【婦人科三大処方②】当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は補血と利水に優れた便利薬!
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、「血虚」と「水滞」の両方の症状を狙って処方される漢方薬で、特に女性の体質改善や日常の不調に用いられることが多い処方です。血を補い、血流を改善する生薬とともに、胃腸を整え水分代謝を促す生薬も配合されており、血虚がありながらも体内の水分バランスが崩れているタイプの人に適しています。
※婦人科三大処方は下記のように考えます。
血虚=当帰芍薬散
気滞=加味逍遙散
瘀血=桂枝茯苓丸 ※瘀血は別途解説します。
1. 当帰芍薬散の基本構成
当帰芍薬散には、主に以下の6つの生薬が含まれています。
補血・活血の生薬(血虚を改善する)
当帰(とうき):補血および血流促進。特に女性の健康維持や体調管理に役立つとされ、血虚による貧血や冷えの改善に寄与します。
芍薬(しゃくやく):筋肉の緊張を和らげつつ、補血効果を発揮。特に白芍(びゃくしゃく)は血虚の改善に使われることが多いです。
川芎(せんきゅう):血の巡りを良くし、頭痛や生理痛の緩和に役立つ。血流を促進する「活血薬」の代表的な存在です。
※地⻩がないだけでほぼ四物湯ということが分かると思います。
健脾利水の生薬(消化と水分代謝を促進)
茯苓(ぶくりょう):利水作用とともに脾(消化器系)の働きを強化し、胃腸の負担を減らします。
白朮(びゃくじゅつ):体内の余分な水分を排出し、健脾作用で消化を助ける。胃腸が弱い方にも適しています。
沢瀉(たくしゃ):利水作用が強く、体に溜まった水分を排出することでむくみや水滞を改善します。
2. 当帰芍薬散の特徴と作用機序
当帰芍薬散は「補血・活血」の効果に加え、胃腸を健やかにしながら水分代謝を改善する「健脾利水」の効果を持つことが特徴です。そのため、血の巡りが悪く冷えや貧血、頭痛、めまい、肌の乾燥などがある方で、かつ体内の水分が滞りやすいむくみや冷えを抱えている方に適しています。
血虚に対する作用:血を補い、血液の質と量を改善します。血虚の代表的な症状である貧血、顔色が青白い、疲れやすい、爪が割れやすいといった状態に効果を発揮します。
健脾利水による水分代謝の改善:胃腸の働きを高め、余分な水分を体外へ排出します。特に消化器系が弱く、むくみやすい人にとっては、健脾と利水作用によって体内の水分バランスを整えやすくなります。
3. 当帰芍薬散の具体的な効能
血虚と水滞に対応する広範な効果
血虚の改善:
血を補う当帰や芍薬が、血液の不足や流れの悪さによる症状に対応します。特に冷えや貧血、めまい、疲れやすさ、肌や髪のパサつき、爪のもろさといった症状に役立ちます。
水滞の改善(利水効果):
体内の水分代謝を調整する茯苓、白朮、沢瀉が、むくみや水の巡りの悪さを改善し、特に下半身のむくみを解消するのに役立ちます。また、むくみが取れることで冷えの改善にもつながり、下半身の血流や温かさが増します。
下半身太りや冷え性の緩和:
当帰芍薬散は、特に血虚による下半身のむくみや太り、冷えに悩む方に対して効果を発揮しやすいとされています。下半身が冷えて血流が滞ることでむくみやすくなったり、脂肪が蓄積されやすくなる傾向に対して、当帰芍薬散は血と水の巡りを改善し、下半身のスッキリ感を促進します。
消化器系へのやさしい処方:
当帰芍薬散には、四物湯に含まれる重い成分である地黄(じおう)が含まれていないため、消化器系が弱い方でも比較的負担が少なく服用できます。また、健脾の生薬が消化器を助けるため、胃が弱い方でも使用しやすいとされています。
血虚+湿痰(しったん)体質に合う:
血虚に加えて体内の水分循環が悪い人、つまり湿痰(体内の湿気が多い状態)を抱えている方に適しています。特に血虚でありながらむくみがちな人、冷え性や下半身のむくみが気になる人にはこの処方が適しています。
4. 当帰芍薬散の適応と注意点
適応例
冷えや貧血があり、特に下半身がむくみやすい人:補血効果で血の不足を補いつつ、利水効果で下半身の水分代謝を改善します。
消化器系が弱く、水分代謝に問題がある人:胃腸が弱く、むくみや冷え、下半身太りに悩む方に対し、補血・利水のダブル作用で改善が期待できます。
月経不順やPMS(月経前症候群):血虚と水滞が原因で月経周期が乱れがちな人やPMS症状がある人にも用いられることがあります。
使用上の注意
消化器が弱い方:血虚の人は胃腸が弱い場合も多く、当帰や川芎などが負担になることもあるため、他の補脾薬や胃腸を助ける漢方と併用すると良い場合があります。
利水の必要性を確認する:当帰芍薬散は利水効果もあるため、むくみがない人には適さない場合があります。利水作用が必要かどうかを確認してから使用するのが望ましいです。
5. 他の漢方薬との併用と効果
当帰芍薬散は、その効果を最大限に引き出すために他の漢方薬と組み合わせて使われることも多いです。以下は、よく併用される漢方とその効果です。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう):胃腸の働きを助け、体力を増進する効果があるため、胃腸が弱い人が当帰芍薬散を使用する際に補助的に用いると効果的です。これにより、胃もたれや消化不良のリスクが減少します。
四君子湯(しくんしとう):消化器系が弱い人向けの漢方薬で、脾胃(消化器系)を強化します。これにより、当帰芍薬散の効果をより安定的に発揮できるようにします。
参苓白朮散(じんれいびゃくじゅつさん):胃腸の負担を減らし、消化器系の働きをサポートします。当帰芍薬散と併用することで、胃腸への刺激を抑え、よりスムーズに効果を得られます。
6. 当帰芍薬散の使用が推奨されるケースと避けるべきケース
推奨されるケース:
血虚と水滞の症状が併存している人:冷え性やむくみ、下半身太りなど、血と水の両方の巡りが滞っているタイプに効果的です。
慢性的な疲れやすさとむくみ:血虚により体力が落ちやすく、さらにむくみやすい方に適しています。
PMS(月経前症候群)や月経不順:血虚と水滞が関連する女性特有の症状に役立ちます。
避けるべきケース:
むくみがない人:水分代謝の問題がない人に利水効果のある当帰芍薬散を使用すると、かえって体の水分バランスが乱れる可能性があります。
胃腸が弱く、健脾の補助なしで服用する場合:当帰芍薬散の成分は、健脾効果が含まれているものの、強めの生薬(川芎や当帰など)もあるため、胃腸が弱い場合には別の健脾薬を併用すると良いです。
まとめ
当帰芍薬散は、血虚と水滞を同時に改善することを目指した漢方薬で、特に女性の体質改善に広く使用されています。血を補い、血の巡りを改善し、さらに体内の水分代謝を促すことで、冷え性や貧血、むくみ、下半身太り、月経不順などの症状に対応します。ただし、体質や症状に応じて他の補助的な漢方薬と組み合わせて使うことで、効果をさらに高めたり、副作用を抑えたりすることができます。
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