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自衛隊、予備自衛官/即応予備自衛官とはなにか。

わたしは20代のときに陸上自衛隊にいて、辞めたあとも“予備自”や“即自”をやっていた時期があった。
 これは、民間人がふだんは自分の仕事や学業を行いながら、定期的に自衛隊の訓練に参加して、災害時や有事の時に備える、という制度である。
 昨年秋ごろ、ロシア軍が部分的動員を行って“予備役”を召集したというニュースが報じられた。この予備役というのが、日本でいうところの予備自衛官に相当するものである。
 テレビで見かける人物でいえば、“自衛隊芸人のやす子”がたしか即応予備自衛官だったと思う。

この予備自衛官は当然ながら、元自衛官が大半をしめるが、なかには民間人からなった人も一部にはいる。一般公募と技能公募があり、採用されたら予備自衛官補からはじまり、3年くらいかけて規定の訓練をすべて終えなければならなかったはず。
 ふだんの自分の本業のかたわら、定期的に訓練に出るのはなかなか大変なことで、かなりの数が中途で脱落してしまう、という話を聞いたことがある。

予備自衛官の訓練は、基本は年間5日間。なかにはそれぞれのもってる特技に応じて、さらに追加で訓練を受ける人もいる。
 訓練内容はだいたい決まっていて、初日にはまず身体検査を行う。そのあとに精神教育というものがある。そこで、近年の国際情勢とその中での自衛隊の任務、役割などについて上級指揮官から講義をうける。
 その後は、体力測定、射撃予習、小火器射撃検定が行われる。残った日にちで、車両検問の訓練や、基地警備の訓練などが行われたりする。

ほかにも即応予備自衛官という制度がある。これは、年間30日間も訓練に出なければならない。自分が所属する部隊も決まっており、自分の装備品を貸与され、ロッカーもあてがわれる。こちらはちょっと本格的で、自衛官に準ずる扱いを受けることになる。
 年間30日といっても、当然一度にすべて参加するわけではなくて、分割して参加することになる。2日〜4日くらいの範囲で、さまざまなタイプの訓練に参加することが求められる。大きく分けると、個別の訓練と部隊での訓練がある。

個別の訓練は、特殊武器防護、救急法、体力とか射撃とかの検定もの、格闘とかだろうか。部隊での訓練は、野外での訓練、演習場まで移動しての野営訓練、中隊検閲がある。
 “特殊武器防護”とは聞き慣れない用語だが、かんたんにいえば、「敵の核・生物・化学兵器からいかに身を守るか」というはなしである。そこでは、フル装備の状態から、「状況、ガスッ!」の掛け声とともにガスマスクを(8秒以内に)装着することが最低でも求められる。さらに、状況によっては防護衣を着用することになる。

わたしが即応予備自衛官をやっていたのは、ちょうどコロナが始まった頃だった。世間は緊急事態宣言やらまん延防止法やらで、訓練のほうも多くが中止になってしまった。
 その中でも参加できた訓練もあり、野外での防御訓練のことをふと思い返してみる。こういう訓練は事前の想定のもとで、一連の状況下で行われる。
 たとえば、「敵の機械化部隊が〇〇方面から侵攻してきており、何月何日にはこの辺りまで進出する見通しである。これに対して我は、戦闘団の左翼として敵の侵攻を遅滞させるべく、何月何日までにこの地域に進出して安全を確保し、何日までに防御陣地を概成させる」という感じだったと思う。
 “機械化部隊”というと聞き慣れないが、要するに戦車とか装甲車とかを中核とした部隊を、小難しい言い方で表現してるだけである。

防御陣地の構成では、掩体とよばれるタコツボを延々と掘ることになるのだが、これはたいへんな重労働である。コロナ禍だからマスク着用で、みんな汗を流し息を切らせて作業していた。そして、ひとたび訓練が終われば、元通りに埋め戻さなければならないのだ。
 それも、それぞれをバラバラに掘るのではダメで、小銃や機関銃、対戦車火器など、それぞれの武器の特性をいかしながら、それらを有機的に連携させて火力を有効に発揮できるようにしなければいけない。ほかにも、鉄条網を設置したり、対戦車地雷を埋設したり、といったこともやる。

こんな訓練やってなんか意味があんのか? と誰もが一度ならず思っていたことだろう。しかし、昨年からのロシアによるウクライナ侵攻の様子をみていて、こうした従来型の戦闘訓練にもそれなりの意義はあったのかな、とも思えてくる。
 ウクライナ戦争では、従来型の戦争にくわえて、ドローンや精密誘導兵器が投入されているし、SNSの活用と偽情報の拡散、サイバー攻撃も行われ、ハイブリッド戦争という言葉もきかれる。軍事目標だけでなく、民間人の住居や電力などの重要インフラが標的にされている。
 当時はこんな戦争が起きるなんて想像もしなかったけれども、わたしは同僚の陸尉にふとこう漏らした。
「もし敵がドローンで攻撃してきたら、自衛隊はどうするつもりなんですかね?」
その人はこう応えた。「それをいったら、自衛隊でやってることぜんぶ無駄になっちゃうよ」

自衛隊にかぎらず、役所というところはそれまでやってきたこと、続けてきたことを延々と固執して続けているようなところがある。しかし、時代は変化しており、装備や訓練のあり方にも革新が求められている。
 近年、自衛隊ではセクハラやパワハラといった不祥事が相次いているが、時代に即応した新しい組織をめざしてもらいたいものである。