#14 ブランディングとDXが、企業変革の両輪だと思いますよ。
DXとは「デジタル・トランスフォーメーション」のことですが、ここ数年で飛躍的に一般化した言葉ですよね。そのDXについて人々が、これからの企業活動にいかに大事かを意識するきっかけになったのは、2018年9月に経済産業省が発表した『DXレポート』かもしれません。そこには、しっかりしないと「2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性」と書かれていて、それが「2025年の崖」とも表現されています。「壁」ではなく「崖」ってところに経済産業省の危機感が現れていますね。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
ところが2020年12月に発表された『DXレポート2(中間取りまとめ)』では、「95%の企業はDXにまったく取り組んでいないか、取り組み始めた段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革のような段階に至っていない」と書かれています。95%って、無視のされ方がすごいですね。
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html
その次に2021年8月31日(実はこの原稿を書いている数日前)に発表されたのが『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』で、「デジタル変革後の産業の姿やその中での企業の姿を示す」となっているので、興味のある方はご覧になってください。
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005.html
かくしてDXは、言葉だけがじゃんじゃん踊り、関連本もたくさん出ているんですが、「崖から落ちますよー」とまで言われている割には、まったく動いていない状況が続いているわけです。原因についてはいろいろあるでしょうが、思うに「デジタルはもはやインフラになった」という認識が足りてないんだと思います。こないだ読んだ記事では、従業員数1,000名以上の大企業の経営層および役職者1,000名を対象に行なったインターネット調査で「73%が、DXとデジタル化の違いが説明できない」となっていましたからね。消費者のほぼ全員がスマホを持っている中でお客様に提供できることを考えるという、「ビジネスモデル自体を進化させる段階になった」というアップデートができていないんじゃないですかね。
人は一度「分かった」と思ってしまうと、なかなかアップデートできないというか、する必要を感じにくいのかもしれません。「デジタルは効率化のためのツールだ」と以前に理解した人には、DXは「もっとデジタル化しよう」という最初のステップのこととしか受け止められていない気がします。そしてこのアップデートできない問題は、実はブランディングでもよく見受けられます。ブランディングについては、1980年代くらいの認識で終わってる人も多くいるんです。おそらく企業の経営層に聞いてみたらDXと同じように、最近のブランディングの概念をきちんと答えられる人はあまりいないでしょう。
それでも、このアップデートが足りていないDXとブランディングが、これからの企業の進化に欠かせない2大要素でもあると、僕は思うわけです。DXを進めるにはブランディングをするべきだし、ブランディングにはDXが重要な役割を果たすということです。そこらへんを、ここから順を追って説明します。
DXをしっかり推進しないとこれからは難しいというのは、本当かもしれません。でもDXだけでは、行き着く先は一部の人々の欲求を満たすことにデータを使い、ただただ利益を上げて成功とすることになりかねない危うさを感じます。つまりは推進の方向性を「人々のより良い日々のため」に設定していないと、結局は役に立たない。自分たちだけが儲ければいい考えの人たちは、これからの社会には要らないんですよね。そして、「より良い日々のため」に自分たちはどうするかを考え、人々と共有していく作業が、ブランディングです。
もちろんDXの専門家の中にも、このような「より良い日々のため」という意識を持っている人はけっこういらっしゃると思います。例えばとても良い本だと思う『アフターデジタル』(藤井保文 尾原和啓 著)のあとがきのタイトルは「デジタルは人の良さを引き出し、コツコツが認められる社会のために」というもので、その中で海外の先端企業を見てきた結果、見えてきたこととして「彼らは企業だけでなく、また、人の立ち振る舞いだけでなく、国の在り方をも変える思いを持ってやっており」と書かれています。でも、日本の企業でやるとどうだろう。日本人はどうにも理念を実務と結びつけるのが不得意な気がするというところで、僕は危うさを感じてしまうわけなんです。個人的には社会性を大事だと思いながらも、企業としての全体意識となると利益追求に進んじゃう人がたくさんいるように思います。杞憂なら良いんですけどね。
そこで「人々のより良い日々のため」という意識を企業の理念体系としてしっかりまとめたうえで、実際の業務に反映させたり、知ってもらう工夫をしてファンを増やしていくようなブランディングが行われれば、そんな心配もなくなると思ったんです。つまりDXも、自分たちの「あり方」を前もってはっきりさせた上で取り組むことで、これからの社会に相応しくなれるんじゃないかということです。
一方でブランディングですが、自分たちの「あり方」を「知ってもらい、ファンになってもらい、広げてもらう」ための場というのは、DXの進化によって、いろんな想定ができます。新しいビジネスも出てくるでしょうし、そこでお客様にどんな体験をしてもらうか?とか、どんなプロモーションをするか?など、これまでとは違うコミュニケーションが可能になり、「あり方」を感じてもらうチャンスもいろいろ生まれるはずです。そうしてブランディングでも、DXの状況に合わせて最適なカタチを考えていくことが欠かせなくなるでしょう。
消費者の購買行動は今や、「認知→興味→調査→購入→推奨」と進むようになっていて(コトラーの『マーケティング4.0』の「5A理論」を意訳したもので、詳しくはまたの機会に)、これらはデジタル上で行われるようになっていますし、特に「調査」とか「推奨」の段階では商品やサービスの機能面に留まらず、提供している企業の「あり方」が、ブランドの選択にはけっこう影響します。
というわけで、ブランディングとDXは、常に連携しあって進んでいくことが求められます。そして、この2つがうまく出来た企業が、これからの社会に喜ばれる存在になれると僕は思いますけどね。
ちなみに、僕の本の中ではDXという言葉は使っていなくて、パート1第2章の『これからのブランディングには、ICTが大きな役割を果たす。』で書いています。このころはまだDXは今ほど一般的ではなくて、しかもなんか分かりにくい気もして使いませんでした。でも、内容的にはDXのことに言及していますので、ぜひお読みください(写真をクリック!)。
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