#5:感情コントロールが苦手な人と上手に付き合う方法
Louis Izumi:THE JUNKS ライターのルイス・イズミです。前回の「#4:人生で助けられる人数には上限がある?」の記事で、感情をコントロールするのが苦手な人についてのお話がありました。彼らと出会うのは仕方のないことだと思うのですが、上手に付き合うコツなどはありますか?
Hirotaka Shiraki:結論から言うと、君は猫に数学を解かせるのか?
Ⅰ. 上手に付き合うコツはある?
Louis Izumi:ええと。どういう意味でしょうか。
Hirotaka Shiraki:他人が本質的にできないことを求めても意味がないということだ。どれだけ時間を費やして猫に数学を教えようが、犬や馬のように顔色を窺って空気を読むだけさ。猫は可愛いが、数学は解けない。
Louis Izumi:それは「上手に付き合うコツはない」ということですか?
Hirotaka Shiraki:本当にコントロールができないのであれば、ホルモン値が不安定になっていたり、過剰なほどのストレスや感情が強い性質であることが原因だろう。適切な食事と運動をして、しっかりと睡眠を取っても改善しないのであれば、一度医者に診てもらうべきだ。
Louis Izumi:まあ、そうなんですけど、大人として「医者へ行け」とは言えませんよね。
Hirotaka Shiraki:言えないのなら、君は今、とても酷なことを求めている。「大きな声を出して怒る」というのは多くのエネルギーが必要で、怒る教育や恐怖政治は短期的な効果はあるものの、長期的に見るとデメリットのほうが大きい。無駄に体力を消費した挙句、相手を萎縮させるという最も遠回りな手法を非効率とすら気付けないのだから、怒鳴る人間に期待をするのは猫に「どうしてお前は数学ができないんだ」と叱るようなものだ。可哀想じゃないか。
Louis Izumi:納得しそうですが、相手が年上だとしても「可哀想だ」と思えますか?
Hirotaka Shiraki:尚更だ。もし落ち着いて説明できる能力があるのなら、タレントでもない限り、怒鳴らないし泣かないし癇癪も起こさない。もう無理だとは言わないが、あと何年分の価値を支払うつもりだ?
Louis Izumi:ああ、ストレスとか溜まらないんですか?
Hirotaka Shiraki:赤子が泣いただけのことだ。君は足元で風に靡く草花たちにフラストレーションを感じるのかな。
Louis Izumi:私もその気持ちで働きたいですね。
Ⅱ. 自分の感情を管理するためには?
Louis Izumi:反対に感情コントロールが上手くできず、精神が不安定になったり、自分の感情をなかなか咀嚼できない人もいると思います。彼らに対してはいかがですか?
Hirotaka Shiraki:自分の感情を管理できないのは、単純に事実を捉えるのが苦手だからだと思うよ。
Louis Izumi:「事実を捉える」とは、どういう意味でしょう?
Hirotaka Shiraki:「A子さんはドレスを着て買い物に行きました」という文章を見て「A子さんはドレスを着て買い物をしている」シーンを想像することだ。事実を捉えるのが苦手な人間は「赤のドレスを着て彼氏と一緒にカフェでコーヒーを飲んでいる」シーンを思い浮かべる。
Louis Izumi:考えることが苦手な人は、事実以外を拡張して考えてしまうということですか?
Hirotaka Shiraki:想像力がないから、飛躍した都合の良い妄想で補完してしまうんだ。考える時間を短くしようとして「自分/あの人は○○なんだ!」と早合点する傾向もある。はっきりさせることが悪いわけではないが、結論が主観的で「良い/悪い」や「正しい/正しくない」など、抽象的な言葉で紡いでしまったり、軸がないから感情の波に左右されやすい上に、他人からの影響も受けやすい。
Louis Izumi:なるほど。しかし自分の感情を管理するために具体的な言葉を使って客観的な結論を出す必要があるというのは、感情コントロールが難しい人にとって、ハードルが高いご意見とも思いますが。
Hirotaka Shiraki:そんなことはないと思うけれど。
Louis Izumi:例えば「自己分析」とかいかがでしょう?
