はきものの歴史シリーズ①
履物が人類史に登場するまで
1.履物の痕跡がヒトの化石から見つかった
2008年ワシントン大学の古人類学者であるエリック・トリンカウス氏がヒトの化石を調べた所つま先の骨が華奢であることから習慣的に靴を履いていた可能性が出てきた。
4万年前と言うとネアンデルタール人からクロマニョン人に移り変わるあたりの年代。狩猟採集生活をしていた頃である。石器を作り、死者を埋葬し、呪術を行うなどの情報もある。
2.足の保護や保温から始まった?
一般的に履物は、寒さや地熱を遮る保温機能。岩や植物の棘から足を守る保護機能を目的として作られたと言われているが、最初からこの機能を狙って履物を作ったとは少し考えにくい。
衣服の起源となる有力な説に、木の実や果実など植物を採集する時に動物の皮を風呂敷代わりに使えばたくさん集めることができる。編み物や織物の技術を持たない場合、風呂敷のように使えるものは大きな葉っぱか動物の皮が身近である。植物は破れやすいことを考えると、狩猟で得た皮を使っていたと考える方が自然である。採集の場へ行く際はエプロンのように腰に巻いておけば両手が空くので行動しやすい。外敵に襲われる危険を考えるとエプロン状に垂らすより、股間を通して前後逆のふんどし状にしておくと走ったりもしやすくなる。
更に、石器や矢尻をつけた槍を腰に括り付ける事も出来るため狩にも役立ち、解体した獲物を各々が持ち帰る時も便利であった。
腰から股間にかけてこのように皮を身にまとっていると、次第に外すことを躊躇うようになってくる(コロナ禍でマスクを外すと恥ずかしい人がいるように)このように衣類も防寒や保護の機能が先ではなく道具としての利用から発展したと考える方が理にかなっている。
3.道具としての履物の登場
日本では中国から稲作文化が到来する。水田での作業は足が取られる為、泥に埋まらないよう、田下駄が使われる。日本で見つかっている最古の履物がこれである。2,000年前の弥生時代後期に使われていた。同じ頃、邪馬台国の様子を記した「魏志倭人伝」では倭人はみんな裸足だったとの報告も上がっているため、田下駄は日常的に履いておらず農作業専用の履物だった。
世界では10,000年前の草鞋に似たサンダル(オレゴン州・フォートロック洞窟)が現在発見されている中では最古。灼熱の大地から足を守ると言われているが現在でも草鞋は沢登りで使われていたりするが、川で狩猟する時に滑り止め(狩猟道具)として使っていたのではないだろうか?
シリーズ①のまとめ
人類が履物を着用し始めたのはいつ頃なのか?4万年前説が有力であるがどのような目的で使われ始めたかは謎である。しかし謎であるためにさまざまな想像を掻き立ててくれる。ジャングルの木の上から草原に降り立ち、二足歩行を始めた事で、それまで4足に分散していた体重と衝撃が2足に集中したことで脳へ刺激が強くなり、道具を使い始めるようになったと言われている。
進化の過程で体毛を無くしたのに体毛の機能を求めるというのは、環境適応と進化を無視しているとも思える。きっと知能が発達したおかげで道具として使っていたものがいつの間にか、保温や保護の機能も兼ねるようになったのだと思う。寒冷地や灼熱の地域へ進出していくのはこういった衣類などの機能に気付いてからだと思われる。
履物も同様の系譜をたどったと考えるのが自然な流れではないだろうか。シリーズ②では道具から日常的に着用されるまでの歴史を紐解いてみようと思う。