新しい運動のルール
毎日気分よく暮らすためのルールを、エビデンスの国・スウェーデンで紹介されている最新科学や統計などを拠り所として確認していく連載です。
でもその科学的な裏付けから浮かびあがるのは、たぶんちょっと不便で、のんびりゆったりしたサイエンスな暮らし。デジタル生活、食生活に続いて、今日は体の動かし方について。そしてやっぱり今回もルールはシンプル。
ただ「走る」だけです!
やたら走っている人が多い!
やたら走っている人が多い! これが20年ほど前に私がスウェーデンに引っ越して来た時に受けた印象です。
(画像・Sara Ingman/imageban.sweden.se)
引っ越してきた私が運良く職を得たスウェーデンでの最初の職場はIT関連のスタートアップ企業で、数学や物理の博士号をとったばかりの若者たちが働いていました。そして彼らがほぼ全員例外なく走っていた。球技は好きだけど、ただ走るのは嫌いな私は居心地の悪さを感じたものです。
スウェーデン人たちの「走り好き」ははっきり数字にも表れています。2016年にスウェーデン・スポーツ協会が実施したアンケートによると、15歳から70歳の調査対象者の実に40%がトレーニングの一環として走っており、対象者を35歳以下に限ると約半数以上の人が走っていました。走る人の68%は最低でも週に一回は走っています。
そして、走る理由として一番にあげられているのが「気分がよくなる」ため。体力増進や維持だけでなく、気分よく暮らすために走ることは欠かせないと考える人が大半を占めていました。
日本と比べると?
今年スポーツ庁が発表した「スポーツの実施状況に関する世論調査」では、週に一日以上スポーツを実施している日本人成人の割合は55.1%。ランニング(ジョギング)・マラソン・駅伝を直近の一年以内に実施した人の割合が14%ということなので、日本人と比べてもスウェーデン人はよく走るなというのはやはり私の実感だけではなさそうです。
スウェーデン人たちはなぜこんなによく走るのか?
それにしてもなぜこの国の人たちはこんなによく走るのか?
その答えのヒントは、2016年に出版されてから現在までに全世界で65万部のベストセラーになった一冊の本によくまとめられています。全部数のうち50万部以上はスウェーデンで売れ、現在もペーパーブック版は常に売上トップリストに入っています。そしてこの本は日本でも『一流の頭脳』というタイトルで出版されています。
日本語版の表紙は男の子が勉強している写真でガリ勉スタイル? 書店でみる本の帯にもどこにも「運動」の”う”の字もでてきません。一方オリジナルのスウェーデン語版の表紙は脳と運動のモチーフがあしらわれており、イラストもサブタイトルも「運動で脳を鍛えることができる」ことを全面に打ち出したものになっています。
脳の働きや精神的安定を劇的によくする「走ること」
脳の働きや精神的安定と運動との関連性は初めはピンとこないかもしませんが、頭を使う人こそ運動すべきで、そして運動の中でも一番いいのが「走ること」です。その理由も「走ると気分がよくなるから」といった漠然としたものではなく、脳内物質の作用の仕方の説明を含め「走るのがよい」ことを科学的に解説したのがこの本です。
ここでちょっと、走ることを忌み嫌っていた私がこの本に影響を受けた経緯を紹介します。
”あんなに忌み嫌っていた「走ること」。そんな私を走る気にさせたのは「健康」ではなかった。いや、うまくいけば健康にもいいかも? とはもちろん思っていたけれども私にランニング用の靴を買いに行かせた動機はまったく違うところからやってきた。
それは一冊の脳科学の本。
スマホとストレスとの関係を脳科学の見地から説いた書籍を読んだことに始まり、その領域に関する知識を深める中で私は『一流の頭脳』という本に出会った。この本に書かれていたのは脳のパフォーマンスをあらゆる方向から押し上げる「運動、特にランニングなどの心拍数をあげる運動」の持つ力だ。
心拍数があがる運動をすると脳への血流が増える。脳の「思考」を司る前頭葉に大量の血液が流れ、機能を促進する。さらに運動を定期的に続けると前頭葉には新しい血管が作られ、送り込まれる血液や酸素の供給量が増え、老廃物の除去がスムーズに行われる。記憶や感情に重要な役割を果たす海馬でも、運動により血流が上がることでストレスや不安を鎮める力が強化され記憶力がよくなる。そのようなことが数々の研究で既にはっきり証明されていることがこの本には書かれていた。
走ることは、「ストレスや不安への耐性」を強化したり「創造力」を高める以外にも、「集中力」「モチベーション」「記憶力や学力」「健康長寿」などにポジティブな効果をもたらす。運動と脳内物質の関係、そして運動が脳のアップグレードにどう作用するかなど既に科学的に実証されている数々の効果は、やる気さえあえば誰もが自分で確認することができる。”
で、走ってみたら走れたよ! 誰でもできる「走る」こと
ということで、私は今年の5月に初めてランニングシューズを買い、5月19日に初めて走ってみました。そしてそれからは週に2,3回、一回につき3kmちょっとを20分くらいで走っています。
(走り始めた話は上の引用部分も含め下記リンクにまとめてあるのでご興味をもっていただければぜひ。走るのが嫌いだった人が走り始める話です)
先日、私は初めて氷点下の中を走りましたが、そんな環境の中でも私はただ普通に走っているだけですが、スウェーデンでは他にもベビーカーを押しながら走っている人がいたり、ごみを拾いながら(プロッギング)走っている人がいたりするので、寒い中走っている程度では自分を褒めたりすることもできず😅、淡々と走って帰ってきました。
(上のビデオはアメリカのメーカーのランニング用ベビーカーですが、こんな感じで走ります)(下の記事は走りながらゴミ拾いする人たちの話です)
(画像・Melker.Dahlstrand/imagebank.sweden.se)
走らない人から走る人へ
今では寒くてもなんでもちょっと走った方が気持ちいいので、おそらく私はこれからも走ることを続けるだろうと思います。
人間には「走る人」と「走らない人」がいて、私は一生走らないと思っていただけに自分でも変わりように驚いていますが、これが私の新しい運動のルールです。今回も簡単でよかった!