【眠り過ぎてしまう人=多寐(たび)】中医養生学
多寐(過度の眠り)の中医学的詳細解説
1. 多寐とは
多寐とは、正常な睡眠時間を超えて過剰に眠る状態を指します。
中医学では、多寐の原因を「陽気の不足」や「心神の失養」と捉え、これを引き起こす背景には体内の虚証(不足)や実証(過剰)があると考えます。多寐は体のエネルギー状態や臓腑の働きを反映しており、慢性的な健康問題の指標となることが多いです。
2. 多寐の原因:不適切な飲食
① 甘脂過多(甘いものや脂っこいものの過剰摂取)
脾の運化失調
脾は、飲食物を消化・吸収し、気血を生成する役割を持っています。過剰な甘いものや脂っこいものの摂取は、脾の運化機能を損傷し、気血の生成を妨げます。痰湿の発生
消化不良により痰湿(代謝物の滞り)が生じ、体内の気血の流れが妨げられます。これが陽気の阻滞を引き起こし、エネルギーが循環しなくなります。陽気不足
陽気は身体を動かす原動力です。痰湿が陽気の流れを阻害し、陽気不足に陥ることで、多寐の原因となります。
症状
身体の重だるさ、倦怠感。
食欲不振や胃の張り感。
気血不足による顔色不良。
痰湿が多い場合、むくみや舌苔が厚い。
改善策
飲食の改善
脾を養う食材(山薬、蓮の実、白米)を摂取。
甘いものや脂っこい食事を控え、消化の良い食事を心掛ける。
処方例
六君子湯(りっくんしとう):脾を強化し、痰湿を除去。
3. 多寐の原因:七情(感情)の損傷
① 鬱怒(うつど)
原因
怒りや鬱屈した感情は肝を損傷します。肝気が滞ることで血流も悪化し、瘀血(血液の滞り)が生じます。この状態では、陽気の流れも滞り、心陽(心臓の陽気)が衰えます。結果
心神を養う力が不足し、眠気が強くなります。
② 心労過度(考えすぎ、精神的疲労)
原因
長時間の精神的労働や考えすぎは、脾気を損傷し、痰湿を発生させます。痰湿は陰性の物質であり、陽気をさらに弱めます。結果
心陽の衰えにより、多寐が発生します。
症状
鬱怒:イライラしやすく、胸苦しさや側頭部の張り感。
心労過度:食欲低下、疲れやすさ、頭の重だるさ。
改善策
ストレス管理
瞑想や深呼吸、軽い運動で肝気の流れを整える。
趣味やリラックスできる時間を設ける。
処方例
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):肝気の流れを整え、痰湿を除去。
4. 多寐の原因:加齢や慢性病
① 脾腎陽虚
原因
加齢や慢性病により、脾腎の陽気(身体を温め、活動を促す力)が衰えます。脾腎陽虚では、エネルギー不足が進行し、活動力が低下します。特徴
「蝋燭の火が消えるように徐々に衰えていく」と表現されます。結果
陽気が不足し、心陽も衰え、心神を十分に養えなくなります。
② 陰血不足
原因
陰血(体の潤いや血液)が不足すると、さらに精気(生命力)が消耗されます。
陰血の不足は、陽気を支えられなくなり、結果的に陽気も弱まります(「陰陽互損」)。結果
陽気の不足により心陽が衰え、心神を養う力が失われ、多寐が発生します。
症状
脾腎陽虚:冷え、疲労感、むくみ、食欲不振。
陰血不足:皮膚や口の乾燥、顔色の悪さ、不眠と多寐が交互に現れる。
改善策
脾腎陽虚への対処
身体を温める食材(羊肉、生姜)を摂取。
陽気を補う処方(八味地黄丸など)を使用。
陰血不足への対処
潤いを補う食材(クコの実、黒豆、白木耳)を摂取。
血を補う処方(当帰芍薬散など)を使用。
5. 多寐の病理メカニズム
脾の損傷
飲食やストレスで脾が損傷すると、気血の生成が滞り、心神が養われなくなります。痰湿の蓄積
脾の運化機能の低下により痰湿が発生。痰湿は陽気を阻害し、多寐の原因となります。陽気不足
陽気が不足すると、身体を動かすエネルギーが不足し、眠気が強くなります。心陽不振
陽気不足が進行し、心神を養う力が低下することで、多寐が生じます。
6. 虚証と実証による多寐の違い
虚証による多寐
原因
陽気不足:体を温めて活動を促すエネルギー(陽気)が不足。
気血不足:気(エネルギー)や血(栄養)が足りず、身体が疲労しやすくなる。
加齢:年齢を重ねることで、エネルギー生成能力や体力が低下。
特徴
活動するエネルギーが不足しているため、動きたくても動けない状態。
全身が衰弱しているような感覚。
症状
倦怠感:常に疲れている感じ。
冷え:体が冷たく感じる。
疲労:少しの動作でも疲れを感じる。
治療
補気・補陽:不足している気(エネルギー)や陽気(温める力)を補う治療を行います。
処方例:八味地黄丸(脾腎を補い、陽気を強化)、真武湯(腎陽を補い、水分代謝を改善)。
2. 実証による多寐
原因
痰湿の蓄積:消化不良や過剰な食事による痰湿(代謝物の滞り)が体内に溜まる。
瘀血の存在:血液の流れが滞ることで、エネルギー循環が妨げられる。
特徴
体内に「余分なもの」が多すぎるため、陽気(エネルギー)が滞って活動が制限される状態。
体が重だるい感覚や詰まったような感じがする。
症状
胸苦しさ:胸が詰まるような不快感。
むくみ:体液が溜まり、手足が腫れる感じ。
便秘:腸内の熱や滞りによる排泄の不調。
治療
除湿・化痰・清熱:体内の余分な湿気や痰を取り除き、熱を冷ます治療を行います。
処方例:半夏厚朴湯(痰湿を解消し気の流れを促進)。
虚証と実証の違いを具体的に言い換える
虚証
原因:体が必要なエネルギー(気や陽気)を作り出せない。
イメージ:バッテリーが切れかけている状態。動きたいけどエネルギー不足で動けない。
治療:バッテリーを充電する(補気・補陽)。
実証
原因:体内に余分なもの(痰湿や瘀血)が溜まっていて、エネルギーの流れが阻害されている。
イメージ:道路に渋滞が起きていて、流れが滞っている状態。
治療:道路を掃除して流れを改善する(除湿・化痰・清熱)。
7. 多寐の治療アプローチ
① 飲食の見直し
消化を助ける:温かいスープや消化しやすい食事を摂る。
痰湿を避ける:脂っこいものや甘いものを控える。
② 心身のバランスを整える
ストレス解消:リラクゼーションや適度な運動で肝気の流れを整える。
規則的な生活:夜更かしを避け、一定の睡眠リズムを保つ。
③ 中医学の処方
脾腎陽虚:八味地黄丸、真武湯などで陽気を補う。
陰血不足:四物湯、当帰芍薬散などで血を補う。
痰湿の除去:六君子湯、半夏厚朴湯などで痰湿を取り除く。
8. 結論
多寐は、体内のエネルギーバランスの乱れを反映しており、主に「脾」「肝」「腎」の機能が関与します。中医学では、不適切な飲食や感情の乱れを整え、陽気を補ったり痰湿を除去することで、多寐を改善します。生活習慣や体質に応じた対応が重要です。