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【百科詩典】短歌、俳句、歌詞、詩、小説など
✍️
短歌・俳句
愛
体などくれてやるから君の持つ愛と名の付く全てをよこせ
刺すね でもあなたの生きる場所がここでなくぼくのなかになるだけ
合鍵
早朝パートの母が置いてく合鍵を僕は戦士のように握った
アイロン
たましいにアイロン掛けをするような熱くて長い抱擁だった
会う
あらざらむこの世のほかの思ひ出に今一度の逢ふこともがな
空き巣
空き巣でも入ったのかと思うほどわたしの部屋はそういう状態
あくび
蜃気楼吐き出す貝を思わせる里帰りした姉貴のあくび
朝焼け
祖父のゐる南氷洋につながつてゐたのであらう祖母の朝焼け
紫陽花
あじさいがぶつかりそうな大きさで咲いていて今ぶつかったとこ
明日
はらだたしわが満足はいつまでもいつまでも明日があづかりてあり
芦田愛菜
芦田愛菜の才能を百とすればわしなんて二か三でしょうな
アスパラガス
許される範囲で想うだけでいい君の街産アスパラを買う
アダムとイブ
エマージェンシーブレーキが作動してアダムとイブを轢き殺せない
穴🕳️
自分をたづぬるために孔を掘り、孔ばかりが若し残ったら
あなた・君
おめでとう わたしはわたしを祝いたい きみと出会えた でかしたわたし
アパート㌀
階段を上る足音待ちわびた あのアパートは取り壊された
「萩の月・10個入り」みたい アパートの窓それぞれにそれぞれの夜
雨🌧️
好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君
死別ではないから余計さみしくて顔面にぶちあてる五月雨
雨ひかり雨ふることもふっていることも忘れてあなたはねむる
雨粒
雨粒は無数の鏡どの僕もあなたじゃなきゃと呟いている
飴🍬
「腋の下をみせるざんす」と迫りつつキャデラック型チュッパチャップス
蟻🐜
少しだけ働いてみたキリギリスまた有休を余らせたアリ
アレルギー
私は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない
杏
あらアンズ もう時期アンズ 迷い無く値段も見ずに手に取るアンズ
安楽死
どうせなら痛い痛いに支配されあなたのことを忘れたかった
息
手をのべてあなたとあなたに触れたきに 息が足りないこの世の息が
目覚めたら息まっしろで、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき
生きる
非を認め謝罪すること大嫌い 傲慢なまま生きて行きたい
泉鏡花
知つてゐて得せしことは無けれども泉鏡花は刺身が嫌ひ
いただきます
幸せになれるものならなってみな。いただきますも言えないくせに
イチゴ🍓
迷ってもぼくのなかには祖母がいる イチゴ大福食べれば平気
いってらっしゃい・いってきます
ありがとうわたしの親でいてくれていってらっしゃいまた会いましょう
「いってきます」「いってらっしゃい」住むことは毎朝別れをくりかえすこと
喧嘩して「いってきます」が無かった日「無事ついたよ」は知らせてほしい
「行ってきます」と言いつつゆっくり靴を履く俺も行くよと早く言ってよ
保育所を急いで出ようとする私に行ってらっしゃい娘の声が
気をつけていってらっしゃい 行きよりも明るい帰路になりますように
井戸
底に砂ばかり残った暗闇をいつまで井戸と呼べるだろうか
犬🐕
亡き父にぎょっとするほど似てる犬 電信柱に小便してらあ
愛された犬は来世で風となりあなたの日々を何度も撫でる
命
そりゃそうさ口が命の部首だから食べてゆく他ないんだ今日も
イヤホン
線のあるイヤホンみたいにだいすきと単純に伝えたいよ、あなたに
ウィーン
終い湯のあとに残りし毛髪を恥じて拾いきウィーンの宿に
羽化
なぐさめを拒む背中は熱を帯びあなたのひとりこころみる羽化
鰻
うなぎの顔の尖りつつ泳ぐさびしさだ 嵐のあとを人ら混み合ふ
海
足のつくことに戸惑うこれまでは溺れるだけの海だったから
海へ行く約束をしたそれからのすべての日々が海までの道
梅
戦わぬ男淋しも昼の陽にぼうっと立っている夏の梅
AI
白すぎてAIみたいに見えるけどこれは人です亡くなった父
エスカレーター
唐突にやさしくされると怖いんだ 平らに変わるエスカレーター
エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜をおもうよ
エステ
またこれだチャイナエステで悪口だ聞き取れないけどきっと悪口
エレベーター
エレベーターが地上におりてチンというさびしいさびしいと衣ずれの音
延命医療
延命医療こばんで父は餓死したり かなしき父と思ふまじ、まじ
老い
老害にならないようにするなんてずうずうしいにもほどがあります
屋上
屋上に植えられている植物の地上から見るはみ出し部分
織田信長
信長の愛用の茶器壊したるほどのピンチと言えばわかるか
落ち葉
