が行われた記録があります。この時期には中国からの医学的知識がまだ十分に伝わっていなかったため、日本固有の薬草利用法に基づいていたと考えられます。

(2) 中医学伝来以降の影響

  • 中医学(特に「唐代医学」)が日本に伝わったのは、飛鳥~奈良時代頃とされています。この時期に、薬草の利用が中医学的理論(例えば、陰陽五行、寒熱補瀉理論)に基づいて再編されるようになりました。

  • 日本における薬草利用の古典的な記録として、奈良時代の『養老律令』に薬草の利用規定が見られますが、これも中国医学の影響を受けています。

4. 薬草と中医学が違うとされる理由

薬草と中医学を区別する理由は、以下の点に起因します:

(1) 薬草の起源の普遍性

薬草の利用は、古代の多くの地域で見られる普遍的な知識体系です。例えば、古代日本や中国だけでなく、インドのアーユルヴェーダやヨーロッパのハーブ療法でも発展してきました。このため、薬草そのものは中医学に限られたものではありません。

(2) 中医学の体系性

中医学は、薬草を単体で使うのではなく、次のような体系的な理論をもとに統合しています。

  • 診断(四診:望診、聞診、問診、切診)

  • 陰陽五行論によるバランスの分析。

  • 方剤(複数の薬草の組み合わせ)による相乗効果の追求。 これにより、薬草が中医学という理論体系の中で効果的に活用されるようになったのです。

5. どのように考えればよいか?

(1) 薬草は中医学の基盤の一つである

薬草は中医学の根幹を成す要素であり、「神農本草経」がその基礎を築いています。薬草を使った治療法が中医学の一部であることは間違いありません。

(2) 薬草の利用と中医学の違いを認める

ただし、薬草は「単体での利用法」を指し、中医学はそれを含む「総合的な医療体系」です。推古天皇時代の薬草利用は、中医学とは無関係の「日本固有の伝統的な薬草利用」であったと考えるのが妥当です。

(3) 違いを認めつつ共通点を理解する

  • 「薬草」は古代の人々が自然と向き合いながら得た普遍的な知識。

  • 「中医学」はそれをさらに理論的に発展させた体系。 このように考えることで、両者の関係性を整理できます。

6. 結論

薬草と中医学は異なる部分もありますが、密接に関係しています。薬草は中医学の一部であり、「神農本草経」が中医学の基盤を築いたことは事実です。歴史的背景を踏まえ、日本の薬草利用の独自性と中医学の体系性の違いを理解することで、両者の関係をより深く捉えることができるでしょう。

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