「AI×データ時代」とエストニア
今日のおすすめの一冊は、高島宗一郎氏の『福岡市長 高島宗一郎の 日本を最速で変える方法』(日経BP)です。ブログも本書と同名の「日本を最速で変える」として書きました。
本書の中に「個人情報の提供とデータ連携は必要不可欠」という興味深い提言があったのでシェアします。
日本においては、個人情報を国に預け、管理されることに抵抗感を抱く人は少なくないでしょう。中国のように、すべての情報を国家に管理・監視されるのは息苦しくて嫌だと いうのは私も同感です。 一方で、データ連携が全くとれず、国が個人の情報を管理、活用できずに、セーフティ ーネットが機能しないのも、同時に大きな損失です。
今後、日本は少子高齢化がますます進み、2036年には、3人に1人が高齢者になり、社会に大きな影響を与えることが予測されています。労働人口が減少していく中で高齢者が増えれば、行政がサポートしなければならない部分も増えていきます。 税収が減る中で、市民の利便性や市民サービスの質や量を維持するためには、人手が足りなくなった部分をデジタルやロボット、新たなテクノロジーによって補っていく必要があります。
そして、テクノロジーを最大限に活用するために必要となるのが、国民からの個人情報の提供とデータ連携なのです。 個人の情報を常に把握していれば、コロナ禍などで経済状況の急激な変化があった場合、 所得が大幅に低下した家庭への支援も迅速に行えます。また急激に成績が下がった子ども は家庭環境に変化がある可能性も高いのですが、生徒の日常の行動の変化だけでなく、成績などのデータから変化を読み取って、総合的な支援をプッシュ型で行うこともできるよ うになるかもしれません。
マイナンバーに医療情報がひもづけられ、医療機関の間で共有されれば、高齢者の健康状態を重層的にチェックし、適切かつ適度な診療や治療を行うことも可能となるでしょう。 あるいは、AI による自動運転バスと医療情報を連携させれば、病院の予約をしてい る一人暮らしの高齢者のスマホアプリに、通院前日にリマインド通知が届き、併せて自動的にAI運行バスの乗車予約を入れる、といったことも可能となります。
慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授も、著書『データ立国論』(PHP研究所)の中で、「最大多数の最大幸福から、最大“多様”の最大幸福へ」という発想が、これからのデータ社会における重要なポイントであることを著されています。データやテクノロジーを活用し て、行政が、今まさに進めている施策の理念を端的に表現した素晴らしい言葉だと思います。
「我々一人ひとりも情報を管理されることに対し、賛成か反対かという両極端で考えるのではなく、国民の利便に適う部分については、個人がデータ提供およびデータ連携を受け入れ、ICT を最大限に活用していくとか、その活用の条件を、今回の特別定額給付金のような有事などにある程度限定して了承するといったことも考えられるでしょう。
それこそが、来たるべき少子高齢社会においても市民サービスを維持向上するためのカ ギであり、今こそ一人ひとりが、個人情報への考え方をアップデートさせるべきときだと 思います。
海外には、個人情報を上手に活用して行政システムの電子化を進め、行政と国民、双方の利便性を高めている国がいくつかあります。 中でも、特に注目を集めているのが、バルト三国の一つであるエストニアです。 私は、毎年エストニアのスタートアップ企業が集う「Latitude59」というイベ ントに参加しているのですが、2019年5月のイベントにはエストニアの大統領であるケルスティ・カリユライド氏もパネリストとして登壇されており、国として新しいテク ノロジーの活用を推進していくという強い意志を感じました。
エストニアでは、すでに行政手続きの99%、税関連書類の95%が電子化され、24時間 365日、いつでも行政サービスを受けることができます。 そして、それを実現可能にしているのが、2002年から国民一人ひとりに交付されているデジタル IDです。
たとえば、エストニアでは、選挙の際、そのIDを使って、インターネットを通じた投票を行うことができます。それにより、誰でも選挙権の行使が容易になったと同時に、選挙にかかるコストも削減されたそうです。
また、引越しの際にも、オンラインで住所を変更するだけで、ガス会社や電気会社を含 め、主な公的機関に登録している住所を一括で変更でき、またカルテ情報や処方箋も電子化され、各医療機関で共有されているため、医師はオンラインで、患者の情報を確認する ことができます。 子どもが生まれれば、病院がシステムを通じて出生登録を行い、1分後には政府から新生児のIDとお祝いメッセージが届き、自動的に国の育児支援に関する手続きが終わります。
国民データの管理については、データの改ざんが事実上不可能とされるブロックチェー ン技術を、なんと10年ほど前から取り入れており、国家に個人情報を預ける国民に安心感を与えています。 なお、エストニアが電子政府へと舵を切ったのは、1991年に旧ソビエト連邦から 独立した直後でした。
当時、エストニアには資源もお金もなく、経済的に苦境に立たされていました。面積は九州全土とほぼ同じ大きさで、福岡市の100 倍以上あるのですが、その半分近くは森林に覆われ、無人島を含め、2000 以上もの島々があります。 そうした環境下で広く行政サービスを行き渡らせるには、IT 技術を最大限に活用するしかなかったわけです。
ちなみに、エストニアの電子化推進の基盤となった X-Road という技術は、軍事研究施設から民間企業になった会社が手掛けているそうです。 一方で、エストニアにおいても、政府が行政サービスの電子化に乗り出した当初は、多くの国民が否定的な反応を見せたそうです。
それでも政府は、粘り強い説明を続け、現在では、「自分のデータが国によって管理され、国の都合で悪用されるのではないか」という不安よりも、「自分で自分のデータをしっかり管理できており、さまざまな行政サービスにスマートにアクセスできる」というメリットを感じている国民が多いそうです。
また、【来たるべきデータ時代・感染症時代と相性が良いのは一党独裁か?】という衝撃的な一節もありました。
2018年1月に、スイスのダボスで行われた世界経済フォーラムの総会に出席した 際、イスラエルの歴史学者であり、ベストセラー『サピエンス全史文明の構造と人類の 幸福』(河出書房新社)の著者でもあるユヴァル・ノア・ハラリ氏のスピーチを聞いたのですが、そこでハラリ氏が「来たるべきAI×データ時代と相性がいいのは、独裁主義である」と語っていたのが非常に印象的でした。 もちろん彼は独裁主義が支配するような世界に否定的でしたし、私も同じです。
中国の台頭を見るまでもなく(昨今は少し風向きが変わってきていますが)、AI×データ時代と相性がいいのは間違いない事実です。しかし、民主国家においてもこれができない訳がありません。その代表例がエストニアです。エストニアの人口が130万人ということを考えるなら、日本においては、地方から始めるというも一つの選択だと思います。
今一度、「AI×データ時代」における考え方を変えていく必要があると思います。
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