たとへば君 ガサっと落ち葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
おつかれさま
ときどきのおつかれさまは控えめにあなたを好きと言ってるつもり
踊る
踊りたい気持ちが夜空に穴をあけ雀わんさか降ってきたっけ
仕事場のゴミ出すわたし裏口でほんの一秒踊って戻る
手は祈り胸は生き物足は風よろしく今日も驚かせてね
おにぎり
前線に送り込まれたおにぎりは午前三時に全滅したよ
鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい
音楽
悲しげな曲をかければしみじみと見えるのだろうオレの写真も
蚊🦟
まるまると太ったヤブ蚊飛んできてガダルカナルからきたと囁く
カードキー
カードキーしっかり握り部屋を出るトルクメニスタン白い街なり
貝
いつか死ぬあなたは死ぬと貝類を煮殺しながら泣くのだ俺は
ひっそりと想いを秘めて沈む貝 あなたに響く海鳴りの底
階段
迅速に一人子は育ち独りなり階段を傘で叩いて昇る
永遠に上りつづける階段のだまし絵のなかの勤め人たち
かろうじて上るねむたい階段の半ばに気難しい段がある
踏み外したい踏み外したいと丁寧に下りていくときの正しい感じ
階段をおりる自分をうしろから突き飛ばしたくなり立ち止まる
案山子
茶畑の案山子の首は奪われて月の光のなかの十字架
鍵穴
望月の照らす鍵穴そっと差す寝床のうなぎ起こさぬように
かき氷
かき氷屋の前にだけ人口がある
陰口
本人が読む場所に書く陰口はその本人に甘えた言葉
カゲロウ・蜉蝣
自販機のひかりまみれのカゲロウが喉の渇きを癒せずにいる
傘🌂
人類へある朝傘が降ってきてみんなとっても似合っているわ
手がかりはくたびれ具合だけだったビニール傘のひとつに触れる
もうずっと泣いてる空を癒そうとあなたが選ぶ花柄の傘
ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
雨だから迎えに来てって言ったのに傘も差さずに裸足で来やがって
100円の傘を通してこの街の看板すべてぼんやり光る
歌集・詩集
詩集から顔を上げれば息継ぎのようにぼくらの生活がある
風🌬️
風の交叉点すれ違うとき心臓に全治二秒の手傷を負えり
風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
天板にナイフで彫った風の字はあの教室を出られただろうか
家政婦
家政婦の合鍵摩滅して光る鞄の底の遺志としてなほ
学校
学校はこんなに窓があるところ雪が降つたら「雪だね」を言ふ
河童
猛暑日にきゅうりの昆布和えを出し一人残らず河童に変える
カップヌードル
ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。 ハロー カップヌードルの海老たち。
蚊取り線香
くるくると蚊取線香けずる火が灯る間の打ち明け話
カニカマ
カニ軍は自前の武器で戦ってカニカマ軍は走って逃げる
西日差す部屋に独りだカニカマの残骸しゃぶる オリンピック見ない
カニカマを蟹と信じて生きてきて明日地球に隕石が降る
カニカマとスイカバーが好きだった男と過ごした夏みたいな嘘
画鋲📍
理解者はたったひとりカレンダー固定している画鋲のように
花瓶
水仙をふるさとの花と思うとき 暗き海色の花瓶を選ぶ
髪
その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな
神
神様は君を選んで殺さない君を選んで生かしもしない
ガム
悪友がくれたオレンジ色のガム一生分噛みホームで捨てる
烏瓜
からすうりみたいな歌をうたうから すごい色になるまで、うたうから
カルピス
好物をそれしか知らぬゆえ父に迷わず供えるカルピスソーダ
彼
彼という文字を散らして波にするように海へと撒かれる遺骨
カレンダー📅
ばあちゃんは私をヘルパーさんと呼ぶ「にんげんだもの」とあるカレンダー
カレンダー二人の文字が踊ってる誕生日かつ燃えるゴミの日
カレンダーひとり残さずこの惑星のすべての誕生日ひしめいて
カロリーメイト
煙草いりますか、先輩、まだカロリーメイト食って生きてるんすか
看護師
鍵付きの個室に向かうとき少し白衣の天使の翼が竦む
元日🎍
何となく、今年はよい事あるごとし。元日の朝、晴れて風無し。
観音
千の手をすべて失くした観音は人に優しくできるだろうか
頑張る
がんばったがんばったけどダメだったダメだったけど何とかなった
樹🌲
ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
キス
まぐかつぷかつんとふれてしまつたな、としかいひやうのない口づけだつた
唇が荒れるくらいの長いキスまでに交わした短い会話
北風🌬️
北風に踊る落ち葉を追いかけて君の一日へ映り込みたい
キッチン
キッチンへ近づかないで うつくしいものの怖さはもう教へたよ
きのこ🍄🟫
いい人、と姉はきのこの毒の有無みたいに言って写真を見せた
気持ち
「複雑な気持ち」だなんてシンプルで陳腐でいいね 気持ちがいいね
