チェスを始めたきっかけ

それは一昨年の夏。とあるボードゲームのイベントに参加したときのこと。
空き時間に初老の男性に話しかけられる。
「君、将棋できるの?僕はチェスやってるんだ」と。
「では、チェス教えてください」と私は返した。
ほどなく、チェスと将棋の二面指しが始まった。

チェスは先手である白をもらったので、将棋は先手を譲り後手となった。チェスはルールは知っていたが、人と指したのは片手で数えるくらい。それもお互い初心者同士のお遊びだ。ルール以外の知識は全くなかったが、クイーンとビショップの利きが両方通るとの理由で1.e4と指した。間髪入れずに黒は1...c5と指してきた。チェスの序盤で最も人気なシシリアン・ディフェンスである。しかし、私は独り勝手に意表を突かれていた。

「なぜ1...e5でないのか。1...e5の方がクイーンとビショップの利きが両方通るのに。1...c5ではクイーンの利きしか通らずもったいないのでは。それとも初心者だと思い舐められてるのか。」
そんな思いが頭を渦巻いたが、私はとりあえずキャスリングの準備をしようと思い、2.Nf3と指しゲームは進んでいった。

中盤、相手に悪手が出て、クイーンが取れる形になり、ほどなく黒の投了となった。特別うれしいとかいう感情はなく、「勝っちゃった」というのが正直な感想だ。若干の気まずい空気が流れたため、残った将棋はノータイムで指してきっちり寄せ切ることにしたのを覚えている。
後でわかったのだが、相手は国内レーティング1800でチェス講師もされているとのことだった。局後に検討を行い、私はあの疑問について尋ねてみた。

「1...c5は定跡ですか?1...e5じゃないんですか?」と。
「1...c5は定跡。シシリアン」と相手は答えた。
決して舐めていたのではなく得意戦法とのことだった。
実戦の進行に関しても軽く検討したが、それよりもシシリアンについていくつかバリエーションを紹介してもらった。

何もかもが真新しく感じられた。何も勉強しないで勝てたんだから勉強したらどれくらい強くなれるのか興味が湧いた。

「チェス、少し勉強してみます」と言ってその日は別れた。
ただ、そのとき今のように毎日どっぷりチェスに浸かるとはとても想像することはできなかった。

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Hiromasa Saito
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