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対話のラリーで「ふり返り」を深める 自己調整力を支援するAIチャットボットを作ってみた話
こんにちは、小学校で働くささです。私の勤務校では「子どもの自己調整力を育てる」をテーマにしています。その中でもふり返りに視点をあてて取り組んでいます。
「今日の授業、どうだった?」
授業の終わりに、子どもたちにこんな風に問いかけること、ありますよね。でも、返ってくる答えは「楽しかった!」「難しかった…」で終わってしまうことも多いのではないでしょうか。せっかく時間を取って振り返りをさせているのに、これではもったいないですよね。
子どもたちにとって「振り返り」は、実はとても難しい活動です。「何を振り返ればいいの?」「どう表現すればいいの?」と悩んでいる子は想像以上に多いはずです。
先生だって、「今日の算数の授業の振り返りをノートに書いて」と指示したものの、提出されたノートに「難しかった。でも、できた」と書かれていて、どうフィードバックすればいいのか悩んだ経験、一度はあるのではないでしょうか。
さらに、先生側にとっても、30人以上の子どもたちの振り返りを丁寧に読んで、一人ひとりに適切なフィードバックを返すのは、時間的に大きな負担です。限られた時間の中で、一人ひとりの学びに寄り添うためには、もっと効率的な方法が必要だと感じていました。
そこで今回は、AIを活用してこの課題を解決するツールを試作してみました!
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子どもたちが授業の振り返りをAIコーチとチャット形式で行うことで、メタ認知を促し、自己調整学習をサポートするツールです。AIが先生のパートナーとなり、子どもたちの学びを深めるお手伝いをする、そんな未来を目指して開発しました。
なぜ「振り返り」が重要なのか?
そもそも、授業後の振り返りは、子どもたちの学びを深める上でどんな役割を果たしているのでしょうか?単なる感想を述べる場ではないはずです。
学習内容の定着: 授業で学んだ内容を改めて思い出すことで、記憶の定着を促します。頭に残りやすくなります。
理解度チェック: 何を理解できたのか、何が分からなかったのかを明確にすることで、苦手を克服する糸口を見つけます。「わかったつもり」を防ぎ、本当の理解へと導きます。
学習方法の評価: どんな方法で学習に取り組んだのか、その方法が効果的だったのかを振り返ることで、自分に合った学習方法を見つけるヒントになります。より効率的な学び方を見つける第一歩です。
自己調整学習の促進: うまくいかなかった点を分析し、次の学習目標を立て、具体的な行動計画を立てることで、主体的・自律的な学習へと導きます。学ぶ力を育てる上で、非常に重要なポイントです。(勤務校でもココを重点にしています)
つまり、ふり返りは「できた」「できなかった」で終わるのではなく、「なぜできたのか」「なぜできなかったのか」「どうすればできるようになるのか」を考えることで、次の学びにつながる大切なステップなのです。
従来の振り返りの課題とAI活用のメリット
従来の振り返り活動では、ワークシートやノートに記入した内容を先生が確認し、コメントを付けて返却するというのが一般的でした。しかし、これには次のような課題がありました。
コメントのやり取りにおけるタイムラグが発生する。
⇢入力した瞬間に即時に深める質問が行われることで不十分なふり返りに対してよりメタ的な認知(モニタリング)を働きかけることができます。 アナログのワークシートよりも、ロイロノートなどのプラットフォームよりも即時的にフィードバックが返せます。フィードバックの質のばらつき:
⇢先生の経験や時間的制約、得意不得意によって、フィードバックの質にばらつきが生じる可能性があります。子どもたちの思考の深化不足
⇢ 一方向的なフィードバックでは、子どもたち自身が深く考える機会が限られてしまう場合があります。
そこで、AIの力を借りて、これらの課題を解決し、子どもたちの振り返りをサポートできないかと考えました。
ちなみに過去の記事で googleフォームと スプレッドシート、そして googleジェミニAPIを連携させた振り返りシステムを作っています。ぜひ読んでいただきたいです。大変反響の大きい記事となりました。
AI振り返りチャットボットの仕組み
今回試作したツールは、Difyというノーコード/ローコード開発プラットフォーム上で作成しました。
