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ひろがる「日韓」のモヤモヤとわたしたち(感想)
書名 ひろがる「日韓」のモヤモヤとわたしたち
監修 加藤 圭木
編集 朝倉希実加、 李相眞、 牛木未来、沖田まい、熊野功英
出版 大月書店
価格 1,980円(税込)
若者たちは、一体何にモヤモヤしているのか?
たいへん興味をひくタイトル。というか、このタイトルがすでに秀逸。
本書には前作があります。「『日韓』のモヤモヤと大学生のわたし」(2021年・大月書店)。監修者・加藤圭木教授(一橋大学)のゼミ生たちが、みずから感じたモヤモヤを語り合った前作は、日韓の歴史問題をある程度知る世代にも、新鮮な気づきをもたらす著作でした。
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前作出版から3年余りが経ち、「大学生のわたし」たちが、それぞれの進路へと歩み始めたところで、まとめられたのが本書。みずからが抱えたモヤモヤの原因をさらに掘り下げ、深めていく「私たち」の探求の旅に同行しているような気分になります。
あらためて、日韓の「モヤモヤ」とはなにか?
若い世代にとっての韓国は、K-POPやドラマ・映画など、エンターテイメントや食べ物、コスメ・ファッションなどの文化で世界を席巻する国。そして、その文化を大いに楽しみ、「消費」してきました。もちろん、若い世代に限らず、大人世代もですが…。
一方で、韓国と日本の歴史(史実)に少しでも触れた学生たちにとって、そこで当然知ることとなる、日本の加害の歴史・事実を抜きに「韓国文化を楽しむ」ことへのとまどいも生まれます。「単純に、韓国エンタメや文化を消費しているだけでいいのか」という葛藤。これが「モヤモヤ」の正体。
前作はこの思いを出発点に、率直に思いを交流し合うことで、日韓の歴史に正面から向き合う学生たちの姿を、鮮明にしました。
本作でその問題意識は、さらに鋭くなります。目次を見てみましょう。
第1章 ひろがる「日韓」のモヤモヤ
語られはじめた「日韓」のモヤモヤ
『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』と出会ったわたし
コラム 「日韓」の歴史を無視してK-POPを聴くことはできる?
座談会 「日韓」のモヤモヤと向きあう当事者性と想像力(ゲスト:平井美津子さん)
座談会 『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』への現役大学生の声にこたえる
第2章 「日韓」のモヤモヤとわたしたちの社会
「なにが本当のことかわからない」のはどうしてなの?
歴史否定と「有害な男性性」
韓国のなかでは歴史についてどう考えられているの?
学び場紹介 Fight for Justiceって?
座談会 ゼミの後輩たちは『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』をどのように読んだのか
座談会 加害の歴史を教えること,学ぶこと(ゲスト:平井美津子さん)
コラム 取り消された毎日新聞・大貫智子氏の署名記事
座談会 『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』の刊行はわたしたちにとってどんな経験だったのか?
第3章 モヤモヤからわたしたちが出会った朝鮮
在日朝鮮人と日本人のわたし
100年前の東京で起きたこと
コラム 多摩川を歩いて考える朝鮮
コラム 大阪・生野と京都・ウトロを訪ねて
沖縄と日本軍「慰安婦」問題
学び場紹介 ラオンって?
座談会 ソウルで考える朝鮮,日本で学ぶ朝鮮
第4章 終わらないモヤモヤとその先
社会運動に関わるということ
「そんなことより」と言えてしまうこと
学び場紹介 キボタネって?
座談会 日本社会を地道に変えていくこと
前作は、韓国文化に親しんできた若者を含む多くの日本の読者に反響を呼びました。本書は、その反響を踏まえた、編者たちの視点の広がりと深まりを感じます。
彼ら・彼女らは、単に「モヤモヤ」を交流することにとどまらず、日韓の歴史問題の中心課題に分け入り、みずからの問題意識を深めてきていたのです。
各章に読みどころはありますが、ここで私が紹介したいのは二つ。一つは「コラム 取り消された毎日新聞・大貫智子氏の署名記事」。もう一つは、第4章。なかでも「社会運動に関わるということ」の葛藤は、読者である自分にとっても、「大人の責任」について考えさせられた、鋭い論考でした。
「毎日新聞・大貫智子氏の署名記事」については、こちらのリンク先も参照してほしいと思います。https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/92532/73276bdf391f276759604406be5f8d4f?frame_id=694329
私はこの顛末に興味を持ったので、大貫智子氏の著作「愛を描いたひと イ・ジュンソプと山本方子の百年」(小学館)も読んでみました。https://www.google.co.jp/books/edition/%E6%84%9B%E3%82%92%E6%8F%8F%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%B2%E3%81%A8_%E3%82%A4_%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%B3%E3%82%BD/-NQzEAAAQBAJ?hl=ja&gbpv=0
さらにこの著作発行の数年前に発表されたドキュメンタリー映画「ふたつの祖国、ひとつの愛」https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09BBQSF8C/ref=atv_dp_share_cu_rも鑑賞(Amazonプライムビデオで視聴可能 2024/3/20現在)。
私は以前から、日本の大手マスコミ、特に新聞・テレビの社員として、韓国に駐在経験のある人物たちの韓国評、韓国論に、少し怪しい感触を持っていました。もっと言えば、在野で韓国社会論をまとめているジャーナリストらとの「立場の違い」を感じることが、少なからずあったという感じです。韓国政府にしてみれば、隣国の大手マスコミはいわば、接待対象であり、韓国政府の立場をそのまま紹介してほしい、という要求をもつでしょう。そのためには、多少の便宜を図ったり、自国政府にとって都合の悪い情報は隠したりなどのことも考えられます。
大貫氏のスタンスはよく分かりません。ただし著作のなかで、日本と韓国の比較をするなかで、日本=冷静に客観的に考える 韓国=感情的に考えるといったような、たいへん雑な評論をしている部分もあり、気になりました。
また著作全体も、文章量は多いですが、ドキュメンタリーとしての深みはあまり感じませんでした。インタビューの質の問題もあるかと思います。
まとめ
本書の特徴は、イベントでの対談なども含めて、座談会=話し合う場面がたくさん収録されていることです。そこでは、対話によってお互いの主張を理解しあっていくという、「学び」の原点も感じました。特に最後の座談会「日本社会を地道に変えていくこと」から学ぶべきことは、非常に多いと感じます。
歴史を学ぶ喜びと苦しさ。そして他者・隣国で生きる人たちへの想像力が詰まった良書。多くの若者(もちろん若者以外にも)に届いてほしい一冊です。
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