文学の森殺人事件 第十二話
① 大島徹(派遣社員)
今まで出会ってきたなかで一番善良な人物で、人当たりも良く信頼も厚い。容疑者と考えられる所はほとんどなく、アリバイもある。仮に彼が犯人なら『文学の森』にいる全員が怪しく見えるほどだ。けれども、大島は犯人と接点があるのかもしれない。彼は珍しく怒声を上げたのも関わらず、怒声を浴びせられた長田春彦は彼を善人だと称した。それはなぜだろうか? 普段は派遣社員をしていて、生計を立てているが、過去に二階堂ゆみとの接点もあった。彼は小説を書いているが、なかなか芽が出ない。
② 長田春彦(アルバイト)
激情型で二階堂ゆみに対して個人的な恨みを持っている。明らかに怪しい。また周囲とのトラブルも絶えず、一部を除くほぼ全員から恨みを買っているのは事実だ。彼は小説を書いているが、周りの評価は散々だ。特に三木を嫌っている。とはいえ、彼には強固なアリバイがあり、一概に犯人だと決めつけるのは間違いなのかもしれない。事件にかかわりのある人物で間違いないと推理している。二階堂ゆみの盗作に腹を立てていて、そのことで殺害したという考え方もできる。人の意見に左右されない度胸があり、堂々と発言をするのは嫌われたとしても、自分を貫き通すという信念すら感じられる。彼は普段はコンビニでアルバイトをしているのだが、勤務態度は至って真面目らしい。
③ 倉田修二(ライター)
温厚な性格で人当たりも良いが、トイレに籠もる癖があり、それが何を示すのかいまいちよく分からない。長田とは旧知の仲だが、性格は真逆で彼の暴言・暴走を食い止めてきた。怪しい所があるとすれば、芯がなくて、どこか頼りなく、二階堂ゆみの熱狂的なファンで彼女のような作家を目指していたのに、亡くなってから追悼の意を述べただけで、さほど動揺した様子が見られなかったことことだろう。しかし、彼にも強固なアリバイがあり、アリバイは正当なものだと思われる。とはいえ、長田と親友というネックもあり、常識的な一面は世の犯人像と一致する。普段はライターをしていて、読みやすい文章を心掛けているようだが、本当はプロの作家になりたいと思っている。立壁由紀に一方的に好意を寄せられているが、それは事件との接点となるのだろうか?
④ 赤羽雄一(文学の森代表・経営者)
正直言って一番掴み所のない人物だろう。大島とは旧知の仲で、ある程度の社会的地位もある。怪しいと思われるのは彼が『文学の森』の主催者であることだろう。そもそも、ここに集められた基準が分からないし、主催者が殺人を犯すというのも珍しいものではない。それに二階堂ゆみが亡くなって、尋問をし始めると、急に怒りの矛先をこちらに向けて、ムキになっていた点も引っかかる。あるいは犯人扱いされたことで、気分を害し、素直に受け止めることができなかったのかもしれない。もちろん彼にもアリバイがあり、そのアリバイは確かに彼自身が犯人ではないと思わせるのに十分ではないかと思われる。
⑤ 三木剛(編集者)
恐らく容疑者のなかで一番恨みを買っている人物で、彼の言動や行動からして一番怪しいと言っても過言はないだろう。先ず二階堂ゆみが亡くなる前に席を立ち、そのあと殺人が起こったことから分かる通り、彼がこの事件に何か関係があるのは事実で間違いはないだろう。特に長田春彦とは仲が悪く、気の強い性格から互いに悪口を言い合っていた。彼の悪評は二階堂ファンでは有名らしく敵も多い。しかし、権力を誇示しているのにもかかわらず、商品である二階堂ゆみを殺害する理由が分からない。とはいえ、アリバイは成立していて、そのアリバイには説得力があった。また彼は恩田薫がゴーストライターをしていることに繋がりがあり、事件に絡んでくるのはほぼ間違いなさそうだ。
⑥ 恩田薫(ゴーストライター)
明らかに怪しい人物で、謎に包まれている。顔に特殊マスクをしているのは、不手際で顔に大火傷を負ってしまったからだと説明していた。また唯一アリバイがなく、ここにきた理由すらも話さなかった。また引っかかるのが「ここにいる全員が嘘をついています」との発言だろう。彼には独特な薄気味悪さがあり、それが謎を呼ぶ気がしてならない。またゴーストライターをしていて、二階堂ゆみとの関係性に何かしらの問題が生じている可能性も捨てきれない。三木との関係性も怪しく思えて、あるいは彼と黒い繋がりがあるのかもしれない。
⑦ 立壁由紀(書店員)
優しい女性と思われるが、倉田に恋い焦がれるあまり周りが把握できていないように思える。彼女は過去に長田春彦と倉田修二との関係性があって、長田は彼女からいじめを救ってくれた人物だった。彼女もまた小説を書いていたのだが、自分の才能に限界を感じたのだろうか、これが最後になるだろうと言っていた。先ず彼女が怪しいと思われるのは、妄想癖が強く、自らの文才にコンプレックスを抱いている点だろう。もちろん彼女にもアリバイはあるのだが、そのアリバイは工作している可能性もあり得る。彼女は他人に心を開くのに時間が掛かるタイプで、それがいじめの原因にも繋がった。それに一度好きになったら意地でも離さない独占欲もある。
⑧ 名和田茜(スポーツインストラクター)
美人だが毒舌家で言いたいことを口に出すタイプだ。激情型の長田のことを嫌っているのは、あるいは自分に近い性質を持っているからなのかもしれない。彼女は倉田のことも嫌っていたが、今では立壁由紀の気持ちを理解して応援しているのかもしれない。アリバイもあり、特に怪しいところは見受けられないが、長田、倉田、立壁、名和田の四人はそれぞれ蜘蛛の糸のように切り離すことができない関係性があるらしい。大島と同様八人のなかでは比較的犯行の動機がない人物に思える。進藤警部補の調べによると、普段はスポーツインストラクターをして生活しているらしく、仕事が忙しいと怒り易くなるのが一番の悩みらしい。
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