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読書感想#12【地球の論点 現実的な環境主義者のマニフェスト】本気の気候変動対策って、コレかも。
皆さんは、「地球温暖化対策」って、生活の中で何か取り組まれてますか。
僕は、家の照明をLEDにするくらい、という意識低い系です💦
そんな意識低い僕でも、昨今の夏の過酷な暑さや、冬のサーフィンの海水の温かさで、危機感を持ったりします。
社会では、COP、パリ協定、氷河の融解など、様々なところで、危機感が高まっているなぁと感じます。
本書は、2011年刊行と少し古いのですが、スティーブ・ジョブズが愛読した本として、有名です。
いつか読んでみたかった本。
読後感想は、「今までなんとなくモヤモヤしてた気候変動対策って、コレがひとつの答えかも。やっぱり、ヒトの科学的アプローチしかないよなぁ」
ガイア理論 ポジティブフィードバック
本著で何度も名前があがる、ジェームス・ラブロック。1970年代に地球をひとつの生命システムとして捉えた、【ガイア理論】で有名な英国科学者です。
ラブロックは、地球のシステムが、ポジティブフィードバックに入っており、平均気温が5℃上がり定着して、5500万年前の地球全体が熱帯のような状態になることを、示唆します。
”ポジティブフィードバック”=正循環。最近だと気候転換点=ティッピングポイントと関連づけられます。
グリーンランドと西南極の氷床、永久凍土の融解、熱帯のサンゴ礁の死滅、海洋の流れである大西洋南北熱塩循環の停止などが挙げれラれます。
例えば、永久凍土の融解が起きると、メタンガスが大量に放出され温暖化が加速し、更なる融解が発生するフィードバックが起こる。
これが、ポジティブフィードバックです。
これが気候転換点を超えると、後戻りが出来なくなると言われています。
この本が出版された2011年には、このポジティブフィードバックの入り口に立っているとラブロックは警鐘を鳴らしています。
都市化 スラムから希望が始まる?
24年、インド ムンバイに仕事で行ってきました。
今まで訪問した海外の国、その何処とも圧倒的に異なっていました。
車中からでしたが、スラムを見ると、食糧品屋、床屋、電気屋、雑貨屋、あらゆるモノとコトがひしめいている。そして夥しい数のヒト。
ヒトの量とエネルギーが、桁違い。
中国も凄いと思いましたが、なんか熱量が違う。
ヒトの持つエネルギーが凄い。
この本の第一章では、このスラムが、気候変動対策の道筋として、提示されます。
スラムは、都市化の中で発生します。
"都市化”
ヒトの歴史は、都市化の歴史でもあります。
ホモサピエンスは、狩猟社会からスタートして、農耕社会へ移行し、鉄の農具や家畜により生産余剰が生まれ、富の蓄積ができるようになります。
農業生産に従事しなくてもよい階級が生まれます。王族、貴族、僧侶、官僚。結果、”都市”が生まれます。
この人類の歴史は、以前の投稿”格差の起源”に詳しく書いております。
ギリシア、エジプト、メソポタミア、秦、ローマ。古代から継続される都市化。
しかし、1800年代までは、都市人口は全体の3%程度でした。1900年に14%、2007年に50%になり、この構成は増加中です。
何故、ヒトは都市に集まるのか?
単純に”富”が都市に集まり、結果、農村部よりも”稼げる”。
これは過去も現在も、共通しています。
そして、中国、インドの28億人で、農村部から都市へのヒトの移動が、今現在も進行しています。
世界人口の50%が人口50万以上の都市に暮らし、22%が、人口100万~500万の中都市に暮らしています。この都市が、農村部との結節点になります。
何故、都市化が気候変動抑制につながるのか?