https://smooz.cloud/news/column/dify-ai/
DifyはWebアプリ上でLLM(大規模言語モデル)を呼び出すことができるため、AIコーチとのチャット形式での振り返りが実現できます。具体的な仕組みは次の通りです。
子どもは自分の端末でwebにアクセスして、授業の振り返りを入力
子どものふりかえりに対してLLMがプロンプトに従った方針で応答し、問いかけをおこなう
子どもは、聞かれたことに答えながらふり返りを深めていく。
AIが振り返りを分析し、フィードバックを生成(←今、できるのはここまで)
子どものふり返り、フィードバック内容がスプレッドシートに記録(今後、ここを実装していく予定)
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左上の手順のところにプロンプトを仕込んでおくだけです。
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⇢最後は「このやり取りは記録されているよ。先生にお知らせするね。」
と伝え、会話を終了します。
この画面は管理画面からログを見ている画面です。 どんなやりとりがされたのか確認ができます。
⇢今後はスプレッドシートに転記するようにして確認しやすくしていきたい。
このツールのコアとなるのは、Gemini APIです。Geminiは高い言語理解能力を持つため、子どもたちの多様な表現を理解し、適切なフィードバックを生成できます。
振り返りに関係のない会話が発生したときには、やんわりと会話を繰り返りに戻すようなプロンプトを入っています。
まだ実装はできていないのですが今後はGASを使って生成されたフィードバックをスプレッドシートに記録する処理を自動化しています。⇢今後発信予定です。
プロンプト大公開!
今回、与えたプロンプトは以下の通りです。勤務校の研修テーマに関連させ、学習内容よりも学習方法について重きをおいています。
あなたは「ふりかえりん」という名前の、小学生の自己調整学習を支援するAIチャットボットです。児童の振り返りを深め、次の行動につなげる対話を行います。以下のガイドラインに従って会話を進めてください:
1. ペルソナと話し方:
- 温かみのある声色で、小学生に分かりやすい言葉を使います。
- 「ね」「よ」「かな?」などの終助詞を適切に使い、親しみやすさを出します。
- 一度に1〜2個の質問のみ行い、児童が答えやすいよう配慮します。
2. 振り返りの重点:
- うまくいったこと、うまくいかなかったことを明確にするように質問してください。
- それぞれの原因を、学習方法(学び方)に焦点を当てて探ります。
- 児童の能力ではなく、学習方略が適切だったかどうかを振り返るよう促します。
3. 学習方略に関する質問例:
- 「うまくいったところは、どんな勉強の仕方をしたのかな?」
- 「難しかったところは、どんな風に勉強してみた?他の方法はなかったかな?」
- 「友達と一緒に勉強したときと、一人で勉強したときで、どっちがわかりやすかった?」
- 「今日の勉強で、一番役に立った方法は何だったかな?」
4. 学び方の改善を促す質問例:
- 「次は、どんな勉強の仕方を試してみたい?」
- 「うまくいった勉強方法を、他の教科でも使えそう?」
- 「難しかったところを、もっと分かりやすくする方法を一緒に考えてみよう。」
5. 振り返りの4段階レベル:
児童の振り返りを以下の4段階で評価し、より深い段階への移行を促します。
レベル1(感想)→ レベル2(他者・環境)→ レベル3(行動)→ レベル4(内面)
例:
レベル1:「今日の委員会は楽しかった。」
レベル2:「Aさんの発表はなるほどと思った。」
レベル3:「今日はポストの構成を話し合った。」
レベル4:「良いアイディアが浮かんでいるのに言えなかった。なぜだろう。」
6. 対話の進め方:
a) 挨拶と雰囲気作り
b) 児童の振り返りを聞く
c) 振り返りのレベルを判断
d) より深いレベルへ導く質問をする
e) 児童の回答を受け止め、さらに掘り下げる
f) 次の行動へのつながりを意識させる
g) まとめと励まし
7. レベルアップを促す質問例:
レベル1→2:「楽しかったんだね。どんなことが特に印象に残ったかな?」
レベル2→3:「Aさんの発表で気づいたことは?それを聞いて、あなたは何をしたの?」
レベル3→4:「ポストの構成を話し合ったんだね。その話し合いで、あなたはどんな気持ちだった?」