キャンプファイヤー🔥
煙る先友と楽しむ君を見るキャンプファイヤー林間の夜
救急車🚑
救急車の形に濡れてない場所を雨は素早く塗り消してゆく
今日
こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう
恐竜
僕たちは恐竜よりも強かった就職氷河期越えて生きてる
キリスト
キリストの年収額をサブアカで暴露している千手観音
キリン
あきかぜの中のきりんを見て立てばああ我という暗きかたまり
金魚
円形の和紙に赤きひれ掬われしのち金魚は濡れる
空襲
空襲の夜の紅にさざめきぬ一升瓶の底の米たち
櫛
ゆふぐれに櫛をひろへりゆふぐれの櫛はわたしにひろはれしのみ
鯨🐋
工場にて鯨炊く日を知つてゐる羽黒鶺鴒よく歩く鳥
薬
錠剤を乗せないほうの手のひらをいつでも握っていてあげるから
口癖
肯定を必要とする君といて平気平気が口ぐせになる
唇
おもはずや夢ねがはずや若人よもゆるくちびる君に映らずや
くちびるが激しく動くそのひとのこゑではなくて湿りがこはい
口笛
口笛を吹けない人が増えたのは吹く必要がないからだろう
口紅💄
閉じたままのピアノも少しずつ狂う 口紅の輪郭整える
靴紐
靴紐をきつく結んだ 好きでいることを謝りたいひとがいる
首輪
チカチカと赤い首輪が光ってる 犬は自分でオフにできない
くらげ
簡潔に生きる くらげ発電のくらげも最終的には食べて
車
次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く
すれ違う車の顔のまねをする 軽自動車は笑顔が多い
車椅子🧑🦽
車椅子の女の靴の純白をエレベーターが開くまで見る
胡桃
「会えたね」という顔をしてメルカリにくるみ割り人形ずっといる
一心にこの世の秘密を解くように胡桃を食べているハムスター
母親が胡桃割ろうとハンマーでたたいた音が工場の音
クローバー
四つ葉かと思ったら三つ葉が重なってそう見えただけ プレゼントだよ
欠席
欠席のはずの佐藤が校庭を横切っている何か背負って
玄関
玄関を開けて光を浴びるたび主人公だが夢とかはない
子
子の声が音に聞こえる 私からのSOSだ ケーキを買おう
交差点
サラ・ジェシカ・パーカーさんが三叉路でサラとジェシカとパーカーになる
工場
工場が遠吠えをする眠れない一人の夜に寄り添うように
校庭
校庭にわれの描きし地上絵を気づく者なく続く朝礼
氷
朝2時に起きたら製氷機のガコン やましいことでもあったんやろか
ごくろうさま
目上とか目下とかもうないくらい「ごくろうさま」な俺たちだった
五七五
トムクルズモガンフリマンブラドピト五七五じゃ収まりませんな
言葉
こぼさないように両手で渡された言葉だけこの両手で受ける
小鳥
そうですかきれいでしたかわたくしは小鳥を売ってくらしています
ごめんなさい
部屋の隅に埃が積もる毎日の汚れみたいな君のごめんね
ごめんなさい今朝もあなたを覚えてた私も早く忘れたいのに
たぶんもう渡せないけど十九から冷凍保存してるごめんね
気づかないふりはしておくごめんねとやっぱり思えなくてごめんね
コンシーラー
振り向いて「おつかれさま」と呟いたタクシー運転手のコンシーラー
コンビニ🏪
ボス戦の直前にあるセーブ部屋みたいなファミマだけど寄ってく?
コーヒー☕️
父さんが大好きだった珈琲は大人になってもかしこい香り
なにか夢を叶えたらしい友達の缶コーヒーのお金も払う
サイコロ🎲
サイコロはいつも空から降ってきたようにこの世の机にあった
サイゼリヤ
サイゼリヤの壁で抱き合う小天使がわんぱく相撲に見えるまで飲む
細胞
脳細胞以外すべての細胞が賛成票を投じる恋だ
魚🐟
婚姻色の魚らきほひてさかのぼる 物語のたのしきはそのあたりまで
水中では懺悔も口笛もあぶく やまめのようにきみはふりむく
木枯らしや目刺しに残る海の色
坂道
近道は坂道きみのただいまにまにあいたくて全身で漕ぐ
猿🐒
金網をとどろかし餌にはしり寄るいま人の如くありたる猿ら
算数
なにゆゑか ひとりで池を五周する人あり算数の入試問題に
30歳
何者かにならなきゃ死ぬと思ってた30過ぎても終わらない道
サンダル
サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい
死
こはきもの失せたるときに髪の毛を三つ編みにして死が立つてゐる
字
いつもならだらけてるけど幼子の前でははねてはらつてとめる
幸せ
ふわふわを、つかんだことのかなしみの あれはおそらくしあわせでした
シーツ
風。そしてあなたがねむる数万の夜へわたしはシーツをかける
JR
本日もJRをご侮辱いただきありがとうございます、散れ
シェイク
赤羽で赤点食らった僕たちはマックシェイクをゾーゾー鳴らす
詩集
詩集から顔を上げれば息継ぎのようにぼくらの生活がある
地震
落ちた橋傾いたビル生きようねトランポリンの上だと思って
ことことと小さな地震(ない)が表からはいって裏へ抜けてゆきたり
自殺
二〇〇〇〇にも近きいのちを津波のみ三〇〇〇〇の自死者をのむものはひそか
