見出し画像

カルマ、カルマ!

数日前、昔から知っている友人とスーパーでバッタリ会い、立ち話をしました。

彼女はパキスタンとの国境が近いパンジャブの、インドでもお金持ちの部類に入る家の出身ですが、若いころからアメリカに住み、シリコンバレーでバリバリのキャリアウーマンをしていたので、「自分はインド人というよりも、アメリカ人」だと言っていました。
パンジャブ人は南アジアでは背が高い方だとされています。彼女もスラっとした容姿で、物事をハッキリと言う、アメリカナイズされた女性ですが、インドのアクセントが強い英語を話します。

私たちが3年間海外に住んでいたうえに、このコロナで誰にも会えなかったので、実に5年ぶりほどの再会でした。

「そういえば、あの人どうしてるの?」

彼女が突然共通の知り合いだった、タイ人の女性の名前を挙げました。

「全然会ってないし、連絡も取り合ってないよ」
「今どこに住んでいるのかも知らないの?」
「そうなのよ。彼女の夫がガンで亡くなって・・・」

二人は国際結婚でした。日本に数年住んだ後、彼女の夫の国に二人で引っ越し、その後夫がガンで亡くなった、と噂で聞きました。彼女にとってはそこは外国なので、今もそこに住んでいるかは分かりません。

「ガンで亡くなったの?」

彼女の顔がみるみる蒼白になっていきます。

「でもあなたたち、仲良かったじゃない」

ガンで夫を亡くした友人を放っておいたのか?というニュアンスが含まれる言い方でした。
私は彼女たちと会わなくなった経緯を話しました。

私が卵巣ガンを患った、と聞いたとき、彼女と彼女の夫は、私たちの共通の友達に、「あの人たちには会わない方が良い」と言って回ったそうです。
理由は定かではありません。

彼女たちの周りにガンを患った人が大変な思いをし、自分たちも巻き込まれてしまった経験があるので、私たちと距離を取ったほうがいい、と言ったのかもしれません。

ガンは大変なので、私たちをそっとしておいてあげた方が良い、という優しさから言ったのかもしれません。

ただ、私と本当に仲の良い友人から、「彼女たちが『君たちに合わない方が良い』と触れ回っているけれど、何があったんだ?」と言われたことで、その事実を知りました。

「とにかく、私がガンになったせいで、彼女たちの方から離れていったのよ」
「死に近いからって、あなたから離れた方が良いって言ったってこと?」

タイ人って、死を忌み嫌うんだっけ?あれ、仏教ってそういう教えだっけ??
いろんなことを思いめぐらせていた時です。目の前の彼女が大きな声で叫びました。

「カルマ!カルマ!!」

自分で「自分はアメリカ人」だと自称する彼女が、カルマと叫んでいます。
「善因善果、悪因悪果」。あ、これは仏陀が言った言葉でしたが、カルマってインド発祥の宗教に強くある概念だったな、と、思い出した瞬間でした。

「ガンを患ったあなたを助けるどころか避けるようにして、自分の夫がガンで亡くなるって、カルマ以外何があるっていうのよ!」

その話はやめましょう、と彼女はすぐに話題を変えました。

卵巣ガンだと宣告されたとき、私はガンを患うほど、どんなカルマがあったのだろう、と思いました。

気が付かなっただけで、人を傷つけてきたかもしれません。
現世だけの話ならいいのですが、カルマは輪廻転生と深くかかわっているので、前世でどれほど悪いことをしてきたのか・・・残念ながら、思い出せるわけもありません。だから反省することも不可能です。

2007年公開の映画、『ブラインドサイト 小さな登山者たち』で、盲目の男の子が、
「自分は前世で人殺しをしたから、現世では盲目になったのかもしれない」というようなことを言って泣きました。
チベットでは「盲目の人は前世の悪行が原因で悪魔に取り憑かれている」という古くからの言い伝えがあるそうで、盲人は激しく差別されます。
実は今の医療技術があれば、治る人もいるうような盲目の人もいました。
チベットは聖なる場所だと思っていた私には、ショッキングな映画でした。

彼が言うように、私も前世でたくさんの人を殺したのかもしれない。

とは言っても、前世のことは遡れないので、そのことは忘れるとして、せめて現世では「善因善果、悪因悪果」、良いことをする努力をした方が“ええじゃないか”と、しみじみ思ったのでした。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集