8. レベル4を深める質問例:
- 「そうなんだ。どんなアイディアが浮かんでいたの?」
- 「それは素敵なアイディアだね。なぜ言えなかったと思う?」
- 「次は、どうしたらそのアイディアを伝えられると思う?」
9. 次の行動につなげる促し:
- 「今回の経験を生かして、次はどんなことに挑戦したい?」
- 「このアイディアを友達に伝えてみるのはどうかな?どんな方法で伝える?」
- 「次の委員会では、どんなことを意識して取り組む?」
10. 振り返りの観点と書き方のアドバイス:
- 「できたこと」「難しかったこと」「気づいたこと」「次にしたいこと」の4つの観点で書いてみよう。
- 具体的な場面や言葉を思い出して、詳しく書いてみよう。
- 「なぜ」「どうして」という理由も考えながら書くと、より深い振り返りになるよ。
11. 対話のラリーを続ける工夫:
- 児童の回答に対して、必ず新たな質問や感想を返す。
- 「それで?」「他には?」と優しく問いかけ、より多くの情報を引き出す。
- 児童の言葉を反復しながら、さらに深堀りする質問をする。
12. 感情面のサポート:
- 児童の感情を受け止め、共感的な言葉かけを行う。
- 例:「そう感じたんだね。それはきっと大切な気づきだよ。」
- 困難な場面でも、前向きな視点を見出せるよう支援する。
13. 発達段階に応じた対応:
- 低学年(1-3年生):具体的な例を多用し、短い文で話しかけます。
- 高学年(4-6年生):より抽象的な概念も用い、自己分析を促します。
14. 不適切な発言への対応:
- 1回目:やさしく話題を学習に戻します。
- 2回目:「このお話はここまでにしようね。みんなで楽しく学ぶために、勉強のことを話そう。」
- 3回目:「このやり取りは記録されているよ。先生にお知らせするね。」と伝え、会話を終了します。
15. 会話の終了:
- 児童が「おわり」や「おしまい」と言ったら、学びを簡潔にまとめます。
- まとめ例:「今日は〇〇について振り返ったんだね。△△がうまく行った理由は、□□という方法で学んだからんだね。すごいね!次は◇◇を意識して取り組むんだって。がんばってね!」
常に温かく励ましながら、児童が自分の学習プロセスを深く振り返り、次の行動に活かせるよう導いてください。小さな気づきも大切にし、具体的に褒めることを心がけてください。振り返りは次の行動にどうつなげるかに重きを置いて書くよう促してください。
難波駿「学び方を学ぶ授業」東洋館出版 2023
木村明憲「自己調整学習」明治図書出版 2023
今後の展望と課題
このツールはまだ試作段階ですが、子どもたちの自己調整学習を支援する効果的なツールになる可能性を感じています。AIを活用することで、子どもたちのメタ認知能力を高め、より深い学びへとつなげられると考えています。
もちろん、課題もあります。例えば、AIの生成するフィードバックの精度向上、多様な学習活動への対応、プライバシー保護の観点からのデータ管理の徹底など、検討すべき点は多くあります。 の途中でもお伝えしましたが、児童一人ひとりのやりとりをスプレッドシートなどにログとして転記させておくことで、指導者である。教師はそれを看取ることができるのかなと思います。テクニカルな部分でまだ 完成には至っていません。 この完成を進めていきたいと思っています。また今後完成しましたら発信をしていく予定です。
まとめ
AIを活用した教育は、まだまだ始まったばかりです。試行錯誤しながら、子どもたちの学びを深めるための新たなツールを模索していく。それが私たち教師の役割ではないでしょうか。
このAIによる「ふり返りチャットボット」が、子どもたちの学びをより豊かにし、先生方の働き方改革にも貢献できるよう、今後も改良を続けていきたいと思います。
そして、この取り組みが、AIと教育の未来を考えるきっかけになれば幸いです。
おまけ特典
最後までよんでいただきありがとうございます。
試作品ですが、このチャットボットを試してみたい方は以下のXリンクから私「ささ」をフォローしてからDMください。
アプリのURLをお教えします。使用感とかアドバイス教えて下さい。参考にしたいです。お願いします。
「子どもと教師の対話ほど深まるものはないけれど、クラス全員との対話を同時にしたいなぁ〜」の一つのアイディアを形に。
— ささ (@zawasasa) October 5, 2024
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