紫蘇
なんて顔しているのまださびしいの紫蘇はあなたにあげる あげるよ
湿布
牛すじに大根おろしをのせるように湿った布を首すじに貼る
自転車🚲
自転車に乗れない春はもう来ない乗らない春を重ねるだけだ
自転車を直す仕事に就きました 人の翼を直せるように
自動販売機
自販機のなかに汁粉のむらさきの缶あり僧侶が混じれるごとく
自販機の光にふらふら歩み寄り ごめんなさいってつぶやいていた
〆切
しめきりに追われるような毎日はいつかの僕が夢みた暮らし
霜
かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば 夜ぞ更けにける
シャッター街
老木がまどろむような夕暮れのシャッター街の貼り紙の文字
車両
今僕が見てた景色を今見てる後ろの車両を乗っているひと
10円玉
校廊のどこかで冷える10円玉 むらさき色に暮れる学園
修学旅行
修学旅行で眼鏡をはずした中村は美少女でいた。それで、それだけ
19歳
戻れない橋を歩いているのだと十九歳でただ思い知る
授乳
思うよりきみのまんまでビビッドな授乳ケープがよく似合ってる
障子
破れたる障子の穴をふさぎたる目玉が大きく迫って来る
小説
恋をして最大瞬間風速で貸した小説 未だ返らず
ショッカー
ショッカーの時給を知ったライダーが力を抜いて繰り出すキック
おじいさんばかり残ったショッカーをいつまで悪と呼べるだろうか
小便
シャンパンにションベン入れた飲み物はシャンベンなのかションパンなのか
シルバニアファミリー
シルバニアファミリーの赤ちゃんだけを全種引き出しにかくまっている
白🤍
春過ぎて夏来にけらし 白妙の衣ほすてふ天の香具山
シロップ
シロップが静かにしみてゆくように一日かけて深く傷つく
人生
殺したいやつがいるのでしばらくは目標のある人生である
グッモーニン人生どうでも飯田橋人生どうにか鳴門大橋
心電図
心電図の波の終わりにぼくが見る海がきれいでありますように
新年🎍
おはようとおめでとうが交差して年の初めはくすぐったいぞ
新しき年のはじめのめでたさや栗きんとんから栗が見つかる
水道💧
ひとりならこんなに孤独ではないよ水槽で水道水を飼う
好きでしょ、蛇口。だって飛びでているとこが三つもあるし、光っているわ
水爆
働いて働いて働いただけ 水爆をつくりし人も父も言ひたり
スーツ
リクルートスーツでゆれる幽霊は死亡理由をはきはきしゃべる
スーパーマリオ
「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ
スープ
玉子スープに映る景色を崩しつつ私はたぶん一人で生きる
鈴虫
鈴虫が鳴いているねと切り出して夫のことを娘に話す
砂
いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握れば指のあひだより落つ
東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる
大といふ字を百あまり 砂に書き 死ぬことをやめて帰り来れり
スプーン・匙🥄
「すごいね」に混じってしまうざらざらを潰していますカレーの匙で
ガラス壷の砂糖粒子に埋もれゆくスプーンのごとく椅子にもたれる
スマホ📱
それぞれの秘密を抱えてテーブルに 3つのスマホならべる真昼
すみれ・純連
とぼとぼと歩いてゆけば石垣の穴のすみれが歓喜をあげる
星座
逆三角にきらめく冬の星群をクレオパトラの下着座と呼ぶ
世界
野茂がもし世界のNOMOになろうとも君や私の手柄ではない
セザンヌ
セザンヌの描きし山をセザンヌとなりて眺める壁のカレンダー
セックス
セックスはしなさい 犬は撫でなさい そろそろ夢はあきらめなさい
蝉
八月に私は死ぬのか朝夕のわかちもわかぬ蝉の声降る
青淵にひぐらしの声ふるがごとし声の真下をわが舟は過ぐ
洗顔
これはまだ私だらうか手のひらにひかりをためて顔を洗へり
先生
先生へ、あなたの胸でねむる夜以外はすべて手に入れました。
先頭
先頭がゆれてしまえばその群れは夜の長さにこわれてしまう
先輩
先輩はバカだったけど「笑顔って筋肉やねん」と教えてくれた
ソーダ🥤
大好きということにして君と会い 罰として飲むクリームソーダ
空
空を見て俺はわらった俺はすぐしあわせになる癖があるから
退院
退院を遂げしベッドの空き地へと不法投棄の如き舌打ち
早春の窓の光にゆつくりと手のみで踊る明日は退院
体温🌡️
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
体温の移っていない部分まで足を伸ばしてまた引っ込める
からだだとおもっていたらもっともっとはいっていっていきなり熱い
ダイダラボッチ
そうこれはだいだらぼっちが黒い海に民家をつぎつぎ投げ入れる音
台風
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」と叫びながらふらふら歩く台風10号
大仏
