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固まりきれない氷の上に立つように

どんよりとした厚い雲の日々。首都タリンはとうとう最高気温も氷点下となってきた。セントラルヒーティングで暖められた団地の共同玄関を抜けると新鮮な空気が肺を清める。体感気温としては、まず間違いなく、気温が下がるに連れて低く感じるのだか、なぜか氷点下の空気はどこか生命力に満ちているようで一息でシャキッと身体が目覚める音がする。暖房で怠けていた細胞たちが自ら熱を発する、そんな体の強がりが心を温めてくれる。

反対に2,3度といった中途半端な気温が最も寒い。

「これで晴れていてくれれば言うことはないのだが」とぼやきそうになるがこらえた。せっかく雪が積もるようになったのだ。段違いの明るさに自然と会社に向かう足取りも軽くなる。

自宅と会社との間に用水路がある。“胃の形”をした全長25メートルくらいで特になんてこともないのであるが、一部氷が張っている。そこに鳩が立っていた。普段そこを縄張りとしている鴨々のいぬ間に。

なにをしているのだろうか、としばらく(といっても寒いので1分ほど)様子を見ていたが、あまり動かない。水面と氷面の境目の氷側に立ち、水面をじっと見ているように見える。

なぜ氷の上に降り立ったのだろうか。彼に取ってみれば、氷の上に餌がなければ、ましてや水の中に獲物がいるとは考えにくいので、実益がない。泳いでいる鳩なんて見たこともない。水中に顔を突っ込めるとも思えないし、そう考えるとあんな小さな嘴で回遊する生物を射止めるほどの腕利きのスナイパーとも思えない。偶然あたりを散策していて、水を飲もうとしたら“地続き”だったから、そのまま水を求める内に氷の上を歩いてしまったのだろうか。いやあ、そんな間抜けを想定しては鳩に失礼だろう。では、上空から何かが光って見えたから光沢のある昆虫と間違えて降り立ってしまった、はどうだろう。それなら外でスマホを取り出すたびに鳩が突進してきてしまうか。

とりとめのないことを考えている内に、いつの間にか私の視点は鳩になっていた。

「この少し先に同じ物質の、
違う状態が存在し、
私はそれと同じ物質の上に立っている。

私のこの“大地”も
今にそちら側に溶けてしまっても
不思議ではない。

反対により冷えた場合には、
私の大地が拡張する。

そうすれば私は、
飲み水を探す旅に出かける羽目になるだろう。」

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小さなテーブルに花束を/神長広樹
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