リスクをとろう
今日のおすすめの一冊は、マックス・ギュンター氏の『運とつきあう』(日経BP)です。その中から「運やチャンスを手に入れるには」という題でブログを書きました。
本書の中に「リスクをとろう」という興味深い文章がありました。
私たちの社会では「リスクをとってはいけない」と教えられる。米国でも欧州でもそうだ。どういうわけか、かつて自らが大きなリスクを冒した人ほどこの教訓を深く崇(あが)めている。こうした不思議な現象が勤労倫理の考え方をいっそう強め、「勤勉なサラリーマン」の 増加に拍車をかけているのだ。
つまり、こういうことである。男でも女でも…最近まではたいてい男だった…若い頃に大胆な冒険に身を投じて運よく成功し、富と名声を手に入れる場合がある。彼らに憧れる後輩たちは「どんな生き方をすれば成功できますか?」と訊ねる。ここで、「運が良ければ成功できるさ」という(本当の)答えが返ってくることはまずない。
代わりの答えは、たぶんこんなところだろう。「熱心に勉強して真面目に努力するんだ。辛抱強く生きて、決してくじけちゃいけない」。つまりは勤労倫理そのままである。自分が成功したのは人一倍努力したからだと信じてもらいたいのだ。 さらに不思議なのは、そんな話を真に受ける人が多いという事実で、おそらくこのことが「リスクをとってはいけない」という教訓を正当化しているのだ。
リスクのない人生は安全で快適である、だから、リスクをとるのは馬鹿げているというわけだ。 ジョン・D・ロックフェラー(シニア)は、こうした不思議な現象を体現しているような人物だ。ロックフェラーが築き上げた莫大な財産は、石油事業で伸るか反るかの大勝負に打って 出た結果である。
ロックフェラーは学校を出ると、クリーブランドにある商品取引の会社の事務員になった。といっても日雇いのようなもので、給料だけでは食べていくのがやっとという状態だった。何もせずに真面目に働き続けても貧乏暮しから逃れられないと悟った彼は、下層階級(あるいは 貧しい中層階級)から這い上がるにはリスクをとらなければいけないと考えるようになった。そして、その考えを行動に移した。
ささやかな貯蓄に借入金を足して、次から次へと商品相場や儲け話につぎ込んでいった。数々の不運に見舞われもしたが、ときには幸運がめぐってきた。 なかでも飛び切りの幸運は、石油精製事業の専門家であるサミュエル・アンドリュースとの出会いだった(これもロックフェラーが「人の流れ」に飛び込んだ結果だ)。
その頃には、それなりの経験を積んだいっぱしの投機家になっていたロックフェラーは、アンドリュースの新規事業に大いなる魅力を感じた。すぐさま二人はクリーブランドに精製所を立ち上げるが、手堅 い仕事をしている人間たちの視線は冷ややかで、「そんな馬鹿げた事業が成功するはずがない」と幾度となくからかわれた。
ところが、やがてこの精製所がスタンダード・オイル社のドル箱になるのである。 ロックフェラーは第一級のリスクテイカーだった。勤勉な努力を早々と放棄し、わが身をリスクにさらし、運を呼び込み、人生を変えたのだ。
ところがである。百万長者の仲間入りをし、世渡りの達人としてその名が知られるようにな ると、ロックフェラーは自分が運よく成功を手に入れたことなど忘れてしまったかのようだっ た。彼の口から出る言葉は「リスクをとれ」ではなく「真面目に働け」に変わった。
大きく成功した人の成功談や自伝を読むと、リスクをとって一か八かの勝負に挑んだ、という話より、大方は、「勤勉に努力をした」「コツコツと継続した」「勉強が大事」という話になります。起業したばかりの頃には、リスクテイカーだったのに、です。
だから、成功者の話は初期の頃、起業したての頃のことを聞かなければいけない、と言われます。功成り名を遂げると、言うことが変わってしまうということです。まだ、若くて、勢いのいいとき、リスクを何も恐れず、どこへでも飛び込んでいく、というチャレンジャーだった人も、成功した後の晩年とは考え方も変わってくるのは当たり前といえば当たり前のことです。どうしても、守りに入りますから…
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