【過度の眠りの原因】中医養生学
今回は多寐(たび/昼夜を問わず眠りたがる状態)について解説します。病因や治療法、症状の詳細を掘り下げて説明します。
多寐の定義と特徴
多寐(たび)とは、昼夜を問わず過剰に眠りたがり、呼び起こしてもすぐに再び眠ってしまう状態を指します。これは通常の疲労や睡眠不足とは異なり、病的な状態として分類されます。
症状の具体例
日中の過剰な眠気: 活動中であっても強い眠気に襲われる。
覚醒困難: 朝起きられない、何度も呼び起こされても眠りに戻る。
全身のだるさ: 倦怠感が伴い、日常生活の能率が著しく低下する。
意識のぼんやり: 思考力や集中力の低下。
多寐の病機(病態のメカニズム)
多寐の原因は、「陰陽の不均衡」と「臓腑機能の低下」にあります。主に以下の2つの要素が関与します。
1. 陰盛陽衰(いんじょうようすい)
陰が過剰(陰盛): 体を冷やし、活動を抑制する「陰」が過剰になると、身体を動かす「陽」の力が抑えられます。
陽が不足(陽虚): 陽気が不足することで、身体を温める力や活動力が低下します。
陽虚では、特に脾陽(消化や栄養吸収を司る陽気)や心陽(精神活動を司る陽気)の低下が多く見られます。
2. 痰湿の蓄積
痰湿とは: 胃腸の働きが低下し、体内に不要な水分や老廃物が蓄積したもの。
影響: 痰湿が脾胃や気血の流れを妨げ、身体全体の活動を停滞させます。
痰湿が心(精神活動を司る臓)に影響すると、精神活動の低下や過剰な眠気が現れます。
多寐の3つの主要病因
1. 不適切な飲食
過剰な甘味・油っこいもの: 甘いものや脂肪分の多い食事が胃腸に負担をかけ、痰湿を生じやすくします。
冷たい飲食物: 胃腸を冷やし、脾陽を低下させる。
結果: 痰湿が蓄積し、気血生成が滞り、陽気が不足することで活動力が低下します。
治療法:
痰湿除去: 二陳湯(にちんとう)、平胃散(へいいさん)。
脾胃の強化: 六君子湯(りっくんしとう)。
2. 七情(感情)の損傷
肝気鬱結(かんきうっけつ): 怒りやストレスにより肝の気の流れが悪化します。
肝気の停滞が気血の巡りを妨げ、陽気の不足や痰湿の蓄積を引き起こします。
心労(過度な心配やストレス): 精神的な負担が脾胃を弱め、痰湿が増えます。
治療法:
肝気の巡りを改善: 逍遥散(しょうようさん)、柴胡疏肝散(さいこそかんさん)。
心を安定させる: 帰脾湯(きひとう)、天王補心丹(てんのうほしんたん)。
3. 加齢と慢性の持病
加齢: 陽気が徐々に減少することは自然なプロセス。
特に腎陽(身体全体の活動を支える陽気)の減少が顕著です。
慢性の持病: 長期間続く疾患により、気血の消耗や陽気の不足が起こります。
治療法:
補腎陽: 八味地黄丸(はちみじおうがん)、桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)。
気血の補充: 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)。
多寐の診断プロセス
問診と舌診
食事内容、生活習慣、ストレス要因、過去の病歴を詳しく聞き取る。
舌の状態(舌苔が厚い場合は痰湿、舌質が淡白で腫れぼったい場合は陽虚)を確認。
弁証論治
陰陽のバランス、気血水の状態、痰湿の有無を総合的に判断。
全身のバランスを確認
陽虚: 冷え性、手足が冷たい、無気力、動悸。
痰湿: むくみ、舌苔の厚み、倦怠感。
肝気鬱結: ストレス、不安感、胸の圧迫感。
治療方針と養生法
漢方治療の原則
陽気の回復: 脾胃を温め、陽気を補う。
痰湿の除去: 痰湿を取り除き、気血の巡りを良くする。
陰陽の調整: 過剰な陰を抑え、陽を補うことでバランスを取る。
養生法
食事: 温かく消化に良いもの(お粥、スープ類)を摂取。
冷たい飲食物、甘いもの、油っこいものは避ける。
生活習慣: ストレスを減らし、適度な運動を取り入れる。
睡眠: 早寝早起きを心がけ、過剰な昼寝を避ける。
石破首相は多寐か?
石破茂首相が首相指名選挙中に目を閉じてうつむいている姿が報じられ、居眠りではないかとの指摘がありました。
この状況を中医学の観点から考察すると、「多寐(たび)」という症状が該当する可能性があります。
多寐の主な原因:
不適切な飲食: 甘いものや脂っこい食事の過剰摂取により、脾胃の機能が低下し、気血の生成が滞ることで、痰湿が蓄積し、陽気の流れが阻害されます。
七情の損傷: 過度の怒りや憂鬱などの感情が肝の機能を損ない、気の流れが滞ることで、陽気の不足を招きます。
加齢や慢性疾患: 年齢を重ねることや慢性的な病気により、脾胃の機能が低下し、陽気が不足することで、多寐の症状が現れます。
石破首相の場合: 報道によれば、石破首相は首相指名選挙中に目を閉じていたとされています。
この行動が多寐によるものかどうかを判断するには、以下の点を考慮する必要があります。
生活習慣: 食事内容や睡眠時間、日常の活動量など。
精神的ストレス: 職務上のプレッシャーや精神的負担の程度。
健康状態: 既往歴や現在の健康状態、特に慢性疾患の有無。
これらの情報が不足しているため、石破首相の居眠りが多寐によるものかを断定することは困難です。しかし、報道では「睡眠時無呼吸症候群」の可能性も指摘されています。
この症候群は睡眠中に呼吸が一時的に止まることで、日中の過度な眠気を引き起こすことがあります。
まとめ: 石破首相の居眠りが多寐によるものかを判断するには、詳細な生活習慣や健康状態の情報が必要です。また、睡眠時無呼吸症候群など他の要因も考慮する必要があります。適切な診断と対処のためには、専門医の受診が望ましいでしょう。
結論
多寐は、陰陽の不均衡、気血の不足、痰湿の蓄積が絡み合った複雑な状態です。適切な診断と治療により、症状を改善することが可能です。治療には、患者の生活全体を理解し、弁証論治に基づいた個別対応が不可欠です。