【肝と造血の働き】中医基礎理論
肝と蔵血の働き:さらに詳しく
中医学で肝は、血液の管理者として重要な役割を果たします。その「蔵血を主る」という機能を深掘りし、血液の貯蔵や調節、さらに精神や身体の健康への影響について、より具体的に説明します。
1. 蔵血の基本的な役割
1.1 血液の貯蔵と調節
貯蔵の仕組み
肝は「血液のタンク」として機能し、活動中は全身に血液を供給し、休息時には血液を戻して蓄える役割を持っています。活動時: 血液は筋肉や臓器へ供給され、身体を動かすエネルギーとして使われます。
休息時: 血液は肝に戻り、肝で血が養われます。これにより、翌日の活動に備えた新鮮な血液が準備されます。
血液の調節
肝は血液量を調節し、必要な時に必要な分だけ供給します。この調節機能により、血行がスムーズに保たれます。これが失調すると、冷え性や貧血、あるいは逆に出血や充血が生じます。
1.2 精神(魂)との関係
肝は「魂の宿る場所」とされ、精神活動の基盤である血液がここに蓄えられています。
血が豊富: 精神は安定し、感情のコントロールがしやすくなります。
血が不足: 感情の抑制が難しくなり、不安や恐怖、過剰な怒りなどが現れます。
『霊枢』に「肝は血を蔵し、血は魂を舎す」とある通り、肝の血が精神的な安定に深く関わっています。
2. 蔵血の具体的な機能
2.1 血液循環の交通整理
肝は血液の「交通整理役」として働きます。
スムーズな血行: 血液を必要な場所に送り、体内の循環を整える。
血の漏出を防ぐ: 肝は血管の壁を締める作用(固摂作用)を持ち、血液が漏れ出ないようにします。
2.2 血液の供給と回収
『素問』には「人が動けば血は経脈を巡り、静まれば肝に戻る」と記されています。
動く時: 筋肉や内臓へ血液が供給され、エネルギーが生まれます。
休む時: 血液が肝に戻り、肝によって養われます。この仕組みが日々の活動と休息のバランスを保つ鍵となります。
2.3 出血の防止
肝が血を蔵することで、出血を防ぐ役割を果たします。
肝の機能が低下すると、以下のような問題が生じる可能性があります:
不正出血: 月経過多や予期せぬ出血が発生。
内出血: 軽い衝撃で内出血が起こる。
鼻血: 特に子供や体質的に肝血が不足しやすい人に多い。
3. 肝血不足(肝血虚)による影響
3.1 身体的影響
筋肉と爪の問題
肝が血を養えないと、筋肉が痙攣しやすくなったり、爪が脆くなることがあります。これは、肝が筋と爪を支配するためです。目の不調
肝血虚では目が乾燥したり、かすむことが増えます(肝は目に開竅する)。
3.2 精神的影響
恐怖や不安
肝血が不足すると、恐怖や不安感が強くなります。イライラや怒り
血が不足することで肝陽が抑えられなくなり、怒りやすい状態(肝陽上亢)になります。
4. 夏の食欲不振と肝の関係
夏季の湿気や暑さは、肝と脾胃の働きに影響を与えます。
湿気による影響
湿気が体内に侵入すると、脾胃が弱まり、食欲が低下します。熱による消耗
暑さで代謝が活発になると、体が消耗し、胃腸の働きが弱まります。これにより食欲が落ちます。肝の影響
暑さでイライラしやすくなると肝陽が上昇し、疏泄機能が乱れます。この結果、食欲のコントロールが困難になります。
5. 肝と陰陽の調和
陰陽のバランス調整
肝血(陰)が不足すると、肝陽(陽)が過剰になり、上記の問題が生じやすくなります。
逆に血液が十分であれば、肝陽を適切に抑制でき、陰陽の調和が保たれます。
6. 総括
肝は血液を貯蔵し、循環を調節する「血液の管理者」として働きます。その機能により、身体の活動と休息、精神の安定、陰陽のバランスが保たれます。