ARTRIP(アートリップ)記憶を呼び起す時空の旅
「アートリップ」って何だろう。タイトルを見て気になった方は多いのではないでしょうか。
アートリップとは、複数人でアートを鑑賞し、進行役のアートコンダクターの質問に答えながら参加者が感じたこと、思ったことを自由に発言していく「対話型アートプログラム」です。
対象者は認知症の方とその家族、一般シニアの方がメインで、7万人の方がこれまでにこのアート体験をしています。プログラムに参加することで自尊心が高まり、人生の質を向上させることが最大の目的です。
プログラムは美術館や施設などで行われます。家や特定の場所など、決まった場所しかあまり訪れないようなシニアたちにとっては特に、普段の生活から離れることで、しがらみや規則から解放され、気持ちをリフレッシュすることができるというメリットがあります。そして、そうした非日常な場所で絵画などのアートに触れることで刺激を受け、さまざまな発想や過去の記憶が引き出され時空の旅を体験することができるのです。
アートリップを主催する一般社団法人アーツアライブ代表の林容子氏が、このプログラムに出会ったのは2011年のニューヨーク近代美術館(通称MoMA)。当時、林氏は高齢者にアートが与える影響について事例研究をしており、恩師の紹介でMoMAで行われていた、あるプログラムを視察することになりました。認知症の方とその家族、介護士を対象に実施された「meet me at MoMA」という名のプログラム。それこそが、後のアートリップの元になったプログラムです。
林氏は「meet me at MoMA」を視察したときのことについて、アートリップWebページ内でこう語っています。
”そのプログラムを視察したときの衝撃は今でも忘れることができません。閉館日の静まり返ったギャラリーで進行役の匠な質問に促されるように、椅子に座った認知症高齢者の方々がときに笑顔を見せて、活き活きと感受性豊かに絵を見て感じたこと、想像したことを自由にコメントしていました。ー中略ー単に絵を見て何が描かれているか、漠然とどう思うかという質問だけでなく、絵に関連して過去の記憶を呼び戻したり、また、絵からそこに描かれていないものや物語を想像させたりする手法はとても新鮮でした。ー中略ーコメントする彼らの反応を見て、私の中の認知症の概念は完全に覆りました。正直、彼らが認知症とは信じられませんでした。どうして絵の前では、彼らはこんなに記憶を呼びおこし、素直に自分の気持ちをスラスラと答えることができるのか。これがアートの力なのか・・!!ー中略ー「これはなんて素敵なプログラム。」日本の認知症高齢者や家族にもこのプログラムを届けられたら」と強く思いました。” 引用元:ArtsAlive ARTRIPのはじまり
帰国後、林氏は任意団体としてアートリップの活動を開始。現在は一般社団法人アーツアライブを設立し、全国の美術館や施設、病院でもアートリップを開催しています。また、コロナ禍でも試行錯誤しオンラインアートリップをZOOMで開催。多くの方が時空の旅を自宅で体験できるようになりました。
【実際の効果】
実際に、日本の医療機関で検証が行われました。国立長寿医療研究センターによる認知症予防、鬱軽減効果の検証(平成25年度経産省補助事業)によれば、以下のような変化がみられたとのことです。
・好奇心、物事に対する姿勢が積極的になった。
・立候補して自治会の役員になった。
・外出が増えた。人との会話が増えた。
・参加者同士で友人となり得意でない人とも笑顔で話すようになった。
・毎朝の散歩の景色が変わって見えるようになった。
対象が認知症の方と聞いて、自分には関係がないと思った人もいるかもしれません。しかし、少子高齢化が進み65歳以上の人口が28.4%となったを超えてた今日(※1)。認知症を単に病気と捉えるのではなく、「多様性」の1つとして受け入れ、みんなで一緒に支え、楽しんで暮らしていける「誰一人取り残されない」社会を考える必要があるのではないかと筆者は思います。
まずは知ることから。その一歩として、新しい旅の形『アートリップ』を紹介させていただきました。ぜひ、家族や友達に “こんなのがあるんだって” と共有してみてくださいね。
【参照ページ】一般社団法人 アーツアライブ
※1 高齢化の状況 | 内閣府