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のるか、そるか

「どこか、旅行に行きたいな」
彼女は唐突な提案を投げかけた。
「いいよ。どこに行きたい?」
「有馬温泉がいいな。ここだと日帰りで行けるから」
「そうだな」大阪からだと日帰りで充分堪能出来るだろう。温泉街はそんなに広くないし、温泉に入って、少しあたりをぶらぶらする程度なら充分だ。日帰りならなおいい。もう彼女とこれ以上深い関係を築いていくのはどうかと考えていたところだった。
(別れ話をするのにちょうど良いかもしれない)
「何か言った?」
「ううん。何も」心の呟きが聞こえるわけがない。だが、彼女の意味深な笑顔が気味悪かった。

帰り際、彼女に湯泉神社というひっそりとした場所に連れていかれた。ここは子宝神社で有名なそうだ。
「わたしね、出来たの。あなたとの間に新しい生命が…」
「新しい生命…って赤ちゃん?」
「そう」意味深な笑顔で俺を釘づけた。

命の萌芽は愛おしい。このままのるか、そるか。さあ、どうする。

         

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