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【す】巣鴨にある赤パン屋の野望

僕はいま、マレーシアのイポーという街に住んでいる。
僕自身も記憶が曖昧になっていたのだけれど、今月の20日で、マレーシアに来てちょうど5年が経つということを本社の人に教えてもらった。

海外での生活が5年ぐらいになると、いろいろ自分の中にも変化が生まれるのだが、最も大きいのは「味覚」なんじゃないかと思う。

イポーという街はマレーシアの中でも「美食の街」として知られていて、食べ物はとにかく美味しくて安い。特に中華料理とインドカレーは絶品で、日本では決して味わえないだろうという料理をたくさん覚えた。

この現地料理に慣れ親しんでいくに従って、日本にいるときに得てきた「味覚の経験値」が減っていくという感じがする。

日本人なので、当然毎日中華やインドカレーだと飽きてくるから、自分で作ったりすることも多いのだけれど、食材が同じでも日本で手に入るものとは明らかに味が違うので、当然出来上がる日本料理の味も違ってくる。
例えば肉じゃがを作るにしても、人参や玉ねぎなんかを煮込んでも野菜のうま味の出方がぜんぜん違うような気がする。
日本ではほぼ毎日食べていた冷奴でも、こちらのスーパーで販売している豆腐は賞味期限が3ヶ月とかあったりする。

年中暑い国なので、基本的に食材には火を入れることを前提にして販売されているから、日本料理の「できるだけ手をかけないで素材の味を楽しむ」という感覚はあんまりないのではないかと思う。
その代わりフルーツはとても美味しい。マンゴーとかパパイヤとかが有名だけれど、意外とスイカがとても美味しい。日本のスイカと遜色ない甘みがあって、年中味わうことができて、しかも安い。
先日マレーシアに日本の業者の方が来ていっしょに食事をしたんだけれど、その人は世界で一番好きな食べ物はスイカですと言っていた。
こんな変わった人は初めて見たけれど、一玉200円もしないで買えるので、マレーシアに移住すべきなんじゃないかと思う。

今月の初旬から一週間ほど日本に一時帰国していた。

マレーシアに来る前は、広告、広報を含めたマーケティング業務を担当していて、その仕事も出来る限り海外からでも助けるようにという話で赴任しているので、年に2~3回程度は日本に帰るようにしている。

僕の場合、3年目ぐらいまでは「ラーメン」とか「とんかつ」とか「お寿司」とかそういう日本でしか食べられないものを食べたいと強く思っていて、会社の先輩に誘われて昼食になんか別のものを食べなきゃいけないような機会があるととても残念な気持ちになっていたんだけど、もう今は、日本のその季節に味わえるものを食べたいな、と思うようになってきた。

毎回帰国のたびに会社の仲間や、たまにしか会えない友人たちに会って食事をしたり酒を飲んだりするのは何よりも楽しい。今回の帰国のトピックスはカキフライで、これは涙が出るほど美味しかった。

今回の帰国で、友人と巣鴨で会うということになって、人生で初めて巣鴨の地を訪れたのだが、これがなかなかのカルチャーショックだった。

「おばあちゃんの原宿」というイメージを持っていたからかもしれないが、とにかく通行人の年齢が高い。みんな人生の大先輩ばかりだ。

ここの商店街がとにかく面白かった。ターゲットが完璧にセグメントされているので、余計なことを一切考える必要がない品揃えや商品コピーに出会うことができる。

約1キロぐらいの商店街は、団子や大福、お稲荷さんやせんべい、お饅頭、羊羹などのお店がたくさんあって、どの店も「大正9年創業」とかそのお店の古さを競い合っている感じがした。
この街では、歴史があるということはとても大事で信頼に値するという価値観があるんだろうと思う。

洋品店も素晴らしくて、うちの母親なんかも「そんな柄の洋服はどこに売ってるんだろう」という70代半ばのファッションをしているのだが、そういうイメージの商品が所狭しと並んでいる。潔くそういう柄のものしか置いていないし、しかも安い。1000円あればシャツが2枚買えてしまう店もあった。

すごく印象的だったのは、巣鴨では「赤いパンツをはくと健康になる」という常識があるみたいで、この赤いパンツ(ズボンではなく下着)はどこの洋品店にも置いてあったように思う。
「日本一の赤パンツ」や「世界初の赤パンツ専門店」などといった、ワールドワイドなコピーライトにも感慨深いものがあった。

巣鴨にしかない常識なんだろうから、「そりゃそうでしょうね」っていうことなんだけれども、忘れちゃいけないのは日本はすごいスピードで高齢化が進んでいるという事実である。

もしこの「赤いパンツをはくと健康になる」という常識を日本全国に広めることが出来たら、ものすごいビックマーケットが存在するということになる。
健康食品などの流行り廃りがあるようなアイディア勝負の市場ではない。
単純に赤い下着をつけていれば健康で幸せに生きられるのだ。

もしこの赤パン屋の社長が、日本全国制覇の野望を抱いているのだとしたら、すでに「日本一の赤パンツ」と言い切られてしまっているので、後発はだいぶ大きな壁にぶち当たることになるだろう。

この会社のホームページを見たら既に「赤パンツの元祖」と言い切っている。
「歴史があるということはとても大事で信頼に値するという価値観」を持っているマーケットに対して、大きな先制パンチを打っているとも言える。

https://www.sugamo-maruji.jp/hpgen/HPB/categories/22558.html

もしこの赤パン屋の社長が世界制覇を狙っているとすれば、戦略的に彼らは4号店として、「世界初の赤パンツ専門店」を既にオープンさせている。
イスラム教のメッカの如く、赤パンの聖地ともいえる巣鴨に4店舗を構えているのだ。
このマーケットを狙う後発の世界企業に対しても、大きなアドバンテージを持っているとも言えるだろう。

まだまだ日本には恐ろしい人がいるものだ。

僕の、マーケッターとしての「赤い血」が騒いでいる。

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