先ほど挙げた世界人口の50%がくらす都市の面積は、地球の陸地面積の2.8%です。つまり、人口密度が高い。社会サービス(福祉、教育など)の提供が”効率的”ということを意味します。
都市と農村部は補完関係にあります。
農村部は、都市の需要への供給で、経済が成り立ちます。
その際、交通・通信のインフラ整備により、農産物の付加価値も上がり、生産性が向上します。結果、農耕面積が小さくても現金化しやすい作物に集中できる。この結果、焼き畑農業のような形態が減少し、農村から都市への人口流入で農村部の人口も減り、森林や生態系も復活します。
農村部から都市への人口流入。
この結果、都市ではスラム=不法占拠地帯(スクウォッターシティ)が出来上がります。2013年でも約9億人がスラム住民と言われ、増加中です。
スラム住民は、人間関係の繋がりが濃く、女性の活躍も農村部と比して自由度が高いです。そして皆、携帯電話を活用して安価なデジタルサービスを利用しています。
持たざるヒトたちによる、技術のリープフロッグが起きやすい。
BOP=ボトムオブピラミッド と呼ばれる年収3000ドル以下の層。
この人口が40億人と言われています。このBOPの世界市場は5兆ドル!しかも、この層は経済成長予備軍ですので、グローバル企業はBOP向けのプロダクト・サービス開発を行っています。
スラム街は、成功のチャンスに溢れている。なので、農村部からヒトを惹きつける。都市の密度が高まり、農村部の密度が下がる。全体のエネルギー効率が上がり、農村部の自然が回復する、好循環が生まれます。
原子力 世界は次世代開発に動いている
”グリーンエネルギー” と言えば、太陽光、風力、地熱、バイオマス などが思い浮かぶのではないでしょうか。
本著では、これらを肯定しながらも、差し迫った炭素排出を抑制する現実解として、”原子力発電”の促進を提起します。
この本は2011年に出版されており、同年に起こりました、東日本大震災による福島原発事故は、まだ知らない世界での論説です。
しかし、それを差し引いても、僕には納得できました。
原子力発電のリスクはある。しかし、化石燃料を利用するリスクより、ずっと良い。
太陽光、風力は素晴らしい発電方式だが、多くの問題点が残ります。
最大の問題は、”発電量が天候に左右され、蓄電が出来ない”。
日本でも発電量の変動が大きいため、送電網容量が不足し、接続制限されています。変動性が無くならない限り、ベース電源にはなりえません。
日本の電源構成は、2024年 火力発電が70%を占めており、太陽光・風力・水力を含めた再生エネルギーは約20%。7%程度が原子力発電です。
震災前の2010年では、火力発電が70%、原子力が約30%という構成でした。必死に再生エネルギーを増やす様々な施策を行いましたが、この15年間、結果的に化石燃料のエネルギー依存が減らなかったのが日本の現実です。
原子力発電の温室効果ガスの排出量はキロワット時あたり、太陽光の50%、天然ガスの10%、石炭の3%。圧倒的に少ない。
04年にサインエス誌に掲載された論文では、原発の発電能力を年間700ギガワット(04年の3倍増)にすれば、年間3.7ギガトンの温室効果ガス抑制が可能とあります。
2022年、世界の温室効果ガス排出量は、57ギガトンになりました。COP28では2030年までに、43%減らすことが目標です。
つまり、24ギガトンの削減。。。。
原子力発電は、多くの課題を抱えています。
核燃料廃棄物処理、事故リスク。
一方で、新世代の技術革新にも期待が寄せられます。
アメリカ、中国などが新世代の原子炉開発が盛んにおこなわれています。
”正しく恐れる。そして思考停止をしない”。
原子力発電に対する、僕たち人類のもつべき在り方は、このような言葉になるのではないでしょうか。
遺伝子組み換え 正しく認識することが大事
皆さんは、”遺伝子組み換え作物” と聞いて、どうでしょうか?
僕は、正直なところ、あまり積極的に購入したいと思いません。
”なんか、怖い”
多くの日本人は、そのような感想を持つのではないでしょうか。
本著を読んで、その感情がゼロにはなりませんが、正しく認識することが大事だと思いました。
”遺伝子組み換え作物”で健康リスクの事実はあるのか?
この問に尽きると思います。
04年、国連食糧農業機関(FAO)からは、「遺伝子操作した作物=トウモロコシ、大豆、などから作られた食品での身体に悪い影響を及ぼす毒素は確認されていない」と報告されています。
アメリカでは、遺伝子組み換え食品は、食品医薬品局、国立衛生研究所、環境保護庁で、徹底的に調査され安全性が確認されています。逆に、自然の交配種ではそこまでの確認は行われていません。
”自然の植物”。これは安全なのでしょうか?
植物は、捕食者から自身の種を守るために、”自然の毒素”を持つことがあります。
例えば、緑色のジャガイモは、ネズミに効く独をもちます。ピーナッツ、貝、小麦では、ヒトにアレルギーを起こす成分をもちます。セロリに含まれるソラーレンという成分は、皮膚に発疹を起こし、DNAに交差結合をさせ、がんの原因にもなりえます。ニンジンは、神経に有毒な物質を含みます。モモ、ナシは甲状腺腫を促進する成分を、イチゴは、血液凝固を抑制する成分があり止血が難しくなります。等々。
挙げた”自然の食物”の毒素も、食べる量でその危険性は変わります。
ニンジンのによる神経障害は、1度に400本を食べた場合です。
”自然食品”の幻想
”自然食品”。
とても、安心するワードです。
”遺伝子組み換え”にネガティブキャンペーンを行う、”環境活動家”は、”あるがままの自然”を主張します。
特に欧州を中心として盛んです。
米国は、”遺伝子組み換え”を受け入れてきました。
この差分は、90年代欧州で起こった”狂牛病”から端を発しているようです。この病気、遺伝子組み換えに関係ないそうです。
生物学者にとっては、”あるがままの自然”といえる農産物は、ひとつもない。
今、ヒトが食べている食物の殆どが、歴史の過程で、多くの自然交配による”遺伝子組み換え”をしているからです。
カボチャ(1万年前)、トウモロコシ(9千年前)、ジャガイモ(7千年前)、ライ麦(1万3千年前)、小麦(1万5百年前)、米(8千年前)。
枚挙に暇がありません。
”自然食品”は、科学的認知をすれば、それが如何に幻想であるかが判ります。
そんなモノは最初からナイ。
ヒトは太古より、食糧生産性を上げるため、つまり”飢えない”ために、自然を作り変えてきた=デザインしてきたのが、歴史的事実です。
”オーガニック”、”有機栽培”
このワードは、この20年くらい日本でも大人気です。
”遺伝子組み換え”の対極にあるように感じます。
では”オーガニック”とは何か?
