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恋猫にはなれなくて #シロクマ文芸部
恋猫とあなたに呼んでほしくて、今日まで尽くしてきました。でも、もう限界です。
どこまでいっても私は、あなたにとって愛する仔猫達のひとりにすぎないのだと悟りました。
さようなら、愛しいあなた。
どうか、探さないでください。
カレン
男は手紙を読み終えると立ち上がり、執事に指示を出した。
「カレンがいなくなった。探してここに連れてこい。今すぐに、だ」
一時間も経たないうちに、執事はカレンを男の前に連れてきた。
「CoCo壱でカレーを食べていました。私はこれで」
執事が下がると男はカレンに声をかけた。
「カレン、謝るよ。申し訳なかった」
「どうして?探さないでと書いたのに!」
カレンは泣き叫んだ。
「君が誤解しているからだ」
「していない!あなたは私だけを愛してくれない。そうでしょう?」
「そうだよ。だけど、僕は君のことを誰よりも愛している。そして、ここが重要なところだが、君は僕を愛する必要はない」
「どういうこと?私だってあなたを愛しているわ!分からないの?」
「僕を愛そうが愛すまいが君の自由だ。僕はただひたすらに君を愛す。君は僕の大切な仔猫ちゃんだから」
「だったら、私を恋猫にしてよ!」
「それはできない。恋猫にしてしまうと、僕は君からの愛を期待してしまう。それは辛いのだ。もし君が僕を迷惑に思うのならば『私を愛さないで』と言ってくれ」
「そんなの、ずるい。私はあなたに愛されたいし、愛したいのに……」
「君を愛しているよ、誰よりも」
「あなたの愛が私だけじゃないから言っているのよ!分からないの?」
「分かっているよ。だから、約束しよう。僕は一生、恋猫は作らない。君に不自由な思いなど絶対にさせない。ただひたすらに、僕が君に愛を捧げることを許して欲しい。その代わり、君は誰を好きになっても構わないからさ」
「ああ、もう分からない!どうしたらいいの……」
「お腹が空いているのではないのかい?食事の途中で連れてきてすまなかった。CoCo壱に行こう。ウインナートッピング、好きだったよね?一緒に食べよう。これからのことは食べてから決めればいい」
男は右手をカレンに差し出した。
カレンはうなづいて、その手を握る。
「うずらの卵もつけていい?」
「もちろん」
「ワガママ言ってごめんなさい」
「とんでもない。僕はね、仔猫ちゃんのワガママを叶えるのが無上の幸せなんだよ。いくらでも言ってくれ」
男はそう言って笑った。
◇
その日の夜。
執事が男に声をかけた。
「仔猫リストの見直しの件、いかがしましょうか?」
「まだ必要ない」
「承知しました。恋猫リストのほうは?」
「必要ないよ」
「ですが、坊ちゃん」
「坊ちゃんはやめてくれ。分かっている。でも、恋猫リストは僕にはまだ早過ぎるんだ」
執事は苦い顔をして目を伏せた。
(1122文字)
※シロクマ文芸部に参加させていただきました
お題を見て、昔テレビで小沢健二が恋人のことを「仔猫ちゃん」と言っていたのを思い出して書いてみました。ただそれだけです。何の意味もありません😅
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