抜擢人事された人は、落ち目になると地獄を見る
抜擢人事とは年功や学歴を飛び越えて人材を登用することや、比較的若い人材を高いポストに起用したりすることです。
バブル崩壊以降に増えだしました。
この『バブルが弾けてから増えた』と言うのが味噌です。
なぜバブルが弾けてから増えたのかと言えば、理由はたった一つ。
『年功序列を維持できなくなったから』
それだけです。
よく抜擢人事導入の理由としてとして「社員のモチベーションアップ」とか「組織の活性化」なんて言われますがどれも大嘘です。
企業は全社員に対して勤続年数に応じて待遇を良くしていく事ができなくなっただけです。
もっと正確に言えば、できたとしても、したくなくなったからです。
したくない理由は利益は配当と自社株買いに使いたいからです。
なぜか。
株価を上げたいからです。
どうして経営陣はそう考えるのか。
それは株価を上げないと株主から無能と言われ自分の地位が危うくなるからです。
サラリーマンを経験した人ならわかると思いますが、多くのサラリーマンは上司から怒られないことを最優先に仕事をします。
部下は自分の人事を左右することもないし、自分を怒ることもありません。
だからサラリーマンは上司しか見ないんです。
同じように経営陣は社員からは何も言われませんし、言われたところで気にもしません。社員が経営陣に対してできる事なんてないからです。
でも株主は経営陣の人事を左右するし、文句も言ってきます。
だから経営陣は社員ではなく株主だけを見ます。
株主から認められる唯一の方法は株価を上げることです。
株価を上げる方法として、1番の本筋は業績を良くすることです。
しかしデフレが続き、政府もまともな経済対策を打たないどころか、増税や緊縮財政で企業の足を引っ張る今の日本では業績を上げるのは簡単ではありません。
でも株価を上げなければなりません。
結果、経営陣が何を考えるかというと社員の賃金をできる限りカットして、自社株買いと配当に回そうということです。
だから使えない人や、交換がきく人はたとえ勤続年数が長くてもびた一文賃金を上げたくないのが本音なんです。
そもそも企業にとってほとんどの人は使えない人か交換のきく人なんです。
ほとんどの人というのは、もう99%。極端な事を言えば経営陣も含め全員です。
そこそこの規模がある会社なら、例えトップセールスが抜けたとしても、びくともしません。社長が変わろうが同じです。
組織とはそういうものなんです。いなくなったら、いなくなったなりに次のトップセールスや社長が組織を回せるんです。
そのくらい企業にとってどうしても手放せない人材なんていないんです。
例外は創業者と全世界で見てもトップに入る優秀な頭脳を持つ人達です。
創業者は会社の大株主ですし、会社そのものです。何事にも例外はありますが、ソフトバンクの孫正義氏やユニクロの柳井正氏のような方を見れば変えがきかないという意味がわかっていただけると思います。
優秀な頭脳を持つ人達とはどういう人かというと、例えば富士通とかNECのような大企業で量子コンピュータとか人工頭脳などの研究をしているような人です。
最先端の技術というのは、チームの中で切磋琢磨して生まれる事はほとんどなくて、1人の天才のひらめきによって生まれます。だから
富士通やNECの技術レベル=その会社の抱える天才の頭脳のレベル
になります。
こういう人はとんでもない待遇と給料で雇われていますし、企業も引き抜きを恐れてそれが誰なのかさえも一切表に出していません。
そういう人なら話は別です。
逆に言えばそこまでではない人は、基本企業にとっては失っても致命傷にはならないのです。
だからそんな人のために賃金なんか上げたくないのが経営陣の偽りのない本音です。
もちろん労働者だって馬鹿ではありません。そんな企業の本音はわかっています。
当然不満に思います。
また企業としてもあんまり労働者が不満に思って仕事の質が落ちても困ります。
じゃ、そのガス抜きとして適当に何人か抜擢人事しましょうか、という話になるわけです。