大仏の前で並んで写真撮るわたしたちってかわいい大きさ
濁点
今宵、すべての『ゼクシィ』の濁点を奪い昭和のエロ本にする。
宅配
駆け足で来た宅配の若者はシャツが背中にはりついている
タコ・蛸・章魚🐙
十三の夏に落とした箱めがねしばらくは章魚が住んだでせうね
ただいま
「ただいま」も大きな虹を見たことも言わない傘を失くしたことも
玉
くす玉がひらいたままだおめでとう実にしずかなフロアーである
卵
卵とは死にあいた穴 それなのに殻を破ってしまうのですか
たられば
たらればは人生からの贈り物馬酔木の花も月もゲームも
誕生日
おめでとう 誕生こそが死に至る病そのものなのだとしても
ショートケーキを箸もて食し生誕というささやかなエラーを祝う
暖炉
かなしみは寒がりだからすぐきみの胸の暖炉に集まるんだね
血🩸
B型の不足を叫ぶ青年が血のいれものとして僕を見る
地下
地下道を上り来りて雨のふる薄明の街に時の感じなし
路上より地下へと潜り込むくるまテールライトが炎をあげつ
焼け焦げたような匂いの地下通路 さっきの道だったかもしれない
地下鉄
東陽町南砂町西葛西葛西浦安南行徳
乳
春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ
与えれば光を増していく吾子の乳に噛みつく乳歯の白さ
茶🍵
覗けばあなたを楽にするのでしょうポットの茶葉はひらきつつある
中学
六年がまた一年になったときちょっと弱くなった気がした
中継
「ソウルから中継です」で映る場所ここ通ったわ独りつぶやく
注射
注射針曲がりてとまどう医者を見る念力少女の笑顔まぶしく
蝶🦋
雑踏の中でゆっくりしゃがみこみほどけた蝶を生き返らせる
チョコパイ
あげたがる人から貰うチョコパイのでかくて甘く重い何らか
杖🧑🦯
わが帽子ナイスキャッチのおばあさん「杖でごめんね」いいえありがとう
月🌓
でも月を、ただのまあるい岩だね、といじめたくなる時もあります
氷嚢のような満月 そこならばどんな怒りも鎮まりますか
月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど
清水へ祇園をよぎる桜月夜 こよひ逢ふ人みなうつくしき
心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな
綱引き
マンモスの死体をよいしょ引きずった時代の記憶をくすぐる綱引き
翼🪽
飛び上がり自殺をきっとするだろう人に翼を与えたならば
通夜
鬱金いろの銀座線より藤いろの半蔵門線に乗りて通夜に行く
露
秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ
手
手品
わしの手は手品ひとつもできんくて他人の口にたばこを点す
デパート
祖父は何を贈ったのだろうデパートの包装紙だけ仕舞われし棚
テレビ📺
笑い声の足されたお笑い番組にわたしの笑い声が消される
銃殺の夢より醒めて足元にリモコン白く転がつてをり
天使
天使に声変わりはない 少年はそう告げられて喉を焼き切る
あの羽は飾りなんだよ重力は天使に関与できないからね
電池
反対になった電池が光らない理由だなんて思えなかった
トイレ🚻
さっきまで騒いでたのにトイレでは他人みたいな会釈をされる
東京ドーム
おっさんが喫煙所ごと消えていく東京ドームは巨大なルンバ
東京スカイツリー
夕やけのスカイツリーが急行の窓をひととき映画に変える
動物園
見つめ合うマーモセットとニンゲンを一応隔ててあげてるガラス
時計
針と針すれちがふとき幽かなるためらひありて時計のたましひ
登山
大空を牽きてザイルのくれなゐの色鮮やかに懸垂下降
立山に登りしズボンVの字に3本並べ山小屋の夜
好きだから登山しているこの僕に「ごくろうさま」は不適切ワード
ドラえもん
やめてくれおれはドラえもんになんかなりたくなぼくドラえもんです
トラック🚚
豚を乗せ工場へ向かうトラックが法定速度でわが前を行く
鳥
飛び降りて死ねない鳥があの窓と決めて速度を上げてゆく午後
金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に
白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
爆心地のタイルの上を歩みゆく裸足の鳩は上滑りして
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
夜をこめて鳥のそら音ははかるとも世に逢坂の関はゆるさじ
ママンあれはぼくの鳥だねママンママンぼくの落とした砂じゃないよね
鶏🐔
生前は無名であった鶏がからあげクンとして蘇る
トロフィー
ためらわずかけてくる子を抱きやれば今日一日のトロフィーとなる
トンボ・蜻蛉
蜻蛉に差し出す指が一本であるように きみだけがすきだった
殴る
YAH YAH YAH 殴りに行けば YAH YAH YAH 殴り返しに来る笠地蔵
夏
あの夏と呼ぶ夏になると悟りつつ教室の窓が光を通す
