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スウェーデンの高齢者施設。我が家のような温かさと、介護する人の姿勢の素晴らしさ。
ユニバーサルデザインの先進国である北欧に行ったら高齢者施設を訪ねてみたいと思っていました。その理由は義理の母が軽度の認知症に加えて今年の春に脊髄の圧迫骨折で一人暮らしが難しくなり、急遽施設で暮らすことになったからです。日本の高齢者施設を色々知っているわけではないのですが、福祉先進国のそれはどういう所なのか、自分の目で見てみたかったのです。
旅に出る前に一冊の本と出会いました。『北欧のノーマライゼーション』 田中一正著(TOTO出版)。著者は専門である建築の視点で北欧の高齢者施設をレポートされていました。その本の中でスウェーデンのストックホルム近郊にあるこのグループホームが紹介されていました。 私の興味は、施設のデザインなどにもありましたが、職員のホスピタリティや認知症の方へのプログラムなどにもありました。施設を我が家(終の住処)と思い気持ちよく生活するための工夫、認知症の人の気持ちを和らげ、安定させるための工夫などです。
■ここで暮らす人のために、介護するスタッフのために、新しいものを取り入れる姿勢。
ハーガゴーデン高齢者施設に着くと運営責任者Anna-Carin Berkalさんがスタッフ5名を連れて施設の特徴をレクチャーしてくれました。まず初めに見せてくれたのが新しい介護用ベッドでした。そのベッドはシーツを電動で動かす事で、体が動きにくくなった人の姿勢を変えることができます。介護する側の肉体的な負担が軽減され、安全にさまざまなケアができるようになったそうです。
私も体験してみましたが、自然に体がゆっくりと回転しました。こういう新しい装置は福祉・介護の展示会に毎年足を運び、取り入れるべきものがあれば取り入れる様にしていて、このベッドはデンマーク製とのことでした。
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次に特別な部屋に案内されました。壁に湖の写真が広がっている、スタジオのセットの様な部屋でした。我々がキョトンとしているとすぐに説明してくれたのですが、北欧は冬が寒くて暗くて長い。日光が足りないことが多く、長くあちらに住んでいる人でも憂鬱になるそうです。
特に認知症の方にはそれが良くないので、冬を乗り切るための工夫として擬似的に日光浴ができる部屋でした。近くの湖の写真が壁一面に広がっており、自分たちが暮らしていた環境を思い出す、それが精神の安定につながるとのことでした。(光は有害な紫外線を取り除いていて、ビタミンの補給にもなるそうです。)
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また、大きめのテーブルにはプロジェクターから映像が投影され、インタラクティブなゲームが楽しめます。筆のようなものを映像に当てると、絵が次々に変わっていき、冬から春になったり、楽しいクリスマスになったりします。高齢者の方達にも人気のアトラクションとのことでした。技術的には新しいものではありませんが、高齢者の心身の健康のためにこの技術を活用する事を考え、形にしたこと。さまざまな分野の方が高齢者の暮らしのことを考え、それをビジネスに昇華させていることに大きな拍手を送りたいです。
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■それぞれが思い思いに暮らせる自由さ。窓からの光、廊下に置かれた椅子、植栽の豊かさ。年月をかけてつくり上げてきた工夫を感じます。
廊下を歩いていくと、大きめな部屋に大勢の方々が集まっていました。これから牧師さんのお話会があるそうで、みなさん楽しみされている表情でした。 施設を歩いているとわかりますが、廊下が広く、そして窓からの採光が明るい印象です。廊下には椅子が置かれているところもあり、椅子に座って周りの気配を感じながらも一人の時間を過ごす居場所となるそうです。自分の部屋(プライベート)と、みんなで過ごす場所(パブリック)の間でセミパブリックの場所になります。共同生活をする中で自分の心地いい場所を見つけられる工夫です。
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食堂とキッチンが合わさった広めのスペースに行きました。この日は昼過ぎの訪問でしたので利用風景は見られませんでしたが、時には自分たちで調理も楽しむそうです。自分の手を動かす事、懐かしい良い匂いがしてくる事、野菜を切る音、食器を並べる音、そう言う懐かしい記憶が心の安定につながるそうです。認知症の方にとって食事の時間がどれほど大切なのか、想像できました。
中庭にも長テーブルがあり、食事やレクリエーションを楽しむこともできます。庭の手入れ、植栽の美しさ、どれをとっても素敵な環境です。
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■認知症ならではの施設デザインの工夫、スタッフの会話も環境の一部になっている。
次に古い五階建ての施設に連れて行ってもらいました。各フロアに8名ずつが暮らしています。共用の居間のような場所では、2人のお婆さんと一人のお爺さんが座っていました。挨拶をするとにこやかに答えてくれました。
住人の部屋も見せてもらいました。トイレとシャワーがあるバスルームと広い居室がありました。部屋は自分なりの家具やインテリアを置くことができ、窓からの光も明るく、とても落ち着くいい雰囲気でした。
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廊下を歩いていると認知症の人のための工夫を説明してくれました。住人の部屋のドアと、スタッフが利用する倉庫などのドアでは、色使いを変えていました。住居のドアは枠が白く目立ち、そうでないドアは壁の色に合わせて目立たないようにしていました。
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住人の方々は認知症の進行がさまざまで、スタッフと仲良く立ち話をする元気なお婆さんもいれば、テレビの前でずっと座っているお爺さんもいました。 私は一人のお婆さんの隣の椅子にしばらく腰掛けていました。そのお婆さんの見ている景色を見てみたかったからです。少し離れた所にいるスタッフの楽しそうに会話する声が、心地よく聞こえました。
■ダイバーシティ&インクルージョンとユニバーサルデザイン。
最後にダイバーシティ&インクルージョンということについてですが、北欧に来て感じたことがあります。例えば今年の日本の夏は真夏日が続いていましたが、北欧では20度以下の涼しい状況でした。また国土面積は同じぐらいにも関わらずスウェーデンの人口は1000万人程度。地形や気象だけでなく歴史を見てもそれぞれのものがあります。良いものはどんどん取り入れていけば良いというのもわかりますが、それぞれの土地の特徴を変えることはできません。地球の上でさまざまな民族や文化があることが、当たり前であり豊かさなのです。そういう違いがあることがダイバーシティであり、それぞれを認め合うことがインクルージョンなのではないかと思います。 また、ユニバーサルデザインとは万国共通全ての人に対して機能する一品を作るものと誤解されている節がありますが、もともと使用する人への眼差しと柔軟な対応が求められているのです。
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(ハーガゴーデン高齢者施設はハーニング市が運営しています。)
この記事はcococolorから転載しています 「ユニバーサルデザインの旅」https://cococolor.jp/udnotabi
写真:田代デザインスタジオ 植田UD研究所