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アサギマダラ

死者たちが帰って来たのがわかった
外へでると風はわずかに冷気をふくみ
向かいの山で鴉が鳴き交わす声
迎え火も焚かなかったのに
空は青みを帯びた灰色の雲
雨が降り出だすかもしれない

死者たちの好みはしらない
吐息のようなかすかな音に
勝手にレトルトのカレーを温めてだす
静かに皿の食べ物が減っていき
腹が満ちたところで
山へアサギマダラを見に行くことにした
麓はそれなりに天気だったが
ロープウェイ入口で見上げると
山頂は雲のなかで
とても蝶が翔びそうもなかった

山へいくか迷っていると
どこかの親切な社長が使うかと
四人分のチケットをくれた
僕たちは二人連れだったが
社長は四人に向かって話していた

ゴンドラで山頂に着くと
ガスで20m先が見えない
ヨツバヒヨドリの咲くところ
風は強く弱くきびしく
アサギマダラは
1頭も翔ばなかった
ガスに沈む木々だけ
帰りのロープウェイでチケットは回収され
四人いた証拠はそこで途切れた