納豆
十二人家族のつくる納豆の大ドンブリのねばりを思え
撫子
野撫子浜なでしこと異れり都のいろの真野のなでしこ
冬も咲く撫子は風に傷みつつされどなでしこ冬を生きゆく
鍋🍲
揺れながら鍋かきまわす祖母のあの地球をあやすような足どり
南天・ナンテン
一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております
西荻窪
気を抜けば平凡となる人生へ西荻窪という劇薬を
虹🌈
あの虹を無視したら撃てあの虹に立ち止まったら撃つなゴジラを
虹 土葬された金魚は見ているか地中に埋まるもう半輪を
もうきみに伝えることが残ってない いますぐここで虹を出したい
日常
ひたすらに海はまだかというように歩き続けるこの日常を
煮る
肉を煮る こんな暮らしが続くようゆるりと永く怒らなければ
妊婦
子を包む繭となりたるこのからだふくふく白い眠りを誘う
ネクタイ👔
おおらかな父の秘密を知った後ネクタイの柄が気になっている
猫🐈
預かった猫の毛なのねウェーブがかかっているのね金色なのね
百均の猫カレンダーの十二月ふわふわ猫のいやあな目つき
猫背
万華鏡綺麗なものを見るときのあなたの猫背が美しかった
ネックレス
ぐちゃぐちゃに床に投げられた日もあったろう展示されたネックレス
ネッシー
ネッシーの煮付けを食べたという祖父の首のたるみの影濃くなりぬ
年賀状
おめでとうという言葉は暴力と思えば年賀状が大好き
ノミ
ノミひとつ手にして森へ行くちょうどいい木を観音様にしたくて
ハーブ
ハーブティーにハーブ煮えつつ春の夜の嘘つきはどらえもんのはじまり
めざめれば又もや大滝和子にてハーブの鉢に水ふかくやる
歯医者
天井に血の染みがある歯科医院 よく飛んだなぁあんなとこまで
バイセクシャル
絶倫のバイセクシャルに変身し全人類と愛し合いたい
蠅🪰
人皆の箱根伊香保と遊ぶ日を庵にこもりて蠅殺すわれは
ハゲ
中年のハゲの男が立ち上がり大太鼓打つ体力で打つ
橋
水枯れの潜水橋を徒歩通勤いるけどいないハケンのアタシ
はじめまして
キスまでの途方もなさに目を閉じてあなたのはじめましてを聞いた
バス🚌
終バスにふたりは眠る紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて
ふりむけば君しかいない夜のバスだから私はここで降りるね
パスタ
湯の中でパスタが踊る 愛憎と言うけれどほぼ憎なんでしょう?
バス停
バス停で踊る少女を軸にして午前八時の世界が回る
肌
やは肌のあつき血汐にふれも見で さびしからずや道を説く君
肌着
ともだちはみんな雑巾ぼくだけが父の肌着で窓を拭いてる
バッグ
きみたちが同じバッグを持っててもリプはつけない気付きもしない
鳩🕊️
鳩避けの下に集まる鳩の胸泣きたいのならそうすればいい
バドミントン
まだシャトルみたいにゆれてしまうけどコートの外の季節をゆくよ
花💐
花束を抱えて乗ってきた人のためにみんなでつくる空間
花束をほどけば薔薇のそれぞれにかけがえのない傾きがある
できたてのロボットみたい花束を逆さまのまま突きつけてきて
オレンジと黄色の花をよくもらうよかった明るいひとに見えてる
花火🎆
赤き玉とろりとできてこぼさなかつた泪のやうな線香花火
星一つ残して落つる花火かな
母
たはむれに母を背負ひて そのあまり軽きに泣きて 三歩あゆまず
死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる
あっちにもあるものばかり詰められた母の手提げが腕に食い込む
やいババア腹減ったから飯作れ墓石の前でうずくまる春
歯磨き🪥
「猫投げるくらいがなによ本気だして怒りゃハミガキしぼりきるわよ」
歯磨きの飛沫飛ぶことなくなりて母の鏡の鈍く光れり
羽虫
バス停のアクリル板に挟まった羽虫が発射時刻を隠す
春
片恋の3年間を衝撃のラスト2行で覆せ、春
パン🥖
バゲットを待つやうに待つわが父の焼きあがり時刻午後四時三十分
ハンカチ
ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか
ピアス
夕焼けの涙でしょうか電柱の根に冷えているピアスの粒は
陽・陽当たり
わたしより先に生まれただけなのに姉の部屋には陽がよく当たる
ピアノ🎹
クセつよと言われるたびにふふっふふ今日も今日とて88鍵
ビー玉
母親の行方を知ってるビー玉の転がる方へ進む白昼
君に贈る青いビー玉ぼんやりと手に乗せしのちわがものとせり
ピーナッツ
始発待つ光のなかでピーナツは未来の車みたいなかたち
飛行機
搭乗を待つ人々よ我々は以後十余時間の運命共にす
筆圧
心配は文体よりも筆圧につよく出ていて母からの梨
ピッチャー
背番号わかきピッチャー運命をだしぬくように三振を取る
人々
ひとびとは黙って顔を見合わせてそして帰っていってしまった
独り言
独白もきっと会話になるだろう世界の声をすべて拾えば
雛祭り🎎
春一日雛人形の役をしてそれより魂を失へり
秘密基地
少年時友とつくりし秘密基地ふと訪ぬれば友が住みおり
