マガジンのカバー画像

詩とおもう(ステイトメント)

42
声明っぽいものを集めました。
運営しているクリエイター

#作詞

向こう(2022.07.14)

磨り硝子の向こう 重ねられた皿 伏せられた湯呑み 淡い輪郭の 誰かの手が触れて 口元に運ばれる 誰か、とわたしは言った 淡い、とわたしは言った 手を翳して眺める風景は 儚く うつくしく その手は動かなかった その口は言わなかった   重ねられた選択の 伏せられた選択の 淡い輪郭の 磨り硝子の向こうで 縁が欠けている 底が割れている 磨り硝子越しに 赤く脈打ち 赤く流れる 石を詰めた雪玉を 磨り硝子に投げつける

朝餐(2021.11.03)

朝食の皿を下げる その瞬間 静けさに満たされたわたしに 傾く夜が 紛れもなくあった ここに時は満ちているけれど 星灯りで地面を辿れば 残骸だけが 息づく国がある 始まりの息 終わりの声 細くつらなるひと続きの それは架空の国 皿の上で 音を立てるナイフ 切り開きかみ砕き すべてを飲み込んだわたしの 朝に訪れた静けさ もう二度とはないなら 永劫と呼べ 舌によみがえる夜を どうにか越えていくのだ

その先(2021.4.3)

空を見上げるのは 何かが欲しいとき そこがバスの低い天井でも 欲望は 伸びあがり突き破り 壮麗な尾をひいて 流れて巡っていく 人差し指で くるくると 地球儀を回すみたいに 無人の空き地で この指とまれ その先に 見上げるべき空などなくても 空を見上げるのは 孤独が満ちるとき 巡り巡って手にしたものは 「欲しい」のこだま 地球儀の小ささは わたくしの小ささ 海も空も 自身を分かつものを知らず そのこだまは 誰のものとも知れず 波をかえすように ふたたび巡っていく その先に 見

だく(2020.12.22)

抱きしめたい人がいる 抱きしめられたい人がいる あれこれ言われたところで どうにもひとりなのは間違いなくて だからどうしても 抱きしめたい 抱きしめられたい もう腕が言うことをきかなくなった そのときにも 抱きしめたい人のことを きっと考える わたしを抱きしめたかった人は もういない わたしはほんとうなら その瞬間 抱きしめられなければならなかった わたしはほんとうなら その瞬間 抱きしめ返さなければならなかった その罪を その腕の中で 許さなければならなかった 許されなけれ

針(2020.8.20)

ちくちくと 降り積もる 小さな針たち ふりだしに戻ることも出来ず 雪のように溶けることも出来ず ちくちくと 降り続ける 降らせているのはわたし 「もういいよ」なんて嘘だ 薄い土の上に うずたかく 絡まりあっては崩れ また降り積もる ちくちくちくちく ちくちくちくちく 針たちのやさしい声 小さな針たち 薄い土の上に うずたかく 止まなくていい ただ降り続けろ

ターン(2020.7.20)

考えないなら 石を投げてはいけない 考えたからといって 石を投げてはいけない 投げられる石の重さは 投げる者より 常に 投げられる者に重い 小石でも軽石でも わたしは偉くない 仮に偉くても それはなにも保証しない わたしは頑張らない 頑張ったとしても なにも免除されない 仕方がなかった そうかもしれない 理由があった そうかもしれない 仕方がなくても 理由があっても 石を投げると決めたのは そして石を投げたのは あなたでありわたしである 石を投げられた者に 残り続ける 痛

クォーク(2020.7.15)

つかみかかって ゆさぶって おしたおして うまのりになり ちからいっぱい だきしめる どこもかしこも あまさずに いたわるように もてあそび おもむくままに なでしだく がいこくのおまじないのように たよりないいいつたえのように たいせつにされていたきおくに なってしまった いきているわたしたちの いきをするからだはいま だれからも ひとしく とおざかって すみずみまでくまなく ひとりきり あなたのねつを かんじたひの わたしのはだの きおくのひは うすぐらいへやの