Hirotaka Shiraki:考えるのが苦手なら辞めておいてほうが良い。思考が散らかって誤認を招くだけだから。
Louis Izumi:ううん。改善できないのでしょうか。
Hirotaka Shiraki:本気で改善をしたいのなら、国語の授業のように事実だけを見る練習から始めることだ。子どもだろうが、大人だろうがね。
Louis Izumi:「事実だけを見る練習」とは、もう少し具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか。
Hirotaka Shiraki:例えば「テストの点数が悪いから自分は馬鹿だ」とか、そんな曖昧な言葉を使わずに事実だけを並べる。今回のテストは50点で平均は60点、前回のテストも50点で平均は65点だとすると、ここから得られる情報は「今回のテストは前回と同じ点数であり、平均よりも10点低い」だ。
次に結果を評価すると、平均点との差が15点から10点に向上、もし定期テストであれば、新しい単元でも50点をキープするような勉強量だったということになる。
最後に、標準や応用問題の正答率と単元などの分類ごとの正答率を確認して「要約の点数が低いから、次回は要約の問題を重点的に対策しよう」という結論を出せば良い。
Louis Izumi:自分で分析できるなら点数はすぐに伸びると思います。しかし自分で考えられないから、考えることが苦手になると思うんですよ。
Hirotaka Shiraki:問題の解き方を知らないから解けないだけのことを、才能がないとか努力が足りないとか、そんなくだらないことは考えられるじゃないか。君はパンの作り方を知らない人間がパンを作れたら「天才」で、作れないのなら「馬鹿」だと思う?
Louis Izumi:確かに。思わないです。
Hirotaka Shiraki:自身の個体差や経験を考慮しないのは「愚鈍だ」と自称するようなものだよ。
Ⅲ. 改善してもらうには?
Louis Izumi:感情コントロールが苦手な人が身近にいたとき、改善してもらうことはできると思いますか?
Hirotaka Shiraki:他人の人生を変えようなど、烏滸がましい行為だと思わないか?
Louis Izumi:それを言われると、困っちゃいますよ。
Hirotaka Shiraki:もし誘導したいという前提で進めるのなら、想像しているよりも多くの人間は不幸でいたいと思っていることを理解することだね。
Louis Izumi:不幸ですか。幸せではなくて?
Hirotaka Shiraki:本来「幸せ」というものは比較でしか生まれない。衣食住が充実していることを幸せとすれば、生活水準を下げたり災害などでどれかが満たされなくなると「不幸せ」ということになる。つまり「幸せになりたい」という感情自体が、現在を不幸にしないと成立しない。
Louis Izumi:今が幸せだと思ったら、幸せになるということでしょうか。それが何故「不幸でいたい」ということになるんでしょう?
Hirotaka Shiraki:充実した生活を送り、計画的に物事を考え、壁にぶつかることもなく、友人たちと仲良く成功するような主人公の漫画を、多くの人間は望まない。何故だと思う?
Louis Izumi:面白くないからですか?
Hirotaka Shiraki:その通りだ。人間は「ドラマティックな人生」を面白いと思うんだ。計画通りの順風満帆な人生など、つまらないんだよ。不安に駆られて怒鳴りつけたり、あえて解決策を除いた悩みに苦しみ、嫌われたくないと悲しんで、理不尽に耐えながら、加虐行為を後悔し、自分の弱さを恨むような悲劇のヒロインとして生き続けるなんてドラマティックじゃないか。
Louis Izumi:はあ。ドラマティックですか。そういえば、以前もおっしゃってましたね。不幸になる権利だとか、なんとか。
Hirotaka Shiraki:健康的な生活を送れば、過剰な楽観的または悲観的な思想を避けることができるにもかかわらず、目先の誘惑を優先することで不必要な悩みを抱え、夢を叶える気もない自分の「悲劇のヒロイン性」を楽しんでいる彼らから、ドラマティックな人生をも奪ってしまったら、それを人助けとは呼ばないんだよ。わかるかい、Louis 君?
Louis Izumi:やっぱり貴方はアクマですね。
Hirotaka Shiraki:感情コントロールが苦手な人は、人間ですらない僕に指図されてまでコントロールができるようになりたいとは思っていないってことだ。多くの人間にとって、不幸は人生を有意義にするんだよ。
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