【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか125】10月(16)日本語を教える⑥
めちゃ緊張して、初回のレッスンを迎えた。7時半開始なのに、7時過ぎにはパソコンの前にスタンバってしまった。スライドをチェックしながらどきどきの時間を過ごす。
7時29分、画面にAさんが現れた。あ、女性だったんですね。髪の短い、穏やかで人懐っこい感じの人だ。
「あ、こんにちはー、よろしくお願いしますー」から始める。8時ぐらいまで自己紹介して、それから一つ、今日のために準備した教材があるので、それをやりましょう、今日のところは教科書には入りません、という話をする。
今日のメインは自己紹介にしましょう、というのは、事前に合意済みだったのに、私は相手から聞きたいことばかり考えて、自分のことをどう話すか、何も考えていなかった、ということに、話し始めてから気づく。こういうときこそ、今までの経験に裏打ちされた、はったりの出動だ。
ずっと教員やって来ました。何の科目に見えます? 日本語教えてるけど、国語でも英語でもなく、社会科なんですよ。世界史と政治・経済が専門なの。スイスの学校は1クラスが何人ぐらいですか? 日本は、高校で1クラスに40人もいるんですよ。集団に教えることを仕事にしてきたので、個人のための授業の準備をすることが楽しかったです、などなど。平気な顔してスムーズにしゃべれるけど、内心テンパってるから、いつも以上に早口だ。いかんいかん。
Aさんはデザインを学ぶ学生である、というのは、Iさんから引き継ぎで聞いていた。建築系かな、産業系かなと思っていたら、服飾デザインだそうだ。それも、映画や演劇の衣装のデザインを専門にしたいらしい。最高学年なので、卒業に向けて作品を制作しないといけなくて、毎日課題に追われているとのこと。にこにこしながら話してくれる、とても感じの良いお嬢さんだ。
そうか、それだったら、日本の伝統的な模様、青海波とか、興味を持ってもらえるかもしれない。能や歌舞伎の衣装とかも面白いかな。話を聞きながら、頭の中でアイディアが浮かんでくる。題材から言葉の勉強にどうつなげるか、多分、スライドを作っていく中で考えていくことになる。
それじゃ、ニュースから作った教材があるので、それをやってみましょうか。ちょっと待ってね、スライドを共有して、ここのリンクをクリックして、ニュースの音声、聞こえますか? あ、大丈夫? 良かった良かった。じゃあ、まず聞いてみましょう。分からないところは質問して。次に音読…と進めていく。ポケモン、デジカメ、セクハラ、就活…ほら全部縮めた言葉なの。マタハラとかアカハラとか、あり得ないよね。こんなこと教えたら、日本を嫌いになっちゃうかな。フランスではお店の出入りのときにお客さんがお店の人に挨拶するけど、スイスではどうですか?
予定の時間をちょっとオーバーしたところで、何とか辻褄を合わせて終了。今日はありがとうございました。この後、スライドをGoogleドライブで共有しますね。もし余裕があったら、最後のスライドのライティング課題に取り組んで。でも、無理しないでね、大学の課題の方が優先だよ、と話す。来週は、日本の伝統模様についてやろうと思うけど、どうかな? もしリクエストがあれば、何でも言ってね。それじゃ、また来週、よろしくお願いします。
Googleミートを切って、忘れないうちに教材をシェアする。ふー、今日のところはこれで完了。あー、疲れた。でも、これは消耗した疲れじゃなくて、力を出し切った疲れだ。さあ、遅くなったけど、シャワー浴びよう。