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閏年の祖母との会話 #シロクマ文芸部

閏年が好きだ。
大好きだった祖母と話ができるから。

父と毎日仏壇に手を合わせるのだが、命日の二月二十九日だけ、祖母と会話ができるのだ。そんな気がするだけかもしれないが。

初めて声が聞こえた時はびっくりして父を見たが、どうやら父には聞こえてないようだ。なんだか申し訳ない気がした。息子である父には聞こえず、孫の私だけ聞こえるなんて。

「夏美、立派になったわね」

(え、おばあちゃん?おばあちゃんなの?)

「いつも拝んでくれてありがとうね。
 どう?毎日、楽しい?」

(うん、まあまあ。おばあちゃんは?)

「ぼちぼちよ。ぼちぼち」

ぼちぼち、は祖母の口癖だった。

「夏美、私、これだけは言っておくわ。絶対こっちに来ちゃ駄目よ。退屈だから」

(う、うん)

「生きてるうちにやりたいこと全部やるのよ、分かった?」

また言ってる。コレも祖母はよく言っていた。
(うん、分かったよ)

「じゃまたね」

(え、もう行っちゃうの?またね、おばあちゃん)

これだけの会話だが、母親の顔も知らず、祖母に育てられた私にとっては貴重なものだった。
最初は驚きが大きかったが、やがて閏年が待ち遠しくなった。

だが、就職して家を出てしまうと、閏年の祖母との会話はできなくなった。実家じゃないと出てきてくれないのかな。

閏年だけはどんなに忙しくても実家に帰るようになった。



父が突然の事故で亡くなった。
私は悲しみに耐えながら遺品の整理をしていた。

父のパソコンを開くとデスクトップに自分の名前のフォルダを見つけた。悪いと思いながらもクリックすると、私の成長の記録とも言うべき、たくさんの写真があった。
と、ひとつだけ音声ファイルがあったのでダブルクリックして再生してみた。

「夏美、立派になったわね」

祖母の声だ!
閏年の祖母との会話は父の仕業だった。

「お父さん!」

思わず声が出た。
私はこんなにも優しい父にちゃんと感謝を伝えてきただろうか?

「ありがとう、お父さん!大好きだよ。これまで本当にありがとう!」

遅すぎる。
分かっていても、何度も言わずにはいられなかった。

(839文字)


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