【中医学三大古典】黄帝内経・神農本草経・傷寒雑病論

中医学の古典についての詳細な説明を行います。これらの古典は、現代の中医学に多大な影響を与えた書物であり、それぞれの役割や内容が中医学の理論と実践を深く支えるものとなっています。

1. 『黄帝内経』(こうていだいけい)

  • 成立時期: 紀元前475年から紀元前後にかけて編纂されたとされています。『黄帝内経』は現存する最も古い中医学の基礎理論書です。

  • 構成: 書物は2部構成で、全18巻、計162篇から成り立っています。

    • 『素問』(そもん): 主に中医学の理論部分を扱い、病理、診断法、治療法、予防法などが説明されています。

    • 『霊枢』(れいすう): 鍼灸学を中心に、人間の経絡(けいらく)やツボ、鍼治療に関する内容を述べています。

  • 理論の基盤:

    • 陰陽五行学説: 自然界の陰と陽、木・火・土・金・水の五つの元素(五行)が、人体や宇宙の全てに関わっているとする考え方です。

    • 天人合一(てんじんごういつ): 人間は自然の一部であり、自然界の変化と人体の機能は一体となっているという哲学です。

    • 天人相応(てんじんそうおう): 人体と自然界は相互に影響し合い、自然界の変化は人体の機能や健康にも影響を与えるとする考えです。

  • 意義: 『黄帝内経』は、人間の健康や疾病を自然の調和と関連付け、治療の考え方を体系化しました。これにより、自然と人間の密接な関係を基盤にして健康管理を行う中医学が成立しました。
    ※困ったときの黄帝内経です。大体これで解決します。原文は読めないと思いますので、翻訳文で大丈夫です。

2. 『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)

  • 成立時期: 紀元前31年から紀元220年頃に成立した、現存する最も古い薬物専門書です。

  • 構成: 全3巻で、「上品」「中品」「下品」に分類された365種類の薬物が収載されています。

    • 上品(じょうほん): 120品目。無毒で長期間服用しても安全な薬物が含まれます。例: 甘草、ハトムギ、ゴマ、ハスなど。これらは生命を養い、不老長寿を促す効果があります。

    • 中品(ちゅうほん): 120品目。滋養強壮や病気予防に効果がありますが、長期間の使用には注意が必要です。例: トウキ、鹿の角(鴨鹿の角)、ロクジョウ(鹿茸)など。適切に使えば健康を保ちますが、用法を誤ると毒性が現れることもあります。

    • 下品(かほん): 125品目。病気を治療するために用いますが、毒性が強いため、必要な時だけ短期間で使用するべき薬物です。例: ダイオウ(下剤として使用)、ブシ(トリカブトの根を加工したもの)など。これらは強力な治療効果を持ちますが、副作用があるため、慎重な使用が求められます。

  • 特徴: 植物、動物、鉱物の薬物が含まれ、漢方医学において薬物を適切に使用する基礎が築かれています。
    ※日本茶インストラクターでも出てきました。僕が中医学にピンと来たのはこれが大きかったです。

3. 『傷寒雑病論』(しょうかんざつびょうろん)

  • 著者: 張仲景(ちょう ちゅうけい、150年-219年)。彼は「医聖」とも呼ばれ、中国医学の発展に大きく貢献した医師です。

  • 構成:

    • 『傷寒論』(しょうかんろん): 高熱を伴う病気(外感病)に対する治療法を記載。六経弁証という診断法を用い、病の進行に応じて治療方法を変える考えを示しています。風邪や感染症など、外部の要因で発生する病気を中心に治療が記載されています。

    • 『金匱要略』(きんきようりゃく): 内科系の疾患や慢性病(雑病)に関する治療法を記載。体質や症状に応じた具体的な処方が紹介されています。

  • 技術・内容:

    • 弁証法: 病気の原因や経過に基づき、適切な治療を行う方法。六経弁証では、病気を6つの異なる状態に分類し、病気の進行に合わせて治療します。

    • 処方例: 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、五苓散(ごれいさん)、葛根湯(かっこんとう)など、現在でも使われる漢方薬が含まれています。

    • 炮製(ほうせい): 薬物の加工法。薬草を切ったり、炒めたりして毒性を減らしたり、薬効を高める技術です。

    • 剤型(ざいけい): 漢方薬の形態で、煎じ薬、粉末、錠剤など、使用目的に応じてさまざまな剤型があります。

    • 煎じ方: 煎じる順序や方法が細かく指示されており、香りが飛ばないようにする工夫や、毒性を減らす方法などがあります。

  • 影響: 『傷寒雑病論』は、病気の分類と診断方法を確立し、日本を含む東アジアの医学に深い影響を与えました。病気の治療方針や薬物の使用法が厳密に記載されており、現代の漢方医学にも活用されています。
    ※漢方薬のエビデンスは?と聞かれたら傷寒論と金匱要略読んだ?と聞き返してください。多分読んでません。

まとめ

これらの古典は、中医学における理論と実践を体系化したものです。『黄帝内経』は自然と人間の関係を基礎とする理論を提供し、『神農本草経』は薬物の使用を体系化しました。そして、『傷寒雑病論』は病気の治療法を具体的に示した臨床書として、多くの医師に受け継がれてきました。これらの知識は、現代でも中医学の治療と健康管理に生かされています。

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