土壌と有機農場の生態系を手入れし、病原菌の処理を生物学・機械でコントロールし、肥料を有機材料に依存することです。
つまり、”あるがままの自然”とは何も関係がありません。
著者は、”オーガニック”はブランディング手法のひとつと、喝破します。
より高い値段で販売するためのマーケティング手法。
有機栽培の真の価値は、除草剤、殺虫剤、合成肥料などの、土壌汚染を防ぐことにあります。
著者は、”遺伝子組み換え”食物により、除草剤や殺虫剤が不要になり、栽培土壌を保護しながら、有機栽培を行う姿を提唱します。
遺伝子組み換え作物の恩恵
”遺伝子組み換え”で除草剤に耐性を持つ作物。
これが、気候変動におおきなインパクトを与えます。
”不耕起栽培”。
つまり耕す必要をなくすことができる栽培が可能になりました。
前年の収穫の残骸が畑で自然と腐り、微生物の住処となり、農民はタネを地中に埋める直播きをします。発芽したら、除草剤を噴霧し、雑草を除去する。結果、収穫量は増え、土質は豊かなまま、労力を減らして持続的栽培が可能になります。
土は、生きている植物と大気中の炭素を合わせた量よりも多くの炭素を、包含しています。
土中の炭素量 1500ギガトン、植物の炭素 600ギガトン、大気中の炭素830ギガトン。
土を”耕す”と、土中の炭素が大気に放出されています。
つまり、不耕起栽培であれば、炭素が土中に保存されたままになります。
前述しました通り、人類の農業の発展は、”飢え”を無くすことが目的でした。
それは、現代でも変わっていません。
人口の増加。”人口爆発”と言われています。
18世紀の産業革命以降、世界人口の増加ペースが速くなり、19世紀末には16億人、20世紀半ばには25億人、24年82億人に達しています。
これをけん引するのが、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、米国という9カ国です。
米国は”移民”での増加ですが、他国は前述の”格差の起源”にある”マルサスの罠”、労働力としての人的リソースに依存する経済システムによる増加です。
このような国において、”飢え”に対抗するためには、農業生産効率がとても大切です。
1940年代、米国ロックフェラー財団の支援で、農業科学者ノーマン・ボーログが、「緑の革命」と呼ばれる、小麦・トウモロコシの品種改良を行い、1970年にノーベル平和賞を受賞されています。
1940年代、インドで400万人、1950年代、中国で3000万人が餓死をしています。ボーログはメキシコで、小麦・トウモロコシの”染色体の組み換え(交差乗り換え)を行い、中国・インドに導入。
従来の3倍の収穫が得られことで、10億人を救ったと言われています。
ボーログは2007年に、このように語っています。
”2000年に、1950年代と同じ農業生産性であったら、必要な耕地は現在の6.6億ヘクタールの倍、12億ヘクタールを余分に必要としていた。結果、土壌の浸出、森林・草地の喪失、生物多様性の減少、野生動物の種の消滅の破壊的な状況が生まれていた。”
歴史を振り返っても、”遺伝子組み換え”のような、ヒトの科学的叡智を駆使した作物は、特に新興国のような経済発展が途上の地域には必須の技術だと判ります。
まとめ
都市化
原子力
遺伝子組み換え
著者 スチュアート・ブラント はこの3つを、これからの”地球の論点”として提示します。
どの提案も、今の”グリーン”という言葉が想起させるイメージとは異なります。
里山的田舎
再生エネルギー
自然食品
対比すると、こんな感じでしょうか。
僕がこの本を読んで感じたのが、
「常識を疑い、正しいファクト認識を持ち、考えて行動しよう」
この言葉は、最近読んだ、他の本からも感じるコトです。
僕たちは、”常識”という檻に閉じ込められている。
それは、”世間”=web記事、テレビ、動画、SNS で流布されている”常識”。
僕たちの脳はとても”面倒くさがり”なので、この”常識”に照らして直観的に判断をする。
ダニエル・カーネマンのいうシステム1という思考法。
システム2=理性は、高次な脳リソースを使うので、中々駆動しない。
駆動させるには、「本当かな?」と常識を疑い、ファクトに触れるしかありません。
そのファクト認識を基に、正しく恐れ、考える。そして行動する。
僕たちの責任は、次世代にこの世界を繋ぐこと。
僕は、ヒトの叡智=科学技術を信じたい。
勿論、万能ではない。正しく恐れる。検証する。
”常識”を疑い、多様な意見を吟味する。
そのうえで、正しくリスクをとる。
この本から、そんなことを受け取りました。
今回も長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
良かったら、”スキ”、”コメント”を頂けると、嬉しいです。
またのご来訪をお待ちしております。