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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか149】11月(12)腱鞘炎⑥
整形外科医のアンドレ先生にレントゲンとエコーを取るように指示された。さて、どこで…?と思ったら、娘が妊娠中に産婦人科医の指示でエコーを取っていた施設が歩いて行けるところにあるという。わかった、そこを予約しよう。
娘に施設のデータを送ってもらう。ホームページを開いて、アカウントを作るところから始める。電話で予約するとなると、言葉の問題がある。それよりも、ネット上で予約できる方がずっと楽だ。この「楽さ」に何かしらの副反応が潜んでいるような気もするけど。
ただ、初手からつまずいた。普段使っているブラウザ、Google Chromeさんでアカウントを作ろうとしても上手くいかない。生年月日を入力する場所が上手く動かない。娘に見せたら「あー、バグがあるんだねー。Chromeじゃなくて他のブラウザで一度試してみて。それで上手くいくことは良くあるから」とのことで、Microsoft Edgeさんに切り替える。あら、スムーズにいった。こういうところでも、一つ一つが経験になるなあ。そして、子どもから教えられることが増えていくなあ。
まずはレントゲンの予約、翌週木曜日の朝イチで取れた。エコーの方は、12月の初めしか空いていない。いっぺんには終わらないのか。しょうがないな。
水曜の夜、娘が「明日は8時20分には出ないといけないよね、哺乳瓶の用意もしていった方が良いから、朝忙しいな」と宣う。いやいや、母は今回、一人で行くつもりだよ。「え、大丈夫?」大丈夫(だと思う)。娘が妊娠中に別のラボで血液検査を受けたときについていったことがある。9月には私自身も血液検査を受けた。そのときは婿についてきてもらったけど、要するに、検査を提供する施設って、あんな感じでしょ? 何とかなるんちゃうかな。取って食われることもあるまいよ。
娘が出掛けるとなると、もれなくべべさんも連れて行くことになる。健康じゃない人が集まるところには、できるだけ連れて行きたくない。べべさんを連れて行くとなると、支度だって大人だけの外出とはわけが違う。娘は在宅とはいえフルタイム勤務で忙しそうだから、負担は増やしたくない。ここは母のチャレンジ精神を見せるところでしょう。
レントゲンを受ける施設は歩いて20分ぐらい。その前は何度も通っているけど、そんなところに検査施設があるとは知らなかった、住宅が建ち並ぶ中の一軒だ。
朝の8時20分、やっと明るくなった街を歩く。45分の予約で40分には到着した。待合室には既に5、6人の人がいる。受付には二人の中年女性がいて、手前の人は患者さんの対応中だ。奥の人が「まだーむ、こちらへ」と呼んでくれた。
が、この人は一切英語を話さない人だった。「保険証出して」「社会保障には入っていないんです」「さっさとカード出して」「え、クレジットカード?これ?」「ちがーう!」みたいな頓珍漢な会話があり、大きくため息をつかれる。とにかく受け付けてもらえたようで、「ほら、そこで座ってて」と言われる。
ありがたいことにレントゲン技師さんは英語ができる人だった。「もっかい待合室で待っててね、結果を渡すから。どうしたの?転んだの?」「いえ、孫の抱っこで…」「おお、そりゃ大変だ」。大変なんすよ、フランス語できないと。
待合室に戻り、再び受付の人に名前を呼ばれる。レントゲン写真が3枚添付されたレポートを渡され、カードで支払い。帰ろうとしたら「ちょっと待って、まだ終わってない!」…何かと思ったら領収書をもらっていなかったのでした。そりゃ、もらわないと困るわ。めるしーぼくー。レントゲン代、27.89ユーロ、4500円ぐらい。
言葉ができなかったり、要領が分からなかったり、海外で生活すると無力感を味わうことも多い。私はそれが嫌いじゃない。七転八倒しながら1つずつ乗り越える、達成することが嫌いじゃないのと、無力感自体が自分の鎧を溶かすようで、所詮何者でもない自分という感覚が、自由でいい。職業柄、きちんとしていないと、という意識が、ずっとどこかにあったのだと思う。日本であれば、受付のおばちゃん(私よりは年下だろう)のため息に腹が立ったり傷ついたりしただろうが、ここではそれがない。達成することのハードルが低くて、プライドも何もないから、レントゲンがちゃんと撮れただけで満足だ。
ま、来月のエコーではもうちょいスマートにやってやるがな。見てろよ(誰に言ってるんだ)。