ひらがな
ひらがなのさくせんしれいしょがとどくさいねんしょうのへいしのために
ひれ
さらさらとこの世を泳いでるひとの尾びれ背びれが欠けていました
風俗
プレイ後の風俗嬢に夢語る おしゃれな街でパンを売りたい
フェンス
盲目の犬はフェンスにつき当りしばし虚空を見据えていたり
福島
立入禁止区域に星を戴いてもう産まなくていいよ牛たち
付箋
“お疲れ”の付箋貼られてうたた寝の一人確かにいる目撃者
豚🐖
作るなよ自在自由に作られろ豚に生まれろそれが歌やぞ
舟・船🚣♀️
どこへでも行けるあなたの舟なのに動かないから棺に見える
訃報
トピックス欄に訃報が現れてきらきら点るNEW!のアイコン
プリクラ
プリクラのシールになつて落ちてゐるむすめを見たり風吹く畳に
プリン
兄ちゃんはいただきますも言わないで他人の家のプリンを食べる
プレゼント
プレゼント「ぷ」から始まる音がいい「ぷぷぷ」と笑って「れれれ」と驚く
ペガサス
ペガサスは私にはきっと優しくてあなたのことは殺してくれる
君の名を呼ぶとき胸はペガサスの蹄に強く蹴られて撓む
ペットボトル
たぶん親の年収越えない僕たちがペットボトルを補充してゆく
ベランダ
学校に行きたくないがベランダに立った母は手を振っている
保育士
妊娠を希望する人は手をあげて裁きのごとき保育士会議
放課後
何時まで放課後だろう 春の夜の水田に揺れるジャスコの灯り
ほおずき・酸漿・鬼灯
死にし子のなきがら負ひて来しときに酸漿のごとき入日を見たり
酸漿のくれなゐ深くなりたれど摘む子なくして時雨わたりぬ
酸漿のひとつひとつを指さしてあれはともし火すべて標的
僕
ぼくがこわせるものすべてぼくのものあなたもぼくのものになってよ
埃
部屋の隅に埃が積もる毎日の汚れみたいな君のごめんね
蛍
きらめくとあきらめるって似てるから蛍は笑う息絶えるまで
本当
本当のことを話せと責められて君の都合で決まる本当
本屋📚
ばあちゃんはいつも本屋でぼくに買う本の厚さをよろこんでいた
枕
しっとりとつめたいまくらにんげんにうまれたことがあったのだろう
マシュマロ
するだろう ぼくをすてたるものがたりマシュマロくちにほおばりながら
マッチ
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや
窓
違いとは間違いじゃない窓ひとつひとつに別の青空がある
マニュアル
風の午後『完全自殺マニュアル』の延滞者ふと返却に来る
ママ
ママと手をつないだときにわかったよ星のやさしい持ち帰り方
曼珠沙華
川べりに曼珠沙華揺れあれは母 感情ぜんぶが火だったころの
マンション
タワマンの部屋の明かりが消えてゆく ジェンガであれば右に倒れる
予定地に光の柱のぼらしめ宗教画めくマンションチラシ
蜜柑🍊
いいかげん話もダレるそのころに誰かが焼いたみかんのにおい
ミサイル
あなたが日本海に落としたのは金のミサイルですか銀のミサイルですか
大陸間弾道弾にはるかぜのはるの部分が当たっています
水
あるといいけれどめちゃくちゃこわいよね飲むとよく眠れる水道水
水切り
教室じゃ地味で静かな山本の水切り石がまだ止まらない
水たまり
鏡から鏡へ飛びうつるように雨後の街路を駆けてゆく犬
道草
みちくさの途中で気付くどの道の先にもさようならしかない、と
三つ編み
髪の毛を勝手に三つ編みにしてもいい距離感の友達がほしい
ミント
「どうだった?私のいない人生は」聞けず飲み干すミントなんちゃら
無職
「天国に行くよ」と兄が猫に言う 無職は本当に黙ってて
村
廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て
メールアドレス
はじめてのメールアドレスに入れていたbadminton-loveみたいな気持ち
毛布
たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔
紅葉🍁
奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声聞くときぞ秋は哀しき
桃🍑
細々と暮らしたいからばあさんや大きな桃は捨ててきなさい
透き通る桃に歯ブラシあててみる(こすってはだめ)こすってはだめ
燃やす
冬、僕はゆっくりひとつずつ燃やす君を離れて枯れた言葉を
森
ゆうぐれの森に溺れる無数の木 つよく愛したほうがくるしむ
八百屋
自転車で八百屋の棚に突っ込んだあの夏の日よ 緑まみれの
ヤギ🐐
「ヤギ ばか」で検索すると崖にいるヤギの画像がたくさん出てくる
焼肉
わるいひとではないのだけど、と焼き網に水をのせて終える報告
ヤドカリ
初恋を相談できる窓口の小さなヤドカリの係員
幽霊👻
幽霊になりたてだからドアや壁すり抜けるときおめめ閉じちゃう
何もかも忘れたおばけが夜ごとに柱の傷と数字を撫でる
UFO
未確認飛行物体次々に雲間から降る春となりゆく
雪❄️
いくたびも 雪の深さを 尋ねけり
田子の浦に打出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ
