宮本武蔵の独行道
今日のおすすめの一冊は、森信三氏の『真理は現実のただ中にあり』(致知出版社)です。その中から「生かされている」という題でブログを書きました。
本書の中に、森信三先生が好きな日本人三人の中の一人としてあげている「宮本武蔵」の《独行道》という一節がありました。
宮本武蔵が超凡な英傑だったということは、絵を描いても今日国宝級であり、また 鍔や木剣等何をしても、時流を超出した名品のみだという面からもいえるのではないかと 思うのであります。
武蔵は、六十二歳で肥後の熊本で亡くなっていますが、それはそれに先立つ五年前の五十七歳の年に、肥後の細川藩主から招されてその客分となり、悠々自適の生活を送ることになったからであります。 客分というのは現実の組織の中には入らないわけですが、そのためにかえって自由に藩主に招かれて、一種の政治顧問のようなことをしていたらしいのであります。
つまり一方 では藩士の有志に剣道を教えながら、そのかたわら、時々は政治の最高顧問として藩主の 相談にあずかっていたというわけであります。ですから武蔵のような人物の晩年としては、 まったくうってつけの役目と思うのでありまして、「天」はやはり心憎い石を 打ったもの と思わずにはいられません。
なお『独行道』というものは先ほども申しましたように、一番手っとり早く武蔵という 人物を知る手がかりといってよいものですから、ついでにご紹介いたしましょう。
【独行道】
一、物事に数奇好みなし /一、世々の道に背くことなし/一、居宅に望みなし /一、よろづに依悟の心なし/一 、身一つに美食を好まず/ 一、身楽をたくまず/ 一 、末々什物となる旧き道具を所持せず/ 一、一生の間欲心なし/
一 、わが身にとり物を忌むことなし/一、我事に於て後悔せず/ 一 、兵具は格別、途の道具をたしなまず/ 一、善悪につき他を妬まず/ 一、道にあたって死を厭まず/ 一、何れの道にも別れを悲しまず/
一、老後財宝所領に心なし/ 一、自他ともに恨みかこつ心なし/ 一、神仏を尊み神仏を頼まず/一、恋慕の思ひなし/一、心常に兵法の道を離れず (以上十九ヶ条)
◆井沢元彦氏の現代語訳より
【独行道】
世の中のさまざまな道に背いてはならない。/どんなことにもそれをたのみにする心を抱いてはならない。/わが身の楽しみを追い求めてはならない。/自分中心の心を捨て、むしろ世の中のことを深く考えるように。/
一生の間、欲深いことを考えてはならない。/一度したことについては後悔をしてはならない。/他人の善悪について嫉妬してはならない。/いかなる道についても(おそらく人生、つまり愛する人との別れ、あるいは肉親の死なども含めて)、別れを悲しんではならない。/
自分のことについても他人のことについても、不平を言ったり嘆いたりしない。/物事に好き嫌いを持ってはならない。/自宅を豪華にしようという心を持ってはならない。/常に身一つ簡素にして、美食を好んではならない。/
代々伝えていくような骨董品を持ってはならない。/体にこたえるような飲食、つまり暴飲暴食や無謀な行動をしてはなはらい。/武具については特別な物を好んではならない。/自分の道を貫くためには、場合によっては死に向かうこともあるが、それを避けてはならない。/
財産を貯えたり宝を持ったりしてはならない。/仏や神は貴いけれども、これを頼りにしてはならない。/自分の命が危険にさらされても、名誉心を失ってはならない。/恋愛には感心を抱くな。/常に兵法の道から離れてはならない。
「千日の 稽古を鍛とし、萬日の稽古を錬とす」(宮本武蔵)という言葉がありますが、己を厳しく律し、鍛え、練り上げていくという武蔵の生きざまそのものが、この十九ヵ条に書かれています。
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