『給料が上がらない、待遇が良くならないのは会社のせいではなくて、お前の実力がないからだ。実力がある〇〇は地位も給料も上がっているじゃないか』
そういうためです。
抜擢人事は企業の労働者に対する言い訳なんです。
で、ここで問題となるのが
『抜擢された人にとって、抜擢は本当に良いことなのか』
ということなんです。
私は抜擢されるような人間ではありませんでした。
だから抜擢された人の気持ちは想像するしかありません。
しかし、ほとんどの人はあまり幸せになっていないように思います。
私のいた証券会社は抜擢人事によって30代で支店長になる人が出たり、女性活躍社会だからと言う理由で女性だからと出世していく人がいました。
企業としても抜擢人事した人が結果を出さないと意味がありませんから、当然お膳立てをします。
証券会社なら成績の良い支店や、ノルマが比較的低く成績の出しやすい支店に配属したりします。
しかもそこに優秀な若い社員を送り込みます。
そうすれば抜擢された人にパワハラなどの人格的な問題があったり、セクハラなど女性問題などがなければ、成績はそれなりに上がるものです。
ではそこまでしてもらえるのに、抜擢された人は何が不幸なのか。
それはまず、
抜擢された人間が勘違いすること
です。
抜擢人事は本当にその人が優秀だからされたのではありません。年功序列ができなくなった言い訳のために行われたわけなので、極端な事を言えば誰でもいいんです。でも、
された人は自分が優秀だから抜擢されたのだと勘違いしてしまう。
それが態度に出ない人はいないように思います。
もちろん抜擢されたからにはたまたまその時に営業の成績が良かったとか、社長賞を何回か取ったとか程度の事はあるのだと思います。
本人にとっては社長賞を何回取ったとか、同期でトップの成績だったとか、出世頭だとかは大事なアイデンティティでしょう。
しかし、何度も言うように大きな企業になればなるほど、一営業マンの成績なんて本当に心からどうでもいいんです。
この認識のずれが抜擢されて不幸になる人の根本にあるように思います。
また、仮に若くして成績の良い店の支店長になり、優秀な部下をつけられてそれで成績が悪かったらどうでしょう。
会社としては一気にこいつはダメだと言う評価になります。
本人としては会社から大事にされてると思ってますからまたチャンスをもらえると思っているでしょうが、そんな事はありません。
だって会社は誰でも良いんですから。
またその時たまたま成績の良い人間を抜擢人事するだけです。
会社から一気に掌を返される事になります。
これが昔のようにまだ企業に余裕がある時であったら逆でした。
企業は失敗した人間にむしろチャンスを与えていました。
何故なら昔、企業は社員を育てようとしていたからです。社員を資産だと大切にしていたからです。
それに企業も失敗こそ成長の源泉だという事は理解しています。
しかし今企業は社員を育てるとか、大事なものだという考えはありません。勿論例外はありますが、むしろ負債だと感じるようになりました。
だから社員を使い捨てるようになりました。
使い捨てるようなものに次はないんです。
また周りにいる人も、抜擢人事されたからついてきた人がほとんどです。
だから周りの人も掌を返します。
また抜擢人事されて一度上の立場になり失敗すると、後は下がるだけになりますが年齢が若いうちにそうなるとその後の会社人生は相当に辛いものになります。
そもそも抜擢人事された人は『なんであんな奴が』『あいつだったら俺の方がマシ』だと必ず思われるものなんです。
人の評価の物差しで誰もが納得できるなんてものは絶対にありません。
それで失敗したら、ほら見たことかと必ずなります。
抜擢人事は、一度も失敗しなかった本当にごくわずかな人を除いて、された人もされなかった人も全員を不幸にします。
しかし、デフレで成長できないと企業はやらざるを得ないんです。
経済成長しないという事は、本当にありとあらゆるものを不幸にします。
早く日本が経済成長する国に戻ることをこころこら願っています。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。