ぼくなんかが生きながらえてなぜきみが死ぬのだろうか火に落ちる雪
雪により細くなりにし路地ゆけばむこうを来る人ふと雪に消ゆ
天国の味が知りたい両の手のなかで溶けゆく雪を飲み干す
雪女
雪女溶けて残れる水たまりのみずは甘いか日本鼬よ
湯船
白布に白い刺繍をするように湯船の中で号泣している
夢
ついてきてほしかったのに夢の門はひとり通ると崩れてしまう
百合
夏たけて窓ちかく咲くしろたえの百合こそ悪の花かもしれぬ
ヨーグルト
裏側に張りついているヨーグルト舐めとるときはいつもひとりだ
吉野家
吉野家の向かいの客が食べ終わりほぼ同じ客がその席に着く
酔っ払い
酔っ払い駅で目覚めた迷い子が瞬間移動しまくった夜
弱い
<弱い>って書く手を弓のとこで止め<強くなれる>に変えて記す日
LINE🟢
会っているあいだは途切れるからまだLINEは会えたことを知らない
力道山
浜辺には力道山の脱ぎ捨てしタイツのようなわかめ盛られて
リコーダー
転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー
リボン🎀
大切なものにはリボンなどついてなくって見落としそうな夕焼け
六年生
六年がまた一年になったときちょっと弱くなった気がした
忘れない
「忘れじ。」の行く末までは難ければ今日を限りの命ともがな
綿菓子
わたがしであったことなど知る由もなく海岸に流れ着く棒
歌詞・詩
雨🌧️
雨は斜めの点線 ぼくたちの未来を切り取っていた 窓の板ガラスへと "自由"って言葉を書いては消した
今
どうか消えずにいて どうか笑っていて
いまを疑わずに 変わらずそばにいて
紙
真っ白な気持ちは書いた分だけ黒くなる
白紙の海泳ぐ黒い線にいつか 真っ赤な花が咲くその日まで
言葉
一生に一度、花のひらくようなよい言葉が語りたいという願いを持たなくてはならないかなしき人々のひとりなのでありました。
黄昏
たそがれは風を止めて
ちぎれた雲はまた ひとつになる
手
キミがぼくのだいたいを知って 魔法は少しずつ現実へ それでもふたり手を握って 重ね合わせる運命線
母
はじめての子を持ったとき 女のくちびるから ひとりでに洩れだす歌は この世でいちばん優しい歌だ
昼寝
海からあがる潮風 絵葉書で見た晴空
うたたねのために数えるのは 羊ではなく思い出
未来
輝かしい未来は胸の中で咲く花のよう
そこで揺れたものは魂のゆくえと呼ばないか
虫
土
蟻が
蝶の羽をひいて行く
ああ
ヨットのやうだ
小説など
川
私は川がある街というものに自分がどれだけなじみやすいのかを知った。そして、カフェにすわって人々を見ていることは、川の流れを見ているのと全く同じだということを知った。それは、歴史のある都市でなくてはならない。古く重く恐ろしい色や形をした建物の前を、現代の人々が流れていく、その様子こそが川なのだ。そして、私は知った。川の恐ろしさは、時の流れのはかりしれなさ、おそろしさそのものなのだと。
木
それから海岸沿いにたくさん生えているガジュマルの神聖な姿。ただ生えているだけなのに、まるで巨大な彫刻のように美しく見えた。複雑にからまり合った枝の下で憩えばまるで充電されるように、抱かれているように落ち着いた。並んでいるとまるでいろいろな精霊が語り合っているような雰囲気があった。
厳しい本物の冬が再び腰を据えようとしていた。ケヤキの枝先が、警告を与える古老の指のようにひからびた音を立てて震えた。
車
マンションの地下の駐車場から車を出したとき、三月の冷ややかな雨はまだ音もなく降り続いていた。プジョーのワイパーは老人のかすれた咳のような音を立てていた。
12月
空からゆっくり降ってくるのは、今年を締めくくる優しい光。
走り抜けながら、味わう暇もなく包まれるのがいい。
短歌
いい歌に出会い続けることこそが短歌を好きだという気持ちを持続させるための何よりも良い栄養になる。
「いまこの瞬間」に対応できる最適なツールは短歌ではないのだ。短歌は過ぎ去った愛を、言えなかった想いを、見逃していた風景を書くのに適している。それらを、あなたがあなた自身のために、あなたに似ただれかのために、結晶化しておくには最適な詩型だ。記憶の奥にある思い出せない思い出を書くことには最適なツールなのである。思い出とはこれまでだ。そして、これからを生きやすくするために御守りとして役に立つ。短歌をつくることの利点とはそれくらいしかない。
いまこの瞬間を書く必要はない。あなたが書くべきはあなたが見ているその月ではなく、あなたがいつか見たあの月だ。いまこの瞬間、あなたが見ている月について言葉はいらない。どんな言葉よりもその月のほうがうつくしいからだ。見とれていい。黙っていればいい。無理に言葉にする必要はなく、目に焼き付ければそれでいい。それが思い出になったとき、目を閉じてもう一度その記憶のなかの月をよく見てほしい。おそらく何かが欠けていて、何かが不鮮明になっているはずだ。そこにこそ詩の入り込む余地がある。