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短編小説•掌編小説

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2024年1月の記事一覧

飴玉よりも固い絆 #シロクマ文芸部

飴玉よりも固い絆 #シロクマ文芸部

布団から何か固いものが出てきた。布団を上げようとしていた加奈子は、それを思いっきり踏んづけてしまった。

「いったーい!」

足裏が痛過ぎて、加奈子は尻餅をついた。
固いものの正体は飴玉だった。
個装されていたので飴玉が割れて散らばったりはしなかったが、加奈子はそのことを不幸中の幸いとまでは思えず、イライラを爆発させた。

「祐一郎!ちょっと来なさい!」
加奈子はほとんど犯人と決めつけたような態度

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ワガママを雪化粧 #シロクマ文芸部

ワガママを雪化粧 #シロクマ文芸部

「雪化粧すればいいのよ」

妻は至極当たり前のことのように言った。

「隠したいけど目立たせたいのよね?」

「うーん、ま、そうなんだけど。そんな都合良く雪降るかなぁ」

夫は妻の言うことに懐疑的だった。

「それが明日は大雪らしいのよ。あなたが私の考えている通りに動いてくれたら、きっとうまくいくわ」

「なんか嫌な言い方だけど……本当にやるのか?」

「ええ、やらない選択肢はないわ」

その日の

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本を書く幸せ #シロクマ文芸部

本を書く幸せ #シロクマ文芸部

「本を書くのって結構大変なんですね」
編集者の男がおどけて言った。

「おいおい、今さら何を言っているんだ」
元作家の男が笑う。

「いやあ、先生は毎年四、五作ポンポン書かれていた印象があって。いま自分が書く立場になってみると改めて大変だなぁと。私が書くのはエッセイですけどね」

「君にはポンポン書いているように見えていたかもしれないけど、ポンポンは書いてないんだ、ポンポンは」

「そりゃそうでし

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弟のニセモノ #シロクマ文芸部

弟のニセモノ #シロクマ文芸部

新しい癖を見つけた。
東京の大学に進学した弟の話だ。

正月で実家に帰ってきたのだが、「クックック」と笑うようになっている。「アッハッハ」と感じ良く笑う子だったのに。

コップの持ち方もなんか変だ。
ガシッと掴むのではなく、指先だけで持つようなスタイルに変わっている。

「ちょっとタカシ。アンタ、東京に行って変わっちゃった?」

「何言ってるんだよ、姉ちゃん。俺は何にも変わらないよ」

「ふーん…

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