見出し画像

ベルファストのカウボーイ -2013- 僕と音楽と(19)

 2013年8月9日、僕は、アイルランドのベルファストの、憧れのVan Morrison の生家の前に立っていた。
 石造りなので、日本の長屋とは雰囲気が違うが、コロナ禍でなくても殆ど人影の無い、同じ家並みの一軒に、その表示がひっそりとある。

 Van Morrison に初めて出逢ったのは、1971年。The Bandが、彼等の4枚目のアルバム「Cahoots 」の5曲目「4% Pantmime」で、Richard Manuel が1st verseを歌い始め、サビに入ると、The Bandの面々とは異なるvocalが聴こえて来て、その声の虜になった。
 Oh, Richard!と歌い掛けるその声の主に対して、Richardは、Oh, Belfast Cowboy!と応じる。
 アイルランドの産んだ、僕にとってのNo.1ミュージシャンとの出逢いである。

 Vanは既に、ソロとなってから、
Astral Weeks、Moondance、His Band And The Street Choirの3枚の傑作を出しており、
1971年、名作Tupelo Honeyを発表し、高校生の僕はこの4枚のアルバムを貪るように、繰り返し繰り返し聴いた記憶がある。

 だが、僕にとってVanが決定的な存在になったのは、それからライブアルバムを含め3枚のアルバム出した後、1974年にアイルランドに戻り、それまでとは全く異なったアルバムをリリースする。
僕は、たった1枚無人島に持っていくなら(笑)、今でもこのアルバムを選ぶ。
永遠の「Veedon Fleece」の誕生である。

 acoustic guitarと静謐なピアノ・トリオの演奏で、Vanが「Fair Play」を歌い始める。これ以上美しい曲は無い、と僕は思う。

 「キラニーの湖は本当に青い」という歌詞が出て来る。
 結婚する前の妻君にこの曲を聴かせ、いつか一緒に行きたいと言った。
 アイルランドはいつか訪れたい聖地となったが、それが叶うまで、39年が経っていた。

 誰も行かない、ベルファストの生家も訪ねることが出来たし、1984年のライブアルバムを録ったThe Grand Opera House Belfastの前にも立ったが、キラニーの青い湖は見ていない。
 「いつかまた来よう!」と。
 いつか、は必ずは来ない。行ける時に行け。

 その後、Vanのアルバムは全て聴き続けたが、Van Morrison は未だ一度も来日していない。

 2006年8月30日、僕は一人で、ローマからウィーンを、その一夜の為にアリタリアで往復して、Vanに初めて逢った。
 2007年8月10日、今度は妻君と、英国のGlastonbury Abbeyで、Vanを聴いた。
 2016年7月30日、アイスランドの旅の前に、
ノルウェーのベルゲンで雨の中、Vanを聴いた。
 そしてその年の10月13日、Desert Trip前夜、憧れのHollywood Bowlで、Tom Jonesと共演するVanを聴いた。

 それぞれの冒険は、また別項にて機会があれば。
 今は、聴いておいて良かったと、つくづく思う。

本日の一曲
Van Morrison 「Fair Play

いいなと思ったら応援しよう!